第30話 欠陥奴隷は森の脅威に対応する

 俺とサリアは引き続き森を進んでいく。

 日没はとっくに過ぎており、辺りは闇に包まれていた。


「そろそろ必要ね」


 サリアが魔術の光を起動し、浮遊させて俺達の周囲を照らす。

 もっとも、光量は心許ない。

 おそらくわざとだ。

 彼女なら周囲を昼間みたいにすることだって可能に違いない。


 それをやらないのは俺を鍛えるためだ。

 至れり尽くせりでやりすぎると、俺のためにならないと考えている。


 まるで師匠のような振る舞いだった。

 サリアなりの優しさなのだろうか。

 この魔女の考えていることは未だによく分からない。

 きっと俺には理解不能な思考回路をしているのだろう。

 考えたって無駄な気がする。


 警戒して進む俺は、ふと足を止めた。

 探知系スキルに反応があったためである。

 それは頭上に潜む存在を示していた。

 反射的に注目すると、枝の隙間に魔物の影を見た。


(あれは?)


 糸を垂らして下りてくるのは、丸々と太った蜘蛛だった。

 赤と黒の模様で、一対の牙を噛み合わせて音を鳴らしている。

 蜘蛛はいきなり糸を吐いて飛ばしてきた。


「うわっ!?」


 俺は紙一重で回避する。

 咄嗟に対応できたのは、常時発動にしている各スキルのおかげだろう。

 転がりながら蜘蛛の動きを注視する。


 蜘蛛は糸を支えに吊り下がっていた。

 それ以上は接近せず、俺達との間合いを保っている。

 たぶん中距離からの攻撃が得意なのだろう。


 ちなみにサリアは、自前の魔術の壁で糸を防御していた。

 笑っているばかりで蜘蛛を攻撃しようとしない。

 やはり戦いを見守る姿勢のようだ。


(やるしかないか)


 俺は【弓術】を有効化し、先ほどのホブゴブリンから奪った弓矢を取り出した。

 指先から【痺れ毒】の粘液を分泌して鏃に塗る。

 加えて使えそうなスキルで威力を底上げすると、蜘蛛を狙って放った。


 矢は蜘蛛の胴体に命中した。

 弓は初めて使ったが、スキルの補正で上手く操ることができたのである。


 重傷を負った蜘蛛はひっくり返って落下して地面に激突した。

 そのまま脚を動かしてもがき苦しんでいる。

 毒のせいで動きを制限されており、反撃もままならないらしい。


 俺は近くに転がる石を拾うと、蜘蛛を踏み付けて何度も石を叩き付けた。

 相手は抵抗できない魔物だ。

 しつこく攻撃し続ければ、簡単に撲殺することができた。



>スキル【魔力毒】を取得

>スキル【拘束糸】を取得



 蜘蛛の象徴的なスキルが手に入った。

 どちらも魔力を消費して毒や糸を出せるようになるそうだ。

 魔術に近いものの、もっと原始的な能力だろう。


(これは意外と便利なんじゃないか?)


 少なくとも人間が取得できるスキルではない。

 それを扱えるのは俺の特権だ。


 森は魔物特有のスキルが増える。

 認定試験の合格が目的だが、これは俺にとって宝庫なのではないだろうか。

 危険な場所には違いないものの、かなり楽しめそうだ。

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