第28話 欠陥奴隷は鍛練に励む

「ここだァッ!」


 俺は叫びながら踏み込む。

 一瞬の隙を見極めてナイフを突き出し、ゴブリンの首筋を抉った。


 噴き出す血飛沫。

 棍棒を掲げたゴブリンは白目を剥き、倒れて動かなくなる。

 首の傷から血が流れて、地面に染み込んでいく。


 息を荒げる俺は死体に触れる。



>スキル【暴力】を取得

>スキル【大声】を取得



 どちらもあまり使えそうにないが、俺の場合はスキルの合成がある。

 他と混ぜた場合、効果を増幅してくれるかもしれない。

 そういった期待が持てるのでまだ良かった。


 死体の腰袋を漁っていると、サリアが俺の頭を撫でてきた。


「いいわね。だいぶ慣れてきたんじゃないかしら」


「スキルの効果に頼っているだけだ」


「だとしても上出来よ。普通のレベル6は魔物と戦えないもの」


 サリアが微笑みながら言う。


 森に入ってからそれなりの時間が経った。

 辺りはすっかり暗くなって、夜が始まろうとしている。

 その間、俺は散発的に遭遇するゴブリンを倒しながら進んでいた。


 ついさっき取得したばかりの【器用】のおかげか、それなりに戦えるようになってきた。

 身体の動かし方や、ナイフの扱い方が感覚的に分かるのだ。

 回数をこなすごとに上達するのが確信できた。


 ゴブリン一体が相手なら、もう危なげもなく勝つことができる。

 純粋な身体能力でも負けていないだろう。

 新人冒険者としては十分だと思う。


 俺の持つ【死体漁り+】についても新たな発見があった。

 死体の持つスキルが取得済みのものと重複していると、重複分のスキルが強化されるらしい。

 新規でスキルを獲得できる機会は少なくなったが、これはこれで悪くない。

 地道に死体に触れ続けることに意味があるということだ。

 今後はスキルの数だけでなく、質も高めていきたい。


「道はこっちで合っているのか?」


「ええ、問題ないわ。果実の魔力を感じるから」


「果実が魔力を発しているのか?」


「そうよ。説明書にも書いてあったわ」


 ミアナの先導で森の中を進んでいく。

 流し読みだったので気付かなかったが、ギルドマスターに渡された紙片にはそういった情報も記載されていたらしい。

 冒険者の素質とは、このような面も指しているのかもしれない。


 俺みたいに大雑把では、大切な情報を見逃して死んでしまうのではないか。

 ギルドマスターの助言通り、読み書きはなるべく早めに覚えた方が良さそうだ。


(言語系のスキルが取得できれば楽なんだけどなぁ……)


 俺は胸中で愚痴る。

 勉強はどうにも苦手だ。

 せっかくなら読み書きもスキルで何とかしたい。


 その時、視界の端で何か光った。

 不審に思った俺は足を止める。

 木陰から覗くそれは、鋼鉄製の鏃だった。

 直後、それが風を切りながら飛来する。


「何……っ!?」


 放たれた矢は一直線に突き進んでくる。

 完全に虚を突かれた俺は動けない。

 鋭い軌道で迫る矢は、見事に俺の首に命中した。

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