第29話 欠陥奴隷は奇襲を受ける

 首を貫かれる激痛に、息ができずによろめく。

 目を見開いた俺は、矢を放ってきた相手を凝視する。


 木陰に潜むのは、黒い肌のホブゴブリンだった。

 手に持った矢で俺を射抜いてきたのである。


 よく見ると全身に泥を塗っていた。

 肌が黒いのはそのためだ。

 体温や臭いを誤魔化すために違いない。

 夜間の森に溶け込む色合いは、まるで暗殺者のようだった。


(やられた……っ!)


 俺は猛烈な痛みに歯噛みする。

 倒れそうになるも、根性で耐えた。

 構えたナイフを握り込んだまま、ホブゴブリンへと突進していく。


 ホブゴブリンはすぐさま第二射を用意しようとした。

 俺はその前に【朧影の暗殺者】を有効化する。


(おっ、何だ)


 途端に自分の気配が希薄になるのを感じた。

 ホブゴブリンがぎょっとして、慌てて首を振って辺りを睨み始める。

 その目は明らかに俺を見失っていた。


 スキルの効果で認識の外へと外れたのだ。

 ただし、長続きするものでもないので、さっさと倒さなくては。


 俺は真正面からホブゴブリンに接近して跳びかかった。

 その際に【反撃】【一撃必殺】【刺突】【首狩り】を発動する。

 多重のスキル補正が乗った刃を振りかざし、ホブゴブリンの喉頭に叩き込んだ。


「……ンィギァッ!」


 ホブゴブリンが血を吐きながら倒れた。

 俺は押し倒すようにナイフを押して、首の半ば以上を切断する。

 致命傷を受けたホブゴブリンは間もなく絶命した。

 返り血を浴びる俺は、折れたナイフを捨てて死体に触れる。



>スキル【急所狙い】を取得

>スキル【狙撃】を取得

>スキル【弓術】を取得



 取得した能力から考えるに、ホブゴブリンはかなりの強敵だったらしい。

 しかし、詳しい考察をしている余裕はない。

 今にも死にそうなのだ。


 俺は首に刺さったままの矢を掴んだ。

 一瞬の躊躇いを覚えながらも、強引に引き抜く。


「痛ぇな、畜生……」


 俺はすぐさま【高速再生】を有効化した。

 噴き上がる鮮血はすぐに鈍化し、痛みが嘘のように消える。

 首を撫でてみると、既に傷口は綺麗に塞がっていた。

 血に濡れていることを除けば、矢に貫かれた痕跡は無くなっている。


(思ったよりも凄まじい効果だな)


 このスキルがあるからこそ、素早く反撃に移れたのだ。

 想像以上に便利で嬉しい。

 同じ系統のスキルを掛け合わせて、さらに強化すべきだろう。

 生存に直結する能力は、どれだけ優秀でも困らない。


 ホブゴブリンの死体から弓と矢を奪っていると、草むらを分けてサリアがやってきた。


「重傷でもすぐに治るのね。並の魔術師より多彩なんじゃないかしら」


「痛みはあるから、なるべく負傷したくないがな」


「それくらい慣れるべきね。英雄になりたいんでしょ?」


 サリアが諭すように言ってくる。

 残念ながら俺に反論の余地はなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る