第14話 欠陥奴隷は夢を語る

 俺はサリアの言葉に困惑する。

 彼女が常に予想外なことをしてくるが、今度ばかりは驚きも最高潮だった。

 なぜそのような提案をするのか、さっぱり分からない。


「俺が助手? どうしてそんな話になるんだ」


「最近、ちょっと退屈だったのよね。だから暇潰しになる子を探していたの」


 そう言ってサリアは簡単な経緯を説明する。

 あまりにも暇を持て余していた彼女は、死体で助手を作ろうとしていたらしい。

 思い付きから廃棄場に忍び込んだところ、俺と出会ったという。

 結果、死体での助手作りから方針を切り替えたそうだ。

 色々と肝心な部分が飛躍しているが、詳細を説明する気はないようだった。


「助手と言っても、別に何か手伝ってもらうわけじゃないのよ? むしろその逆かしら」


「逆?」


「ええ、あなたの夢の達成を手伝いたいわ」


 サリアは蕩けるような笑みで言う。

 俺はなんとなく嫌な予感がした。

 すぐにでも逃げ出したくなったものの、冷静になって質問をする。


「どうして手伝いたいんだ」


「言ったでしょ、暇潰しだって。長生きしていると、退屈が一番の敵になるのよねぇ。本当に困ったものよ」


 サリアが大げさにため息を洩らす。

 そして何を思ったのか、唐突に俺を指差した。

 彼女は指を回しながら楽しそうに語る。


「死体漁りの欠陥奴隷。とことん弱いくせに、なぜか生き延びている男の子。たまに噂は聞いていたわよ」


「それは光栄だ」


 俺は皮肉を返す。

 欠陥奴隷のあだ名がそこまで有名とは思わなかった。

 サリアに知られて嬉しいとは感じられないが、おかげで今回は殺されずに済んだ。

 そう考えると、今回ばかりは幸運だったと思わざるを得ない。

 最弱の称号もたまには役立つらしかった。


「ねぇ、ルイス君。あなたには何か目的はある?」


 サリアが顎に指を当てて質問をする。


 俺はそこで気付く。

 気楽な口調だがサリアの目付きが変わった。

 何か本質を探るような眼差しだ。

 いい加減な答えは許さないとでも言いたげであった。

 柔和な微笑を浮かべたまま、酷く恐ろしい雰囲気を帯びている。


「…………」


 俺は発言を躊躇するが、サリアはいつまでも答えを待つだろう。

 下手な誤魔化しは絶対に駄目だ。

 そんなものを目の前の魔女は望んでいない。


 沈黙の末、俺は正直に答えることにした。


「――英雄になりたい。冒険譚が語り継がれるような英雄だ」

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