第44話 欠陥奴隷は最弱を脱する

 噴き出した血飛沫が顔にかかる。

 むせ返るような血の臭いだ。


 それを拭う間に、目の前の男は崩れ落ちていた。

 虚ろな目で空を睨んでおり、既に生気が抜け切っている。

 もう瞬きすることすらないだろう。


 他の二人は呆けていた。

 俺のナイフと仲間の死体を交互に見ている。

 現実の光景が信じられないようだ。

 逃げたり反撃といった行動を取らず、ただそこに立っている。


(……この程度なのか?)


 俺は失望に近い感情を覚えていた。

 男達の反応に幻滅したのである。


 今まで暴力を受けた際は恐ろしい存在だったが、こうして見ると何も大したことはない。

 突っ立っている姿は情けないほどに弱かった。

 ただの一つも現状を理解できない馬鹿なのだ。

 そんな奴らに俺が負けるはずがなかった。


 ナイフを下ろした俺は【朧影の暗殺者】を有効化した。

 刹那、どう動けば効率よく殺せるか理解する。

 直感的なものだが、それが間違っていないことを確信していた。

 これこそがスキルの本領である。


 さらに追加で【魔導戦慄】を発動し、実行に足る身体能力を獲得した。

 レベル6という貧弱な肉体はこれで補完される。

 どれほどの効果なのか気になっていたところだ。

 これを試すにはちょうどいい相手だろう。


 身を沈めた俺は、弾みを付けながら二人目の顔に蹴りを放った。

 伸び上がった爪先が、防御されることもなく鼻面に命中する。


 その瞬間、男の顔面が爆散した。

 残骸が飛び散り、頭蓋骨の破片が壁に突き刺さる。


 首から上を失った身体は、くたりと静かに倒れた。

 断面から漏れ出した鮮血が地面を染めていく。

 辺りに漂う血の臭いがさらに濃くなった。


 俺は自分の脚を見下ろして首を傾げる。


(思った以上の威力になったな)


 たくさんのスキルを複合して生み出した【魔導戦慄】は、既にレベル差を無視するほどの性能になっていた。

 まさか頭部を丸ごと吹き飛ばすことになるとは予想外である。

 筋力特化のスキル持ちでも、ここまでのことはできないのではないか。

 少なくとも貧民街でここまでの怪力は滅多にいなかったと思う。


 スキルを強くしすぎるのも考え物かもしれない。

 調整が利かないのは面倒だし、明らかに使い勝手が悪い。

 幸いにもゴーレム戦で【手加減】を取得したので、状況次第でこれを使うべきだろう。


 死体を過度に破壊すると、取得できるスキルが減る傾向がある。

 せっかくの機会を逃すのは惜しい。

 今後はただ殺すのではなく、そういった工夫も覚えなくてはいけない。

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