第2話 イケメン、王様になる★

 オレは、小野賀一也。

 この店のオーナー代理だ。

 母親である小野賀小鳥が倒れ、手術の為に入院中、俺がオーナー代理を務めることになった。

 母親が帰ってくるまでおよそ一か月、恐らく母親は見違えるような繁盛っぷりに腰を抜かす事だろう。

 俺はカフェ業界に革命を起こす。


 最高のコーヒーと、最高の空間、そして、最高の接客。


 そして、最高のカフェ。


 連日大行列を作るようなカフェにしてみせる。


 可能性はある。

 俺がやってきてから客足は伸びている。

 俺のお陰だ。

 なら、俺の思う理想のカフェが作れれば、必ず繁盛するだろう。


 その為の改革一号が、あの福家のジジイの解雇だった。


 福家のジジイは、おふくろが入院して、暫くの間、俺がオーナー代理として開けるまでの準備期間の一週間の間、何かと俺に口答えしてきた。

 珈琲はこうした方が良いだの、料理はこう飾るだの、口調は優しかったが、うっとおしかった。

 俺がオーナー代理と聞いて妬みからの行動だろう。

 だから、俺は言わなくて正解だった。

 おふくろからは、『福家を店長代理』にして、しっかり支えてもらうようにと言われていたことを。

 そうなれば、あのジジイは調子づいてどんどん自分の好き勝手なことをやり始めただろう。盆栽カフェとかやりだしたかもしれない。


 だから、俺は本性を出した福家のジジイを再オープンギリギリの当日にクビにしてやった。

 あの時の福家の顔ったら、マジでボケた老人みたいな顔をしてやがった。


 さあ、もう何も憂いはない。

 あとはただひたすら俺の思いを形にしていくだけだ。


 大丈夫。

 再オープン初日から席はほぼ満席だ。

 行列はできなかったが順調と言える。


 その上、俺には秘策があった。


「こちら、あまえんぼカッサータでございます」


 ウチの店は、おふくろと福家が中心だったせいで流行に疎い。

 だが、俺は最新の情報を仕入れ、すぐに対応してみせる。

 女性客はキャッキャと写真を撮っている。


 うまくいく。

 絶対に。


 その時電話が鳴る。予約の電話だろうか。

 これからは予約リストが大変な事になるだろう。


「はい、カルムです」

『一也』


 おふくろだ。初日だから心配してかけてきたのだろうか。


「母さん、心配してかけてきたのかい? 大丈夫、初日からほぼ満席だよ」

『そう、よかったわ。それより』


 それより? それより大切な事は無いぞ。


『福家さんをクビにしたって本当?』


 耳が早い。さっきの今でもう知られている。

 福家が電話して泣きついたんだろか、姑息なヤツだ。

 恥ずかしい話だが、多分、おふくろは福家に惚れていた。

 どこがいいのか全く分からないが、何かと福家さん福家さんだった。

 いや、今俺の前だから福家さんだが、普段は拓さんと呼んでいる。

 俺は知っている。

 福家の奴は、何故できたのか理解不能だが、色仕掛けでウチのおふくろを落としたのだ。


「本当だよ。福家さんは、母さんが居なくなってからは、ずっと店の再オープンに邪魔なことしかしてなかった」


 俺の邪魔ばかりしていた。


「だから、クビにした」

『店長代理の話は伝えたの?』

「……勿論」

『そう。分かったわ。一也。今日からそのお店はあんたの物よ』


 え? なんと言った? 店はおれのもの?


『あんたの思うようにやってみなさい。じゃあ』


 電話が切られる。随分無愛想だった。

 だが、そんなことはどうでもいい!

 店がいきなり俺のものになった!

 何という幸運だ。もしかして、おふくろは福家がいないと知ってやる気をなくしたのか。

 とんだ色ボケババアになってしまったものだ。

 昔から、ファンが来るくらいのかわいい人だったのに。


 まあいい。

 俺は気合を入れなおす。

 今日からここは俺の城なんだ。

 俺が王様。

 俺が全てを変えてみせる!!!


 そして、この日カルム始まって以来の売り上げを叩きだした。


 だが、その時の俺は気づいていなかった。

 奥のいつもの予約席が空いていることを。


 そして、いつもより客の退店率が早いのは良い事ではない、ということを。

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