第17話 欠陥奴隷は新たな能力を見つける

 その日の夜、俺はサリアの隠れ家で一泊した。

 本音を言うとすぐにでも脱出したかったが、彼女とは英雄になるため手を組むと決めてしまった。

 嬉々として誘われたので、どうにも断れなかったのである。

 夕食も勧められたが、食欲が湧かなかったので遠慮した。


 提供された部屋は埃だらけで、雑多な道具類が詰め込まれた場所だった。

 まるで物置のようだが、今まで寝泊まりしていた環境に比べれば天と地の差がある。

 少なくとも貧民街の住人に襲われる心配をしなくていいし、大きなベッドも置かれていた。


 隣室にサリアがいるのが唯一の懸念事項だろうか。

 もっとも、俺の不安とはよそに特に彼女からの接触はなかった。

 諸々の疲れもあってか、夜はゆっくりと眠ることができた。


 そして翌朝。

 板張りされた窓の隙間から注ぐ日光で俺は目覚める。

 伸びをするも、身体がまったく痛くない。

 スキルの効力の他に、ベッドで眠ったからだろうか。

 やはり生活環境は大切らしい。


「さて……」


 昨晩は有用なスキルをたくさん取得した。

 いずれも検証してみたいが、とても気になるものがあった。


 それは【複合】というスキルだ。

 変異スライムの失敗作から得られたもので、効果説明を確かめてみたところ、他のスキルとは明らかに違った。

 このままベッドから起きてサリアに挨拶をしてもいいが、先に試してみることにした。

 俺は脳裏にステータスを展開させて、説明通りに弄っていく。



>スキル【不意打ち】【奇襲】を複合

>スキル【影の強襲】を取得



 新スキルによる検証は無事に成功した。

 俺はベッドの上で静かに拳を握り締める。


 新たに手に入れた【複合】の内容は、所持スキルを合体させるというものだ。

 変異スライムの特性がスキルになったものである。

 試しに使ってみたところ、特に失敗せずに使うことができた。


(これはとんでもない効果かもしれない……)


 複合に使ったスキルは消滅し、新たなスキルが所持欄に追加されていた。

 複合前と比べて強力になっていそうで、スキルが一つになったことで操作も単純になっている。

 色々と試さないと分からないが、似た系統のスキルを組み合わせるのが良さそうだった。

 ただし、やり直しが利かないので選定は慎重に行わなければ。


 俺は所持スキルを確認し、目に付いた二つをかけ合わせてみる。



>スキル【闇討ち】【暗殺】を複合

>スキル【闇夜の暗殺】を取得



 今回も成功し、上位互換のスキルに変貌している。

 総合力の低い俺は、まだまだ卑怯な手を使わねばならない。

 暗殺の技能が高まるのは良いことだった。


 そこで俺はふと閃く。


(複合したスキル同士も合体できるのか?)


 せっかく思い付いたのだから、試さない手はないだろう。

 俺は期待を込めながらさらにステータスを操作する。



>スキル【影の強襲】【闇夜の暗殺】を複合

>スキル【朧影の暗殺者】を取得



 結果はやはり成功だった。

 目論見通り、複合したスキルはさらに複合できるようだ。

 見事に四つのスキルを内包した能力が誕生した。


 試しに発動してみると、体感だが元の数倍の効果になっているようだった。

 明らかにスキルとしての強さが跳ね上がっている。


(こいつはいいぞ)


 大量のスキルを獲得できる俺にとって【複合】は相性が抜群だった。

 スキルの総数も減るため、戦闘中の調整も簡単になっている。

 今後のスキル取得がますます楽しくなりそうだ。

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