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 水晶のような光をぼんやりと見つめながら、冷たいジェラートが祭りの熱を冷やしていく。


 ミルクがかった林檎りんごの冷たい甘み。


 パチパチと弾ける煌めき。


 冷たさと高揚が、アイスがとろけていくように、周りの空気に溶けていく。


 ぼんやりと視点をぼかして、遠い記憶にフォーカスする。


 大切な人。時間。想い。瞬間。



 心地よい冷たさはすぐに消えて行ってしまうけれど、どこか、体に沁み込んで、自分の一部となっているのかもしれない。



 鈴の音が聴こえた。


 

 人々の笑顔が流れていく。



「……あ」


 ジャックは人込みの中に茶色のモノクルを見つけた。


 向こうもこちらを見た。



「やぁジャックさん、いい夜ですね」


「こんばんは」


 ダンカンさんの手にも、林檎りんごの香りが収められていた。


 

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