第13話
黒騎士は再びアリシアに襲いかかってきた。
目にも留まらぬ速さ。黒騎士の動きは常人にはなにが起きているのか分からない。瞬きする間もなく黒騎士が瞬間移動し、わけも分からないまま玉座の間の床が弾け飛んでいるようにしか見えないだろう。一般人が黒騎士の相手をしたならば、なんの理解も追いつかないうちに真っ二つに斬られ、そのままバラバラに刻まれているだけだ。
しかし、その黒騎士の攻勢をアリシアはしのぐ。
捉えられないはずの動きを捉え、見えるはずのない斬撃を受け、いなす。
弾ける床をかわし、指一本の隙間もない距離を通り過ぎる黒騎士の剣をまるで動じることなく見送る。
そして、それらの攻撃の隙間に自分の刃をねじ込んでいく。
黒騎士の動きは完全に怪物のそれだ。
魔物にしても速すぎる。どう考えてもその辺で普通の魔物狩りが討伐する魔物の範疇を逸脱している。
トップランクの魔物狩りが迷宮の奥深くで相手にする、そういう本物の化け物に比肩しうる。黒騎士はそういう怪物だった。
対するアリシアの動きも常人のそれではない。しかし、それでも人間の動きの範疇でしかなかった。
心ばかりに肉体強化の魔術はかけていたが、それ以外は生身の人間でしかない。
それがアリシアの戦い方だった。
その人間の範囲でしかない動きで、アリシアは見事にこの本物の怪物に相対していた。
「ゴリゴリにつえぇな! 大丈夫か!」
アリシアの足下でパックが喚く。
「話している余裕はない!」
「わりぃ!」
そういうパックの入っている影の下の床が弾け飛ぶ。黒騎士の大剣はアリシアがいなし、アリシアの周りの床は粉々に砕けている。しかし、アリシア本人はまだかすり傷程度しか傷がない。黒騎士の攻撃を見事にしのいでいる。
黒騎士はその力と大剣の重さをこれでもかと押しつけてくる。アリシアの技術が少しでも低かったなら受けた腕はへし折られているだろう。
しかし、アリシアはそれを受け流し、そしてそのスキに黒騎士に自分の刃を差し入れていた。
『キィイィィイィイイィィ!』
金属をこすれ合わせたような金切り声が黒騎士から放たれる。
「今のは効いたか! 急所は人間と同じなようだな」
アリシアの剣は人間なら致命傷になる腎臓の部位を刺し貫いた。黒騎士は亡霊だったが、弱点自体は人間と変わらないようだ。人間なら死ぬ傷でも死なないという違いはあるが、戦い方自体は変わらないということだった。
「亡霊の体にも人間の名残が残るのかね」
「知らん!」
パックの素朴な疑問にまともに応える間もなく黒騎士の大剣再び振るわれる。
怪物らしい人間に出来ない嵐のような動き。しかし、その中にも人間であった頃の残滓がある。
黒騎士の剣は一件デタラメに振りまわされているようだが、しっかりと一定の型に納まっている。術理のようなものがかすかに残っている。
アリシアが受けに回るしかないのもその辺りが理由だ。
うかつに攻め込めない。それだけの技量が目の前の剣士にはあるのだ。
しかし、
「読めてきた」
アリシアが黒騎士の剣を弾き、また黒騎士の体を肩からバッサリと斬り捨てる。
『ギィイイイィイィィィ!』
黒騎士は叫んだ。しかし、すぐさま大剣をアリシアに振り下ろす。
しかし、アリシアはほんのわずかに体をずらしてそれを避けた。
そのまま黒騎士の心臓の位置にカタナを深々と突き刺す。
『キアァァァァァァァァア!』
ひときわ大きな叫び声が玉座の間にこだまする。
黒騎士は大剣を横薙ぎに大きく振りアリシアを吹き飛ばそうとする。
しかし、アリシアはそれを思い切り姿勢をかがめ、前に飛び込むことでかわす。
「ナイス!」
パックの言葉。アリシアは最早完全に黒騎士の動きを読んでいた。ここまでのやりとりで黒騎士の動きのクセを完全に見切ったのだ。もはや今まで通りでは黒騎士の攻撃はアリシアには当たらない。
そして、黒騎士が立て直す隙なんてものはアリシアは与えなかった。
「はっ!」
アリシアは懐に入ったが速いか、思い切り床を踏みしめ、力一杯カタナを振り抜き、股下から一直線に黒騎士の体を叩ききった。
一刀両断。黒騎士のフルプレートアーマーは真っ二つに分かたれたのだった。
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