第22話 ボスの罠

 フロアボスのコボルド・セキュリティを倒すと、俺の体が光った。

 レベルアップだ!


 俺は痛みとレベルアップ酔いで、フラフラして意識を失いそうになった。


 レベルアップ酔いとは!

 レベルアップ時に酔っ払ったのと似た状態になることだ!


(あ……意識が……)


 何かにぶつかり、目を閉じたまま倒れる。


「巫女の癒やし!」


 倒れてから、どのくらい時間が経ったのかわからないが、御手洗さんの声が聞こえた。

 右腕の痛みが引いていく、徐々に意識がハッキリしてきた。


 俺は立ち上がろうとして、四つん這いの姿勢を取ろうとした。


(ん? 何だ? この感触は? 前にも似たことがあった気がするが……)


 右手に何かを大きな物体を握っている。

 俺は右手で握っている物を確かめようと、手を握ったり開いたりしてみた。


(なんだ? これ? 柔らかいぞ。かなり大きな物を握っているぞ? んんん?)


 頭の中のモヤが晴れるように、意識がハッキリしてきた。

 レベルアップ酔いから回復したのだ。

 視界もクリアになり、俺はどういう状況なのか理解した。


 目の前に顔を真っ赤にしたダンジョン省の片山さんがいた。

 どうやら俺はレベルアップ酔いで片山さんにぶつかり、そのまま倒れて……、片山さんの胸をもんでしまったらしい。


「あの……駆さん……大丈夫ですか……?」


「ええと! ああ! はい! 大丈夫です!」


 俺は飛び起きて、怪我をしていた右腕をグルグル回してみせた。

 片山さんは、赤い顔をしたまま胸を押さえて下を向いている。


 やってしまったな……。


 俺は右手に残る感触を振り払って、御手洗さんに向き直った。


「御手洗さん! 回復をありがとう!」


「すっかり元気になったみたいですね……」


「あっ……!」



 *



 恐ろしいことだ。

 俺は三人の美女にコンコンと説教をされてしまった。


 ・戦い方が危険すぎる。

 ・自分の身を犠牲にする戦法をとってはいけない。

 ・どさくさに紛れて胸をもんではいけない。


 俺なりにがんばって戦ってみたが、ダメだそうです。

 特に片山さんの胸をもんだのが、最悪だそうです。


 もちろん、俺は反省をしたが、厳しい説教に内心ため息をついた。


(はぁ……、大きかったな……。いやいや、反省しよう!)


 現実問題として、今回の戦いのような『痛くて、怖い戦い方』を続けるのは無理だ。

 俺の体と心が保たない。


 今回は初めてのフロアボス戦で、俺も興奮して冷静さを欠いていた。

 冷静に考えていれば、もう少し良い対応が出来たかもしれない。


「――ですから! もう、女性の胸を触ってはいけません!」


「そうそう! それに今回みたいな戦い方は、もう、やらないでくれよ!」


「本当に危険ですよ? 駆さんがお亡くなりになったら、おばあちゃんが悲しみますよ!」


「はい、わかりました」


 俺は女性三人にコテンパンにされて、お説教は終った。

 フロアボスより女性三人の方が怖いなと思ったのは内緒だ。

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