第6話 欠陥奴隷は死体を探し求める

 買い物の後、俺は夜まで廃屋で仮眠を取った。

 目覚めると全身の傷は消えていた。

 回復ポーションと新たに取得した【自然治癒】【休眠】の効果だろうか。

 あれだけの怪我が嘘のように体調が良い。


 気分の良くなった俺は、その足で街の片隅にある処刑場へと赴く。

 貧民街からでもそれほど時間はかからなかった。

 路地から路地へと人目を避けながら進む。


 到着した処刑場には誰もいなかった。

 この時間帯には使われないのだ。

 だいたい朝か昼が多い。

 こびり付いているのか、血の臭いが鼻を掠めていく。


 ここには兵士もいない。

 当たり前だ。

 特に価値のある物は置かれていない。

 故に用事がなければ誰もやって来なかった。


 俺は処刑場を突っ切って隣接する廃棄場に移動する。

 土が剥き出しとなった広い空き地には、さらなる異臭が立ち込めていた。

 消臭目的で細かく刻んだ薬草が撒かれているが、あまり役に立っていない。

 慣れていなければ吐いてしまうと思う。

 俺は貧民街に住んでいるので、そこまで気にならなかった。


 廃棄場にはいくつか大きな穴が掘ってあった。

 覗き込むと、大量の死体が確認できる。

 目を凝らして奥を見れば、腐乱死体や白骨死体も混ざっていた。


 ここには処刑された罪人を捨てる場所だ。

 まとめて火葬し、たまに別の場所へ運搬するのである。

 運ばれた死体の用とは知らないが、たぶん魔術の資材にでもするのだろう。

 人間の死体を用いた術は珍しくないらしい。

 以前、貧民街の死霊術師が自慢げに語っていた。


(まあ、俺には関係ないか)


 大切なのは、ここに死体が大量にあるということだ。

 俺は穴の中に飛び降りると、悪臭に顔を顰めながら死体を物色し始める。

 他人からすれば無価値だろうが、俺にとってはまるで宝探しだ。



>スキル【命乞い】を取得

>スキル【降伏】を取得

>スキル【首狩り】を取得



 最初に触れたのは、腐敗がそれほど進んでいない死体だ。

 やたら弱気なスキル構成と思いきや、最後の一つで印象が逆転する。


 死体のスキルからは色々な事実が判明する。

 それぞれに特徴があり、見ていて飽きなかった。

 取得できる分が生前のすべてではないかもしれないが、戦い方はなんとなく分かる。


 この死体は、暗殺者のような戦法を好んでいたのだろう。

 生前に出会うことがなくて良かったと思う。



>スキル【魔力増強】を取得

>スキル【魔力感知】を取得



 誰かの生首からもスキルが得られた。

 埋もれてしまっているのか、身体は見つからなかった。

 得られたスキルからして魔術師だったのだろうか。


 現状、俺は魔術を使えない。

 ただし、いずれ関連スキルが得られるかもしれない。

 だから今回のスキルも無駄にはなりにくいと思う。


 今のままでも【魔力感知】は便利だろう。

 敵の位置を掴むのに役立つ。

 既に感知系スキルはいくつか持っているものの、複数の方法で確かめられるのは有用なはずだ。



>スキル【見切り】を取得

>スキル【防御】を取得

>スキル【回避】を取得



 右手のない白骨死体は、元は冒険者か戦士だったらしい。

 敵の攻撃を凌ぐことに特化しており、どれもありがたい効果だ。

 傷を受けるか否かは、生存に直結してくる。

 一撃が生死を左右することなんて珍しくない。

 どれも常に有効化しておくべきだろう。



>スキル【逃走】を取得

>スキル【窃盗】を取得

>スキル【交渉】を取得

>スキル【詐術】を取得



 この死体は詐欺師か、もしくは悪徳商人に違いない。

 戦闘で使えるスキルは少ないが、いざという時に活躍してくれそうなものばかりだった。

 暴力だけでは切り抜けられない場面もある。

 そういった際に頼ることになるだろう。


 廃棄場はやはり宝庫だった。

 様々なスキルを持った死体が放置されている。

 状態が悪い死体が多いものの、それを気にしないほど量が多い。

 探せばどんどんスキルが増えそうだった。

 通い詰めるだけの価値は間違いなくある。


 興奮する俺は懸命に死体を漁る。

 新たなスキルを求めて作業していると、穴の外から足音がした。


「……っ」


 俺は途端に緊張して手を止めた。

 慎重に穴から顔を出して、足音の正体を確かめる。


 少し離れたところに人影が立っていた。

 青紫色のローブに白い肌。

 淡い緑色の髪が揺れる。

 薄い笑みを浮かべるのは、長身の美女だった。


「あら、先客がいるじゃない。どなたかしら?」


「…………」


 俺は沈黙する。

 震えて言葉が出ない。

 膝から崩れ落ちそうになったので、なけなしの精神力で耐える。


 こちらを見つめる美女を俺は知っている。

 とても有名だからだ。

 彼女は、貧民街で絶対に敵に回してはいけないと言われる魔術師であった。

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