第45話 欠陥奴隷は情けを捨てる

 俺が反省する間、最後の一人は尻餅をついていた。

 泣き顔になって命乞いを始める。


「悪気はなかったんだ! た、助けてくれぇっ」


 男は慌てて懐を探ると、金を投げ捨ててきた。

 その中には冒険者カードが混ざっていた。

 見れば七級で、槍の使い手であることが判明する。

 いつも同じように行動しているので、他の二人も同じくらいの等級だろう。


(これが七級の冒険者か)


 下から二番目の等級であり、俺も昨日から属したばかりだ。

 同じ等級でこれだけの差があるとは驚きであった。

 いきなり攻撃を仕掛けたとはいえ、あっという間に二人を倒せてしまった。

 ここから察するに、冒険者の等級とは個人の強さの指標にはできないようだ。


 色々と考え事をする俺が隙だらけだと思ったのだろうか。

 降参したはずの一人が攻撃を試みてきた。


「死ねぇ!」


 短槍による刺突を、俺はナイフで弾いて凌ぐ。

 既に【短剣術】を発動済みで、不意打ちだろうと受け流すのは簡単だった。


 相手の剣を奪い取った俺は、首を絞めて殺そうとする。

 その寸前、ふと閃いた。


(せっかくだから、新しいスキルの使い心地を確かめるか)


 俺は男の顔に手を当てて【呪毒の嗜み】を使う。

 すると、手のひらが液体が滲み出す感覚があった。

 ほどなくして焼けるような音が鳴り始める。


「ぐぃああああああぁぁッ!?」


 男がこもった悲鳴を上げる。

 手足を振り乱して暴れるが、俺の腕力にはとても敵わない。

 悶え苦しみながら叫び続けることしかできなかった。


 やがて男は静かになった。

 手を離すと、顔は黒ずんで溶けていた。

 原形が分からないほどに腐敗している。

 スキルによって分泌された呪毒に蝕まれた結果だ。

 なかなかに壮絶な姿である。


 今のは凄まじい威力だったが、効果は調整できそうだった。

 慣れれば様々な応用が利くだろう。

 毒と呪いを操れるのだから便利なものである。


 薄暗い路地裏で、俺は三つの死体を見下ろす。


(あっけなかったな……)


 負傷は覚悟していたのに、実際は圧倒できてしまった。

 サリアばかり見ていて感覚がおかしくなっていたが、俺は想像以上に強くなっているようだ。

 少なくとも三流の冒険者なら、複数人でも倒せる程度の実力らしい。

 慢心は禁物であるものの、この発見は大きい。


 貧民街で虐げられるだけだった欠陥奴隷は、もういない。

 きっとこの出来事は噂になるだろう。

 俺を弱者とする声は無くなっていくはずだ。


「最高の冒険者生活だ」


 英雄の道もだんだんと現実味が湧いてきた気がする。

 俺は微笑みながら死体を漁り始めた。



>スキル【観察】を取得

>スキル【連携】を取得

>スキル【槍術】を取得

>スキル【横暴】を取得

>スキル【調合】を取得

>スキル【強奪】を取得

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