第1話【改訂版】
おっす、みんな! 今回はお待ちかね、物語回だよ!
第1話を現状に合わせて加筆修正してみたよ。拙者が最も苦しんでいた頃に作り出した妄想ね。古参のみんなには懐かしいかもしれないね。
ちょっと風邪ひいたっぽいんだけど。ここのところ暑かったり寒かったり忙しなかったからねえ。あと、先日のお出掛け行事が地味にキツかった。
佐久間さんと織部ってこんな人たちってやっと紹介できるね。やっと忍イケのタイトル回収できるよ。この頃の拙者はまだ32歳だったけど、もう2回もタイトル更新してるよ。だからいまのタイトルは年齢詐称なんだよね。まあいいけど。33歳になる年に始めたものだから。
忍イケは2023年1月、失業から始まった。この頃から変わったことがいっぱいあるね。良くなったんだかなってないんだかって感じだけど、少しはマシになったんじゃないかなって思うよ。
これから度々、物語を加筆修正しつつ再公開していくよ。織部に自分の感情を投影した物語、よかったら見てやってね。
【第1話】
舞台は『三日月川大橋』のてっぺん。
一番高いところから海にダイブしようと思う。
と、ヘッドホンでオーケストラを大音量で流しながら橋を登って行く。
けっこうキツい……これほどまでに体力が落ちているとは……。
思えば、これまでの32年半、何ひとつとして良いことがなかったな。
いや、ちょいちょいあったけど、上げて落とされたからな。
でも悪いことばっかりなのは、私の頑張りが足りないからなのかな。
良いことは、頑張ってる人にしか訪れないのかな。
一度でいいから誰かに心から愛されたかったなあ……。
私は愛される人間ではなかったんだなあ。
愛されてるって実感しながら安心して生きたかったなあ。
はあ――涙出るわマジ。
私の心とは裏腹に爽やかな青空が広がっている。
絶好の飛び降り日和である。
さて、やって来たぜ三日月川大橋のてっぺん。
うわ~たけー……。
遠くから見てても思ってたけど、やっぱり高いな。
この高さから落ちれば、たぶん着水の衝撃で気絶できると思う。
いや、着水の衝撃で死ぬのかな?
どちらにせよ、怖いのも苦しいのもきっと一瞬だ。
ふむ、雄大な海とオーケストラの相性はばっちりだな。
この曲の最高の盛り上がりで行こうかな。
???
「おい」
「!?」
急に肩を掴まれた。ヘッドホンのせいで人がいるのに気付かなかったな。
振り向くと、最高にイケ散らかした顔面の男性が。
色素の薄い黒髪の……ワンレンっていまの時代なんて言うの?
ちょっとわかんない人はググってくれ。
まあそんな髪型のスーツ姿の線の細い高身長の男性だ。
その後ろに、部下っぽい若そうな男性がいる。
「え、なんですか?」
ヘッドホンをずらしながら問いかける。
これほどまでにイケ散らかした顔面の男性は見たことがないな。
イケ散らかした顔面男性
「ここで何をしていたんだ」
なんとも厳しい表情でいらっしゃる……。
えーっと、何をしていた? 何をしていた……。
「何もしてないですけど……」
まだ飛び降りる前なので何もしていない。
そんな顔をされる理由はない。
イケ散らかした顔面男性
「じゃあ何をしようとしていた」
何をしようとしていた……。
「……ああ、私が下を見ていたので飛び降りると思ったんですね。
まあ、その通りですけど」
おっと、なんと馬鹿正直な口だろう。
イケ散らかした顔面男性と部下っぽい男性が顔を見合わせた。
「私が飛び降りようが飛び降りなかろうが、お兄さんたちには関係ないでしょう?
放っておいていただいて大丈夫なんで」
こんなイケ散らかした男性に声をかけてもらうなんて、良い冥途の土産だ。
イケ散らかした顔面男性
「放っておけるわけないだろ。なんでそんなことをしようとしているんだ」
「お兄さんたちには関係ないですよね」
いやマジで早くどっか行ってほしい……。
イケ散らかした顔面男性
「関係ないかもしれないが、目の前で飛び降りようとしている人間を放っておけないだろ」
「私が死にたくて飛び降りるんですから何も問題ないのでは?」
イケ散らかした顔面男性
「それが問題だって言ってるんだ」
おやおや、なかなか引き下がらないぞ?
なぜこんな熱心に引き留めるのだろうか。
困ったもんだな。せっかく良いところまで来たというのに。
「……察しの悪いお方ですね」
イケ散らかした顔面男性が怪訝に首を傾げる。
ここはひとつ、正直に言ってしまおう。
「失せろっつってんですよ。邪魔すんなってことです」
長年の接客業の経験で愛想笑いは得意である。
イケ散らかした顔面男性は一瞬だけ怯んだように見えたが、それで引き下がるような人ではなかったようだ。
イケ散らかした顔面男性
「きみには家族も友人もいないのか?」
「いますけど、死なない理由にはならないですよね」
イケ散らかした顔面男性
「家族や友人が悲しむだろ」
「悲しんだとしても私は死んでいるので関係ありません。
情に訴えかけても無駄ですよ。情なんてないんですから」
残念ながら、家族も友人たちも、私の理解者ではない。
私の理解者なんてひとりもいない。
だぶん、私が死にたい一番の理由は、孤独だと思う。
こういう気持ちを吐き出せる人がいれば、また別の未来があっただろう。
イケ散らかした顔面男性
「ここで会ったのも何かの縁だ。俺たちが話を聞く」
知らない人に話して何がどうなるんだ?
「情けは無用でござる」
おっと。しまった。せっかくいままで隠していたのに忍者の私がこんにちは!
イケ散らかした顔面男性
「ええ、なんでいきなり武士……」
「忍者でござる」
イケ散らかした顔面男性
「ああ、そうなんだ……」
そう、何を隠そう私は忍者――という設定――である!
別に足は速くないし隠れ身の術が使えるわけでもないけど。
拙者は心が忍びでござる。
イケ散らかした顔面男性
「月並みだが、生きていればきっと良いこともある」
「いつまで生きていれば良いことありますか?」
イケ散らかした顔面男性
「え……」
よく言うよね。生きていれば良いことあるって。
そんなの、良いことがあった人間にしか言えないでしょ。
つまり、良いことのなかった人間の気持ちなんてひとつもわかっちゃいないよ。
「生きていれば良いことあるって思い続けて何年経ったと思ってるんですか?」
イケ散らかした顔面男性
「……ずっと辛い思いをして来たんだな」
「生きていればいつか良いことがあるって信じ続けて生きて来たのに、良いことがひとつもなかったんだからもう生きていても仕方ないのでは?
ていうか、お兄さんたちマジなんなんすか? 余計なお世話なんですけど。
見ず知らずの私の飛び降りを止めることになんの意味があるんですか?
名前も知らない人に何を言われても響かないですよ。
こっちはもう限界なんです。さっさと失せな、偽善者ども」
おっと、おくちが過ぎましたわ。
でも本当にそう思うので早くどっか行ってほしい。
こうしているあいだにも日が暮れてしまうし、太陽の出ているうちに飛び降りたい。
と、イケ散らかした顔面男性が、ジャケットの内ポケットから何かを取り出す。
部下っぽい男性に目配せすると、ふたりとも揃って私に何かを差し出した。
それは名刺だった。
イケ散らかした顔面男性
「名前も知らない人じゃなくなればいいんだろ」
わお、とんでもねえ発想力!
なるほどな。名刺をもらえば名前を知っている人になるという寸法ね。
出版社の編集長の佐久間さんと、同じ会社の特に肩書きのない山下さん。
……だから何?
名刺を指で挟み、川に向けてピッと投げ飛ばす。風に乗って飛んで行った。
「人生がうまくいっている人に私の気持ちはわかりませんわ。
ていうか、マジで時間の無駄なんで早くどっか行ってもらえないですかね」
まあ、私の人生がうまくいかないのは自業自得というか、因果応報というか……。
要は自分の頑張りが足りなかったってだけで、これは完全に僻みですわ。
頑張っているつもりで頑張ってなかった、ってことなのかな。
私なりに頑張ってるんですよ!! って泣いちゃうOLみたいな。
努力の足りない人間のもとに幸せは訪れないんですわ。
佐久間さん
「きみの気持ちをわかってくれる人はいないのか?」
私はいないと感じているが、私の友人たちはきっと、私の訃報を聞いたとき
『なんで話してくれなかったんだ……』
って思うんだろうな。はは、気付くのが遅すぎたようだな!!
さて、もう何も言うまい。何を言っても無駄だ。
佐久間さん
「確かに俺たちときみは無関係だが、こうして見つけてしまった以上、ここを立ち去るわけにはいかない」
なぜだろう……。
見ず知らずの私の死を防ぐことになんの意味が……?
だって知らない人やで? 友達ですらないんやで?
たまたまここで会っただけよ? 関係なくない?
これ以上は話しても無駄だって早く気付いてくれないかな。
佐久間さん
「全部をわかってやることはできないかもしれないが、話してみろ。
俺たちでできることがあるなら力になる」
え、なに……何が目的なの……?
さっぱりわからないんだけど……。
もういいや。強行突破しちゃお。
佐久間さん
「いや待て待て待て!」
イケ散らかした顔面男性の腕で腰をがっちりホールドされ、強行突破は失敗。
「は? うざ」
おっと、つい本音が。
佐久間さん
「いやうざじゃない! 強行突破しようとすんな!」
「……はあーもうめんどくせえ人らに目え付けられたわ」
もう取り繕う必要はないかな。
これ以上、私の邪魔をするなら……みたいな。
「マジ運の尽きなんですけど。最後の最後でなんなのコレ。
やってらんねえわマジ。人の気も知らんでよう邪魔できたもんだわ」
佐久間さん
「目の前で飛び降りようとしているのを止めるのは当たり前だろ」
当たり前……当たり前かなあ?
もし私がここで同じように飛び降りようとしている人を見つけたら止めるのかなあ?
「私の飛び降りを止めることであんたたちに何か得があるんすか?
人がせっかく決意を固めててっぺんまで登って来たと言うのに。
私が死んでもこの世界は回り続けるし私は早くこの世界から退場したいんすよ」
佐久間さん
「――」
「何があったか知らないがって言うなら次の機会は邪魔しないでくださいよね」
佐久間さん
「……」
どうやら言おうとしてたようだ。
私はこの世界が大嫌いだ。この世界だって私が大嫌いみたいだし。
きっとこの世界は何も努力していない人間が嫌いなんだ。
私みたいにただ流されて生きて来た人間は嫌いなんだよ。
大して頑張ってもいないくせに幸せになりたいだなんて、都合が良すぎたんだ。
だって、誰も私を愛さない。だからこの世界を嫌いになるしかなかった。
「じゃあお兄さんたちがここにいるあいだは飛び降りないであげますよ。
だからさっさとどっか行ってくれませんかね。見なかったことにすればいいでしょ」
佐久間さん
「そんなわけにいかないだろ」
「なんで? あんたたちに引き留められたところで私に得はないでしょ。
またあのクソみてえな人生に戻るんなら損失しかないわ。
そういうの無責任って言うんですよ。やめてもらっていいですかね」
佐久間さん
「……責任を取ればいいんだな」
「は?」
佐久間さん
「俺の嫁になれ」
「普通に嫌」
佐久間さん
「う……」
言うに事を欠いて『嫁に来い』だなんて……。
まあ普通だったら棚から牡丹餅で頷くんだろうなあ。
でも、そういう問題じゃないんですよ。
そもそもこの人たちを信用していいのかわからないし。
「私に命の恩人って言われたいんですか?」
半ば呆れながら言った私に、佐久間さんは眉をひそめる。
「俺はこいつの命を救ったんだ、って自己満で酔いたいだけでしょ?
悪いけど、あんたが私のクソみてえな人生を覆すとは思えなんですよね。
他を当たってもらえます? どうせ私とはここでお別れなんですから」
頑張ってないから良いことない、幸せになれないんだ、って思うけどさ……仕事は一生懸命やって来たし、そのせいで精神を病んだし、生きていくだけで精一杯だったけど、泣き喚きながら必死で生きて来たんだよ。
でも全部が自分のせいなら、幸せになる資格なんてないのかな。
佐久間さん
「……俺の嫁になることを認めないなら」
ん、なんだ、今度は何を言うつもりなんだ。
佐久間さん
「いますぐお前をホテルに連れ込んで抱く」
……何言ってんだ、この人は……。
私があまりに聞き分けがないから、自暴自棄になっちゃったのかな。
「ぶっ飛んだ発想力だな……だが面白い。
さすが顔面がイケ散らかした人は頭の中までイケ散らかしてるんだな……」
佐久間さん
「イケ散らかすってなんだよ」
「まあ普通のレディならふたつ返事で頷くだろうな。
こんなカッコいい人に抱かれた上に嫁にしてもらえるなんて好条件すぎて怖い。
だが断る。なぜなら私はいまここで死ぬと以前から決めているからだ」
佐久間さん
「じゃあ抱くけどいいか?」
うお、黒い微笑み……。
「なんなんだよその脅し文句……普通に怖いんだけど……。
だいたい私のこと知らないのに嫁にするなんてあまりに博打だろ」
佐久間さん
「これから知っていけばいいだろ?」
「そんなうまい話があるわけないだろ!!」
佐久間さん
「ええ……」
え、なんなの……怖いんだけど……。
飛び降りてもいいかな……。
「うまい話には裏がある!! 一体何が目的なんだ!!」
困ったように笑う佐久間さんに、山下さんが言う。
山下さん
「ここまで誘っているのにお前に靡かないなんてな……」
「顔面がイケ散らかしてる人は信用できないでござる」
山下さん
「イケ散らかすってなんなの?」
世捨て人がいきなりシンデレラになるなんてラノベかよ。
これは本格的に幻覚だ。
もしかしてもう死んでて夢を見ているのかな?
「都合の良い夢を見すぎなんで覚めるために一回飛び降りますわ」
佐久間さん
「いや待て待て待て!!」
イケ散らかした顔面男性の腕にホールドされ、飛び降りは阻止された。
おや、そういえば感触があるってことは幻覚ではないのだろうか。
「どうせ私がいまここで死ぬのを諦めたからといって明日も諦めるとは限りませんよ」
佐久間さん
「じゃあやっぱり抱くしか……」
「あんたに抱かれたからって諦めると思うなよ!!」
山下さん
「こんなカッコいい人に抱かれる機会なんてもうないかもよ?」
「カッコいいからってすべての女性が喜んで抱かれると思っているなら驕りですよ」
山下さん
「あ、ハイ、すみません……」
佐久間さん
「それにしても、こんなに頑固な女の子は初めてだよ」
「残念でしたね。ガードの堅い忍者で」
佐久間さん
「きみ忍者なの?」
「いままで周りに忍者がいらっしゃらなかったんですね」
佐久間さん
「いままでもいないしこれからもいないだろうな」
「じゃ、今日のところは勘弁しといてあげますよ。ごきげんよう」
すったかたーと帰りましょう。
佐久間さん
「いやちょっと待て待て。話は何もまとまってない」
「まとめる必要あります?」
佐久間さん
「今日は大人しく帰っても明日また来るつもりなんだろ?」
「明日は仕事なので明後日ですね」
佐久間さん
「シフトの話はしてねえんだよ」
「お兄さんが自分に自信がおありになるのはよくわかりますけど、
嫁にすると言ったな。あれは嘘だ。
って言われるのが目に見えている。絶対に抱かれ損」
佐久間さん
「抱かれ損は初めて言われたな……。
まあ、何もいますぐここで決めろと言っているわけじゃない。
時間をかけて互いを知っていこう」
やれやれ、ここで飛び降りるのは諦めるしかなさそうだ。
シンデレラストーリーすぎて怖いけど、夢ならいつか覚めるだろう。
と、イケ散らかした顔面男性こと佐久間さんが私にまた名刺を差し出す。
佐久間さん
「今度は投げないでくれよ?
きみの名前を教えてくれないか?」
「……織部コウ、です」
佐久間さん
「じゃあ……コウ、かな」
「は? 馴れ馴れしいんですけど」
佐久間さん
「ご、ごめん、織部さん」
「やれやれこれだから顔面がイケ散らかした人は……」
佐久間さん
「イケ散らかすってなんなんだよ」
「じゃ、ごきげんよう」
今度こそ帰りましょうね~。
やれやれ、散々な目に遭った。
佐久間さん
「ちょっと待て。送って行く」
「大丈夫ですよ。真っ直ぐ帰りますから」
佐久間さん
「えー、俺に抱かれないの?」
肩に腕を回して言う佐久間さんに、私は思わず眉間にしわが寄った。
「欲求不満なの?」
佐久間さん
「冗談だよ。家はこの近くなのか?」
「近くではないですけど、歩いて30分くらいですよ」
佐久間さん
「それなりにかかる気がするが……」
「30分も歩けないんですか? やれやれこれだからお貴族様は。
歩いて10分のところをいちいち馬車を出して30分かける人ですか?」
佐久間さん
「貴族じゃないよ。
あ、じゃあ、ちょっとお茶してかない?
きみのことをもう少し知りたいんだけど……」
「こんなところで道草食ってないでさっさと会社にお戻りになられたほうがよろしいのでは? そもそも私のせいでだいぶ時間を食ったんですから」
佐久間さん
「自分で言うかな……。
まあ、じゃあ、近いうちに。きみの気が変わらないうちに連絡するよ」
「忍者は気まぐれなので気を付けてくださいね」
佐久間さん
「なんで忍者なの?」
「誰の視界にも入らぬよう、誰にも認識されぬよう息を潜めて生きているでござる」
佐久間さん
「なんだその悲しい忍びは。
でも、俺たちに認識されてしまったな?」
「それが悪夢の始まりだった……」
佐久間さん
「嫌なのかよ。まあ、俺の嫁になるからには、忍者も引退かもしれないな?」
「え」
佐久間さん
「え?」
「ほんとに嫁にする気なんですか?」
佐久間さん
「そう言ったろ」
「私より早まってますね」
佐久間さん
「別にいいだろ? 俺はお前に一目惚れしたんだよ」
「目玉と脳みそ買い換えたほうがいいですよ」
佐久間さん
「目玉と脳みそが買い換えられるのか?」
「お兄さんと結婚するなんて選択の余地もないですわ」
佐久間さん
「じゃあいま婚姻届に署名してくれるか?」
「そっちじゃねえんですよ。
顔面がイケ散らかした人と結婚するなんて嫌すぎてすべての毛髪と歯が抜け落ちますわ」
佐久間さん
「ええ……そんなに嫌なの……?」
山下さん
「お前が女の子に嫌がられるなんて初めて見たわ」
「あらまあそれは随分と幸運な人生を歩んでいらしたものですね」
佐久間さん
「まあ、壁が高いほど燃えるじゃないか」
「それで落としたら落としただけで落ちたらぽいなんでしょ?
顔面がイケ散らかした人はみんなそう。知ってんですから」
佐久間さん
「なんか嫌な目に遭ったんだな……。
まあ、会ったばかりの人間なんて信用できないよな。
時間をかけて心を開いてもらうよ」
山下さん
「じゃあ俺は? 顔面がイケ散らかした人じゃないけど、信用できる?」
山下さんのお顔は、確かにイケ散らかしているというほどではない。
だが、一般的に見れば割とカッコいいほうなのではないかと思う。
いや、それよりも……。
「そもそも私は初対面の人を信用しないですよ」
山下さん
「ほんとにガードが堅い……」
「まあこれからに期待ですわ」
佐久間さん
「期待してくれるの?」
「社交辞令ですよ」
佐久間さん
「う、そうか……。
まあ、じゃあ俺も、次に会ったときは『お兄さん』じゃなくなることを期待するよ」
「ふぁ――最高にイケ散らかした笑顔ですこと」
こうして橋を降りているあいだ、ずっと佐久間さんと山下さんに付き添われていた。
このときほんの少しだけ、ずっと私に付きまとっていた孤独感が薄らいだ気がした。
佐久間さん
「名刺を投げ捨てられたのはさすがにビビったな」
「すみません、手裏剣かと思って」
山下さん
「一般的にイメージする手裏剣の投げ方じゃなかったけど」
「自己流でござる」
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