第77話 欠陥奴隷はギルドマスターに報告する

「魔族との死闘はどうだったかな」


 部屋に入った俺達を迎えたのは、ギルドマスターの一言だった。

 いきなりの本題である。

 余計な挨拶は不要ということらしい。


 俺は対面のソファに座りながら答える。


「強かった。何度か死にかけた」


「それはそうだろう。無傷で勝てるような相手ではない。あれは想定外だった」


 ギルドマスターは渋い顔で述べる。

 苦い記憶を思い出している様子であった。

 指が一定の間隔で手の甲を叩いている。

 微かな苛立ちや後悔が滲み出ていた。


「戦いを見ていたのか?」


「参戦した職員からの報告だ。あの魔族は秘術による進化を遂げていた。英雄達が敵わなかったのも仕方ない」


「私は楽勝だったわよ」


 俺の隣に腰かけたサリアが悠々と言う。

 いつもの微笑を浮かべたその姿は、紛うことなき真実を語っていた。


 かなり強気な態度だが、サリアの場合は虚勢でも何でもない。

 心底からそう考えているのだった。


 ギルドマスターは嘆息すると、テーブルの紅茶に口をつけながらぼやく。


「魔女サリアが苦戦する存在がいるのなら、是非とも紹介してほしいものだ」


「たぶんどこかにいるんじゃない? 古代の魔神とか」


「笑えない冗談だな」


 ギルドマスターが右目を細めた。

 本当に嫌がっているのが見て取れる。


 サリアなら本当に魔神を呼び出しかねないと考えたのだろう。

 俺もそう思う。


 好奇心の解消と暇潰しのためならば、世界すらも滅ぼしかねない。

 隣に座る魔女はそんな危うさを秘めていた。

 きっと間違った印象ではないだろう。


「君達の戦果については確認が取れている。すぐに追加報酬を出そう」


「疑わないのか?」


「それだけ増えたスキルを見せられれば、嫌でも信じざるを得ないと思うが。英雄の能力も手に入れたようだね」


「糾弾するつもりか」


「まさか。獲得したスキルは君の功績だ。自由に使うといい」


 そう言いながら、ギルドマスターは身を乗り出した。

 彼は真剣な顔で俺に告げる。


「ただ、彼らの死を無駄にしないでほしい。君に責務はないが、人々のために活かしてくれるとありがたい」


「そのつもりだ。俺は英雄を目指している」


「もう十分に英雄だと思うがね」


 ギルドマスターは苦笑した。

 お世辞などではなく、本当にそう考えているらしい。

 そんな評価を貰えたことが、素直に嬉しかった。

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