第7話 イケメン、ポニーテールに恋をする★
【一也視点】
オレは、小野賀一也。
喫茶カルムのオーナーだ。
オーナー代理だったが、おふくろから店を譲ると宣言された。
一国一城の主だ。
スタッフも皆、オレについてきてくれるいい奴らだ。
約一名、オレに従わない奴がいたがクビにした。
白髪のジジイだ。
再オープン初日の六月十三日、開店前にクビにしてやった。
あの時のジジイの顔は本当に笑えた。
その初日は、この店の最高売上を記録した。
二日目も記録を更新し、三日目もきっと記録を更新してしまうだろう。
さあ、オレの最高のカフェが今日もまた開店だ!
今日もオープン前から沢山の客が並んでいた。口が緩む。
「お待たせしました! 本日もカルム、オープンいたします」
オレがドアを開くと、並んでいた客たちは嬉しそうに顔を綻ばせる。
今、カルムは女性客がメイン。男性と女性比率で言えば、男性4女性6と言ったところだろうか。
オレはこれが8にはなっていくだろうと考えている。
オレがこの店に入ってきてから女性客が増えている。
恐らく、恐らくだが、オレのファンがどんどんと増えているのだろう。
だが、オレには心に決めた人がいる。
今日もオープン初日から並んでいるポニーテールのあの子だ。
「おはようございます」
「へ? あっ! おは、よう、ございます……」
オレが一番に挨拶に行くと照れているのか彼女は目を逸らす。
茶髪で明るい髪色、シュッとしていて非常に活発そうな印象だ。
けれど、オレには非常に奥ゆかしい態度で接する。
そこがまた堪らない。
そんな事を考えていると、彼女が申し訳なさそうに向こうを指さす。
「あのー、あそこのテーブルの人たち呼んでますよ」
彼女は他のテーブルの客にも気を使える。
素晴らしい性格の持ち主だ。
「そうですね。では、また後程」
「は? あ、ああ……はい」
離れるのが名残惜しいのかゴニョゴニョと口ごもらせていた。
あんな元気そうな雰囲気であの感じ、ギャップが最高だ!
オレは彼女の所へすぐ戻るべく、彼女が指したテーブルの客へと急ぐ。
「お呼びですか?」
そこには二人組の、普通の主婦がいた。
「あ、はい、あのー、デザートセットってこれだけですかね? もっと安かったような……」
「ああ、申し訳ありません。もっとお客様に喜んでいただくために、クオリティを上げさせていただいて、その為に、ちょっと価格を上げざるをえなくなりまして……」
デザートセットはウチの看板商品だ。それは数字が証明していた。
それをもっと映えるものにする為に価格を上げざるを得なかった。
「あー、そうなんですかー」
困ったような苦笑いを浮かべて視線を泳がせている。
主婦はケチで困る。
そんなに安いカフェがいいなら、その辺のチェーンに行けばいい。
ここは最高のものを提供する場なのだ。
だが、オレはこのカフェのオーナー、笑顔で対応せねば。
「もし、お気に召さなければコーヒーだけでも楽しんでいってくださいね」
「あ、はい、あの、はい」
歯切れの悪い言葉で曖昧に笑う主婦に苛々する。
足早に立ち去ると、ポニーテールの彼女の元へ向かう。
彼女は珈琲一杯を注文し、一生懸命吹いて冷ましていた。猫舌も可愛い。
「うう~、……グレ様なら、丁度いい温度に……」
「どうかなされましたか?」
「あへっ! ああ、いや、なんでもないです! いただきます!」
彼女は慌てて珈琲を飲み始める。
オレが傍にいて落ち着かないのか一気に飲み干す彼女、そして、咽ながらも席を立とうとする。
「あ、そんな、慌てなくても……」
「いえ! あの! そうでした! 大学の講義があったのを忘れてまして! では! 珈琲おいしかったです! ごちそうさまでした!」
そう言いながら、彼女は去って行った。
揺れるポニーテールが可愛らしく、オレは苦笑いを浮かべながら後片付けを始める。
「あのー……すみませーん」
さっきの主婦が空気を読まずに呼ぶ。
分かってるよ! どうせ珈琲一杯しか飲まないんだろ!
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