第50話

◇◇ いよいよ 前夜祭


3人の交際申込者宅を訪問した翌日から、本格的にクーガの練習が始まった。



新人戦に出場するのは同じクラスの者なので、授業の合間に雑談でも色々な事が話せたが今週からは初等学部の練習にも参加しなくてはならない。 今日は練習の顔合わせだ! 男女10人づつだ



放課後、カールは初等学部の顔合わせの場所に向かった。 既に何人かの初等学部の代表選手が集まって居た。


初等学部でも代表に選ばれるのは、初等学部の最終学年の生徒ばかりである。 既にデビュタントも済ませている子もいた。



「あら 君は今年の新入生ね ここは新人戦の代表が集まるところでは無いわよ」新人戦の代表となった生徒が毎年、間違えて集まる事があるのだ。 お姉さま方は優しく声を掛けてくれるのだがカールとしたら苦笑いをするしかなかった。



初等学部に於いて新入生と最終学年との間には明確な格差が存在した。 まして成長の早い女性ではその差は顕著であった。



「はぃ ありがとうございます 僕はカール・フォン・アーレンハイトと云います。 新人戦の代表でもありますが、この度 学院長と生徒会からの命令で初等学部の代表にも加わる様に指示をされて来ました。」



学院始まって以来の事に少しざわついていたが、初等学部のリーダーであるサリー・フォン・ブラッドリが声を上げた「あ そう云えば 生徒会役員のお姉ちゃんが 私達、初等学部のメンバーに今年の新入生が加わるって話してたわ! 何でもフラッグに加わるって!!!」



フラッグに加わると聞いて、更に騒がしく成ってきた。 フラッグはクーガの花形である フラッグこそクーガで有ると云う人もいる。 そのフラッグに新入生がメンバーとして加わるのである 騒がない方がおかしい!



「ねぇ~ 君! カール君って云ったわよね」



「カール君って 生徒会長のカトリーヌ様の弟?」


「まぁ~ そうなりますね」


「あぁ~~ぁ 生徒会長様のコネか? それもフラッグだぜ  参ったな!」



「あ~ 皆さん 多分 このままだと、納得できないですよね」



「当たり前だ!!!! 特にフラッグは学校の威信が掛かって居るんだ 新入生のガキに任せられるかってんだ!」



「そこで、皆さんに提案何ですが 良いでしょうか?」



「はぁ~? 提案?」



「はぃ 提案です これから皆さんと模擬戦を行って、納得が出来ないようなら 僕の代表資格を取消すように生徒会長に提言をすると云うのはどうでしょう?」



「何を言い出すかと思えば バカバカしい お前みたいなチビの新入生が俺たち上級生に敵う訳が無いだろ! 常識を考えろよな」



「だからです もし、僕が皆さんと模擬戦を行い実績を示せば皆さんも納得が出来るのではないでしょうか?」



「しょうがないな! やってやるか?」



「で どうやるんだ?」



「はぃ 初等学部が割り当てられているクーガ練習用の施設を使ったらどうでしょうか?」



「よし で お前は。。。。 カール君だっけ? 君の得意は何だ? それで相手をしてあげるよ!」



「先輩 ありがとうございます でも、ご心配に入りません 一応 全てを熟せます」



こうして生意気な新入生に分相応な態度を弁えさせようと上級生たち20人はクーガ練習場に向かった。



本当はフラッグの代表選手だけの筈だったのだが、興味に惹かれ全員が付いてきたのである。



「ねぇ~ サリー! カール君だっけ 大丈夫なの? もう男子が騒いじゃっているけどさ」



「う~~ん それがね サーシャ姉様の話だとカール君って物凄い実力者らしいのだけど、何が専門なのかは分からないらしいのよね?」



「何? それで生徒会推薦なの? まぁ~~良いわ これからカール君の実力を皆で確かめましょ ちょっと楽しみ!」



完全に野次馬と化したフラッグ代表以外は気楽に話し出した。



「では始めましょ  カール君 一応 私が初等学部のリーダーだから審判をするわね」



「模擬戦はカール君の実力を知りたいって云ってた リンツ君とランベール君だけど ルールはどうする?」



「ルールは先輩にお任せいたします。」


「そうか では リーダーのサリーが適当に判断してくれ 俺はその判断に従う!」



「判りました ブラッドリ先輩 宜しくお願いします。」



こうして始まった模擬戦だったが 初めは大人しく 1対1の対戦だったのだが、次第に1対2に成り 最後はカール対初等学部の対戦になっていた。 



始めは面白半分に付いてきていたクーガ代表だったのだが、カールの実力が段々と分かるにつれて対戦希望者が増えた結果だった。



でも、まさか新入生のカールに初等学部の全員が負けるとは思っても見なかった事だろう。



「あ そう云えば カール君って中等学部主席で将来の生徒会長のアンネ・フォン・グリューネ様から交際を申込まれたって本当ですか?」



「え~ アンネ・フォン・グリューネ様の噂の相手がカールだったのか。」



「それにしても、カール君は強いな! 何だか次元が違うって感じだったな まぁ 宜しく頼む!」



こうして、カールは初等学部の代表全員に認められ練習に加わる事が正式に許された? 。。。 実際には初等学部の全員がカールに教わる立場に成ったのだが。



最初に顔合わせを行った部屋に戻り、正式に挨拶が行われた。



「改めてご挨拶を致します。 カール・フォン・アーレンハイト今年の新入生です 宜しくお願いします」



「私が今回、初等学部のリーダーを務めるサリー・フォン・ブラッドリよ 分からない事は何でも聞いて頂戴ね」



「私はリシテア・フォン・コーデリア これでも家ではかなり強い方なんだけどな~ぁ」


「次は私ね 私はクローディア・フォン・オックスよ 確かにリシテアはコーデリア流武術の家だものね そのリシテアより強いってどうなって居るの?」



あははは 笑って誤魔化すしかない。



「俺はリンツ・フォン・コンラートだ! 確かにな 俺だってリシテアには敵わないからな!」


「でもこれで今年はって。。。 あ 俺はランベール・フォン・バーバルだ もしかしてマティルダ様に剣術とか武術を習ってた?」



「あ~ぁ そうか だったら分かる気がする! で最後の俺がカルロス・フォン・ファーガスだ 宜しくな」



こうして自己紹介が終わった後にこれからの練習方法の発表がリーダーのサリーから有ったのだが、カールから提案がなされた。



提案は新入生のレベルアップも兼ねて、合同で練習をしたいと云う物だった。 カールとしては別々に練習してアドバイスをするより、一緒に練習をしながらアドバイスをした方が効率が良かったからだ。



新入生にとり初等学部の先輩は雲の上の存在であり、全く歯が立たなかった。 初等部の先輩にとっては既に一度は通った試練である 新入生に負けるはずが無かった。。。



「こうして新入生と練習をしてみて分かるが、カール君は本当にどうなって居るんだ?」



「本当よねぇ~ ひょっとしてカール君の女神ディアナ様より授かった聖紋が私達と違うのかもね!」


何気ない一言だったのだが、カールが動揺するには十分な言葉だった。



カールにしたら、もう2年も前に行われた目覚めの儀式で女神ディアナに会い、真実を告げられたと共に前世の記憶を蘇ったのだから動揺しても仕方が無かった。



「先輩! もし、先輩が中等学部の代表や高等学部の代表と練習をしたらきっと今と同じ状態になると思いませんか?」 カールは何の脈絡もなく誤魔化しにかかった。



「先輩方にとり新入生は何処どこもも彼処かしこも隙だらけな存在です それと同じで中等学部の先輩や高等学部の先輩からすれば初等部の先輩も隙だらけの存在と云う事です。」



実はカールの発言だがカール自身が既に中等学部の先輩や高等学部の先輩と同等以上の実力があると云う事なのだが、実際に戦った後だけに違和感を感じていなかった。



今迄は言葉で説明をしても実感として理解できなかったのだが、新入生と練習する事で自分達も同じであると実感が出来きてきた。




こうして、新入生にとっては格上の上級生との練習で確実にレベルアップが図られ、初等学部の先輩達は自分達も高位の存在からすれば未熟な存在であると知り カールからの指導を素直に受けていた。



かくして、新入生、初等学部の代表も確実にレベルアップが図られクーガのイーストウッド大陸予選を来週に向かえる事と成った。



クーガの大陸予選は各国が順番に会場を提供していた。 イーストウッド大陸には6つの国が存在していた。


カール達が居るハイランド王国はイーストウッド大陸最大の王国だった。 そしてエルフ族が首長を務めるモナード公国に獣人族が治めるホールミア獣人帝国、宗教が盛んなローランド聖王国、10の小国からなるコーラル連邦となり最後が魔人族が治めるディノス帝国の6か国となる。



今年のクーガはハイランド王国で予選が開催される事に成って居た。



会場は近衛騎士団の演習場が提供されることになって居る。 近衛騎士団はハイランド王国でも精鋭揃いの為、絶えず視察等が行われる為に演習場の周りには見学席が用意されていた。



また、各国から集まった代表選手は近衛騎士団が各国からの要人警護として訪れた騎士たちを泊める為の施設を使用する事に成って居る。



今週末には前夜祭が始まる、但し前夜祭に出場できるのはデビュタントを終えている初等学部の最上級生と中等学部と高等学部の生徒たちだけである。 生徒とは云え各国の代表である男女が一堂に会するのであるデビュタントの有無は必須であった。



この前夜祭で有るが将来の伴侶を見つけると云う意味合いも含まれての事である。



来週から始まる前夜祭がクーガを前に、今だけは勝者も敗者も存在しない穏やかな内に始まった。



 始めにクーガの運営委員会たちのスピーチから始まり各国の要人の話に続き、各ギルド長からの話へと続く そしてハイランド王国があるイーストウッド大陸を担当している大司教のエリザベート・イーストとなり、最後がハイランド国王のハンス・フォン・ハイランドの話で終わった。 後は学生たちの活躍の場である 各自が自分を売込でいく 



ハイランド王国の代表団を率いるカトリーヌは既に中等学部から出席しているので各国には顔が売れている。 そして今年は代表団を率いる身である 気合が入るのも仕方が無かった。



クーガは各学部毎に代表選手が分かれているが、その中で新入生だけは更に分けられて居る


この特別な新入生だが、どうしても種族の特性として優劣が出てしまう。



実際に天才と謳われたカールの母アグネスも新入生の時は優勝が出来なかった、勿論 剣技の天才として名を馳せているマティルダも同じである。



クーガの魔法部門はどうしても、魔法に優位性を発する、エルフ族や魔族に軍配が上がってしまう。 また、剣技や武技は獣人族に軍配が上がる傾向があった。



カトリーヌは各国の生徒会長の許へ挨拶に回りながら、代表団を率いるのが今年で密かに喜んでいた。 例年で有れば、新人戦は戦力外と云えたが今年は優勝が狙えるのである 更に初等学部のフラッグも優勝が狙える。 この二つは今までに無い加算ポイントであった。



いま この時点ではカールの存在自体、各国は知らない 最高の優位性を今年は誇って居たのだ。



かつて、カールの母アグネスやマティルダも同じだった。 新人戦で優勝こそ逃したが人族で準優勝に輝き将来への輝きを見せた事で、翌年から卒業するまでマークされ対策を次々と建てられたのを全て跳ね返して優勝をもぎ取って居た。



カールはそんな母達と同じ道を歩む事に成る。各国からマークされ対策を練られる存在にだ。


違う所はカールは新人戦も優勝が狙えることだ。 もし優勝をしたら母達以上のマークが予想される。



そしてクーガの優勝 黄金世代と云われた母達の再現がここに始まると思うとカトリーヌは自然と笑みが毀れてくるのだった。



さぁ~ クーガのイーストウッド大陸予選開始だ!

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