第15話 欠陥奴隷は魔女と手を組む

 サリアがきょとんとした顔をする。

 続いて天井を見つめながら考え込んだ。

 視線が戻ってきた時、彼女はゆっくりと俺に問いかける。


「英雄? あなたが?」


「馬鹿にすればいいさ。それでも決めたんだ。こうしてスキルが進化したのだから、きっと不可能じゃない……と思う」


 俺は本音を吐露する。

 サリアを相手に主張するのは少し恐ろしいが、隠さずに伝えると決めたのだ。

 恐怖を押し殺して、秘めてきた想いをすべて告げる。


「…………」


 サリアは沈黙する。

 彼女は人形のように無表情だった。

 ところが次第に目が輝き始めて、ついには頬を紅潮させながら立ち上がる。

 彼女はテーブルを跳ね除けて詰め寄ってくると、俺の手を取って笑った。


「最高じゃない! とても良い目的だわ」


「……えっ?」


「欠陥奴隷が英雄を目指すなんて、すごく素敵じゃないの。応援したくなっちゃう」


 サリアは早口で語る。

 固まる俺なんて見えていないかのようだった。

 何がどう感動したか分からないが、俺の覚悟はサリアの心に響いたらしい。


「決めたわ。あなたと一緒に、私も英雄を目指してみるわ」


「――は?」


 俺は口を開けて思考停止する。

 話の流れについていけない。

 サリアが何を言っているのか分からなかった。


 俺の困惑も無視して、眼前の魔女はすっかり自分の世界に入り込んでいた。


「そういえば私、英雄になったことがないのよね。気まぐれで宮廷魔術師をやったことはあるけど、すぐに辞めちゃったし」


 腕組みをするサリアは小声で呟く。

 真剣な顔から察するに、自分が英雄になることを検討している。

 飄々とした態度は完全に消え失せていた。


 やがて思考を終えたサリアは、ソファで呆気に取られる俺を見る。


「ルイス君」


「な、何だよ」


 俺は仰け反りながら応じる。

 涼やかに笑うサリアは、色白のほっそりとした手を差し出してきた。


「あなたとなら、良い暇潰しができそうだわ。一緒に頑張らせてもらってもいいかしら?」


「…………」


 俺は差し出された手を見つめる。


 色々と圧倒されているものの、サリアの要求を断れるはずがない。

 俺にとっても有益な話なのだ。


 思考の過程は意味不明だが、あのサリアが仲間になってくれる。

 これほど心強いことはない。


 貧民街では常に虐げられてきた俺だが、今後は立場が一転しそうだった。

 少なくとも【死体漁り+】によるスキル取得が非常に捗るだろう。


 これからの生活を想像した俺は、晴れ晴れとした気分でサリアの手を握るのであった。

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