サグちゃんはたぶん邪神(仮)

工藤 隆久

第1話 サグとジャク

「おい、起きろ。バカヤロウ。」

目の前には10歳くらいの女の子がいた。


「おい、お前は死んだんだ。そして、私は神だ。」

神を名乗る少女は僕を見つめる。

ただの子供にしか見えない少女はどこか眠たげにも思えた。


何を言っているんだ?この小学生?

僕は健康引きこもりだぞ。そう易々と死ぬわけないだろう。これは夢だ。きっと昨日深夜アニメを見ていたからこんな夢を見てしまったんだ。


「異世界転生だぞ。今、流行りだろう。世界観はオーソドックスな奴だぞ。俺つえーなんだろ。ニッポン男児は生まれたときからサムライなんだろ。流行に乗り遅れるぞ。」

「おい、見知らぬ少女よ。残念ながら帰宅部だったからたぶん最弱だ。」

少女の視線が痛い。

SR確定ガチャのビミョーなキャラの気持ちだ

「よし、最弱。キャラメイクするぞ。一問一答だぞ。」

「しないよ。おまかせで。」

少女は寂しそうな顔で持っていた紙に何か書き出す。少し動かしたと思ったら手を止めて俺と目が合う。

「お前、楽しくないのか……生きることが?」

この子、失礼だな。

「神たちが言ってたぞ。一番楽しいのはキャラメイクだって。」

確かに本来キャラメイクは一番楽しいけどもそもそも現実味がわかないからな……

「種族とかも決めれるぞ。」

ほう、それは真面目にやるべきではないか?

仮にこのガキが言っていることが正しかったら、適当で異世界転生後に俺つえーは無理だ。

まずはこの子の話に乗るところからだ。

「わかったやるよ。」

そう伝えると少女は紙を見ながら質問していく。


「種族は?」

「じゃぁ、エルフ」

異世界に行ったら魔法を使わないとな!!

「すまない。私は人間しか種族を持ってないんだ。」

じゃぁ、それを引き合いに出すなよ。


「職業は?」

「勇者」

人間しか無理なら……王道、器用貧乏でも勇者選べば何とかなるだろう。

「すまない。私は勇者なんてものから信仰されてないんだ。」

自由度低いぞ、このキャラメイク。

「じゃぁ、何があるんだ?」

「盗賊、奴隷、反逆者、革命家……」

彼女がどや顔で僕に提案する職種はどれもヒドイものだった。

「お前、何の神だよ!?」

「私は剥奪を司る神だ。」

邪神じゃねえか!! なんだその神!!

「その中なら盗賊か革命家かな。反逆者は職業なのか?」

「残念だが、お前の初期能力では盗賊(下っ端)か奴隷しかできないぞ。でも安心しろ。盗賊から奴隷に転職するのは難しくないぞ。」

「奴隷に転職とは言わないんだよ(怒)」

俺はもちろん盗賊を選んだ。


「成長にパワー型、スピード型、アベレージ型があるけどどれがいい?」

「アベレージ型」

「この質問なんのことかわからないな。ちなみに何でだ?」

「盗賊ならスピード型にしたいとも思けど、世界観がわからないから、スピードに振りすぎでパワー弱くても、パワー振りすぎでスピード遅いのは嫌だから。」

てか、わからない質問があったとしても口にしちゃダメだろ。


「欲しい転生者特典ってある?」

「転生後は自由に生活したいからなぁ…ストレスフリーな生活をさせてくれ。」

「任せろ!!自由だな」

たぶん、ちげーよ。ストレスフリーの方を汲み取れよ!!

「すまない。すぐに思い付かないから、成長したら配布させてくれ。」

成長って僕が?それとも君が?


「今何問目?」

「5問目」

「残念、8問目だ。」

嘘を言うな。お前、5問しか聞いてないぞ。

「すまない、これは私のミスだ。最初3問目まではおまかせって言ってたから勝手に書いてしまった……」

「おい!!」


僕はサグが持っていた書類を取り上げた。


名前 ジャク

信仰 サグ神

ギフト(能力) 剥奪

種族 人間

職業 盗賊

成長 アベレージ型

転生者特典

望み


「名前がジャクになってるんだけどどういうこと!?」

「最弱って言ったから、そこからとったんだ。」

少女は悪びれない。悪いことをしたとは思ってないのだろう。

「なんかすごい弱そうな名前じゃん。親はどんな思いで名を付けたのなんて言われても答えられないよ……」


「信仰がサグ神ってあるけど、これは君の名なの?」

「流石異世界人だな。そうだ。私がサグ。奪い神だ。」

能力が剥奪になっているが、これは仕方ない。


剥奪

触れたものを奪うぞ。


「では最後の質問です。転生後の世界に何を望みますか?」

「自由で楽な生活だ!!」

「バカヤロウ。そんな生活はないんだぞ。」


え、僕は異世界で俺つえーな生活をするのでは?

「なら、実家に帰らせろ。転生なんて絶対にしないからな!!」

一蹴する。所詮ガキが相手だ。これくらい強気であるべきだ。

「すまない……お前が断るなら仕方ない。能力は与えられないな。だが、このまま返すことも出来ないんだ。生きていたならまだしも、死んでしまったんだからな。」

なるほどそう来るか……

「なら、僕は死ぬのか?仕方ないな。元々死んだのだから仕方ないな。さあ、安らかな眠りを、そして転生を!!」

正直、死ぬことに恐怖などない。死んだら死んだで別にいい。

「すまない……私が異世界から許可無く連れてきたせいでお前には罰が下るんだぞ。」

何それ!?

理不尽の極みじゃん!!

「無許可の奴は正規の転生なんてしないぞ。生物と汚物の中間になって神の世界の川の底の泥になるんだぞ。息が出来ないからずっと苦しむんだぞ。」

地獄かよ!!

「なら……どうしたら日本に帰れるんだ?」

「下界には時空の神が石の中に力の一部を封じ込めているらしいぞ。それを使えば帰れると思うぞ。」


結局、転生しないと帰れそうもないのか。

なら仕方ないな。

能力も貰える訳だし、とりあえず転生をすることにするか!!


「許可無く連れてきてしまった私の責任だ。お前は私が授けるギフトを使って時空の石を手に入れるんだぞ。」

「職が盗賊ならそれも簡単だろうしな。なら早く僕を転生させてくれ。」

僕は快諾するしかなかった。

「ところで、私たち神は生活力がないんだ。転生したら暫くは私の面倒も見てくれないか?」

「僕に任せろ、毎日お祈りする。」

たぶん三日坊主だろうけど……

「本当か。約束だぞ。出来ればお供え物もするんだぞ!!忘れたら、ギフト使えなくするからな!!じゃぁ、ギフトを渡すぞ。」

彼女はそういうと私にラッピングされたプレゼントを渡してくる。

ヒモを解くと俺の視界は真っ白になった。

「これから一緒に頑張ろうな。」

サグの声は僕の耳に残る。

その声は剥奪を司る神とは思えないほど心地よかった。


僕は異世界転生者だ。



一問一答

「名前は?」

「信仰は?」

「能力は?」

「種族は?」

「職業は?」

「パワー型、スピード型、アベレージ型?」

「欲しい転生特典ってある?」

「今何問目?」

「では最後の質問です。異世界転生に何を望みますか?」



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