第20話


「せっかくだし、このまま職業特性の練習とかどう?」


ダンジョンの中でぶっつけ本番するより、安全が確保された空間内で空連できるなら、それに越した事はない。


因みに何故職業特性を名指ししたかというと、今直ぐに回復魔法を行使できない為である。まさか、よく物語の主人公が行なっている様な自傷行為はできない。


もし琴音がそんな事をしようとしたら恵奈が止める。というか、琴音ちゃんはダメ!とんでもない!傷つけるならば私の肌で!と立候補するはずだ。


「それもそうだね」


琴音は、ステータスを確認しつつ、職業特性を発動させた。


「【聖結界生成】!」


白金色のほぼ透明ドームが琴音を囲む様に生成される。近いてノックをするが、硬質な音を立てるガラスの様な質感。しかし、その強度は5階層のボス蠍の毒針攻撃を防げると思われる。


なんて思っていると、フッと結界が消えた。検証終了かと思ったら肩で息をする琴音を見て、慌てることとなった。


「ど、どうしたの琴音ちゃん⁉︎」

「はぁはぁ・・・多分、魔力なくなっちゃったかも・・・」


魔力切れ。


魔力がなくなると最悪命に関わる現象である。【聖結界生成】は燃費が悪かったのか、レベルが低い為かは不明だが、そんな事よりも琴音の体調である。


荒い息遣いで立つのも辛そうにしていた為、肩を貸して座らせる。


「水飲んで。一旦休憩しよう」

「あり、がとう・・・」


【生活魔法】で水を注いだコップを差し出すと、ちびちび飲んでくれる。


魔力を回復するにはカロリーの様なスタミナを使用すると実体験していたので、黄色いカロメ(メープル味)を取り出し、フィルムを剥いて琴音に差し出す。


恵奈的には問題なかったこの商品。栄養が多く含まれてるとはいえ、口がパサパサになってしまうのがこの商品の悪い所だ。


疲労が著しい琴音に、この携帯食ダメだ。もっと食べやすい物を選ぶ必要がある。と、痛感する。


「ゆっくり食べてね」


この様子だと、単純に職業特性が強力な為、発動し続ける為の消費魔力量が多かった可能性がある。対処方はレベルを上げて魔力ステータスを上げるか、魔力回復のスキルを取得するしかない。


職業が【聖女】な琴音は、回復兼支援寄りの完全魔法職。魔力回復系スキルは絶対に必要不可欠だ。


「ふぅ〜ありがとね、だいぶマシになったよ」

「それは良かったよ・・・それで、実際の所はどうなの?」

「魔力消費が激しい、かな?さっきステータスを確認したんだけど、200あった魔力が10切ってた」

「あぶなっ⁉︎」


ほんの数秒の発動で200飛ぶとか、レベル1なのに規格外な職業特性だと改めて実感する。魔力消費が固定な恵奈の職業特性と比べると、なんとも制御が難しそうだ。


「私はもってないけど確か、【魔力操作】ってスキルがあったから、それを使えればだいぶマシになるかもよ」


ついでに【魔力自然回復速度上昇】の取得も進める。


「そうだね・・・スキルポイントも10あるし、取ってみよっか!」


そう、ネットに上がっていた複数人のステータスは、総じて数値が低く、スキルポイントも2と極微量でしかなかった。だが、琴音は初期値が10である。


これは恵奈と同数である。


他者との違いはなんなのかと考えた所、ステータスを得た瞬間から職業に就いていたか否かではないか、と推測する。


「あ、本当に早く回復するね!」

「でしょ。お腹空いてくるからいっぱいお食べ〜」

「・・・私はペットじゃないよ?」


なんて言いつつも食べてくれる琴音ちゃんが好きだよ。


「取り敢えず、教えてもらったスキルを取ったけどさ、これじゃぁダンジョンで戦えないよね?」

「琴音ちゃんは元から回復職だからね。戦力っていえば戦力だけど、モンスターとの戦闘に直接関与できないし、戦うのは厳しいかなぁ」

「戦える聖女になりたい!」

「それって聖女じゃなくて野蛮人では?」


でも良いな、その考え。


「因みに聞くけど、どんな戦闘スタイルが理想なの?」

「やっぱり剣でしょ!ズバってモンスター切り裂いて戦ってみたい!」


思考回路が戦闘狂のそれなんだけど。


「なんて過激な理由なの・・・」

「でも戦える聖女ってかっこ良くない?」

「正直、めっちゃ良いと思ってる」


回復職だが実は剣術の達人でした、みたいなストーリーの作品探せば絶対ある。回復職でも戦いたいって気持ちも理解できる。


実際、この行動は不可能ではない。非戦闘職とはいえ、スキルには剣術がある場合がある。これを取得すれば、職業が剣士などではなくても剣を扱って、戦闘することができるのだ。


「なんか副業みたいなこと考えてるけど、私も【狙撃手だけど実は生産職】みたいな展開に憧れるね!」

「でしょ〜?」


本職と真逆なスタイル。ギャップがあって非常に唆るのだが、スキルポイントは有限であり、本職のスキルを優先するか、副職の方を優先するか。

それとも双方同レベル帯に収めるのか。


結局は、この路線に突き進んでしまうと、本職・副職双方が器用貧乏になってしまう。


ここら辺の舵取りは非常に難しいと言わざるを得ない。


「傷ついても回復して戦闘続行してくる剣士型戦闘聖女とか怖すぎない?」

「属性もりもりだね!w」


こういう妄想を語り合うのも楽しいひと時だった。


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