第35話 欠陥奴隷は特性を活かす

 ゴーレムによる踏み付けが迫ってくる。


 俺は避けながら【溶解液】を有効化した。

 喉奥からせり上がってきた液体を口から噴き出して、ゴーレムの右脚に浴びせてやる。


 命中箇所が白煙を上げて抉れた。

 ゴーレムは体勢を崩して地面に身体をぶつける。


(これで機動力を削いだ)


 成果を確かめた俺は微笑む。

 膝をついたゴーレムが手を伸ばしてきたので、俺はさらに飛び退いて十分な距離を取った。

 そこから【植物操作】を発動する。


 体内の魔力を大幅に消費すると同時に、近くの樹木が蠢き始めた。

 軋みながらゴーレムに覆い被さり、四肢に絡まって動きを制限する。

 さらに俺は指先から【拘束糸】を発射すると、抵抗するゴーレムの手足を結び付けた。

 強引に縛り付けていく。


「くっ……」


 強烈な不快感を覚えた俺はふらつく。

 特殊なスキルを連発したせいで、体内の魔力が尽きそうになっていた。

 基礎ステータスがレベル6のままな上、魔術師の才能なんてない。

 体内の魔力なんて微々たるものだった。

 早い話、無理をし過ぎたのである。


 俺は背中の鞄に手を突っ込むと、取り出した魔力回復のポーションを一気飲みした。

 空になった瓶を投げ捨てて、足りない分は【魔力増強】で誤魔化す。

 これで消費分は補えたと思う。


 ゴーレムは未だに跪いた姿勢だった。

 絡み付いた樹木と糸を相手に苦戦している。

 膂力で破壊しながら脱しようと試みているが、まだ少しだけ猶予がありそうだ。


 俺は【狙撃】【弓術】を有効化して、鏃に【魔力毒】を込めた。

 そして弓を引き絞って放つ。


 矢は正確にゴーレムの頭部に命中した。

 ちょうど光を帯びていた箇所だ。

 急所の破壊には至らなかったが、魔力の毒が頭部に浸透していくのが分かった。


 全身に毒が巡ったゴーレムは動きを止める。

 頭部が痙攣し、片腕の石が崩れて落下してしまった。

 あちこちに不具合が生じているようだ。


(ここで攻め切るしかないな)


 好機と見た俺は【朧影の暗殺者】を使うと、ゴーレムの身体を蹴り上がっていった。

 頭部に到達すると、【鋭爪】で両手に頑丈な爪を生み出す。

 それをゴーレムの首元に引っかけてぶら下がった。


 俺は間近でゴーレムの顔を観察する。

 石の隙間に宝玉が覗いていた。

 あれが魔力の発生源で、ゴーレムの中枢――すなわち急所である。


 そこまで確かめた俺は【刺突】【破撃】【乾坤一擲】を発動し、宝玉に向けて渾身の爪を叩き込んだ。

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