山を作れ
岸亜里沙
山を作れ
ドイツ人のYouTuber、ミハエル・エンドリックという方が、2019年の3月からある企画動画を投稿し始めたのをあなたはご存知ですか?
その企画動画というのは、彼が住んでいる田舎町の片隅に、人工的な山を作るという企画でした。彼はチャンネル登録者数が80万人ほどの方なので、あまり一般的ではないとは思いますが、もしかしたら彼の動画をご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
彼の動画を初めて見た際に、私は昔見た映画『ウェールズの山』を思い出しました。
あの映画は実話に基づいた話で、今回の企画と重なる部分があったのを覚えています。
彼が山を作ろうとしている場所は、元々彼が所有していた土地で、今回の企画の為に更に近隣の土地を買い取ったそうです。
最初の内は、彼が一人で山を作る為、精力的に土を盛っている様子が投稿されていたのですが、半年後には様々な人が動画内に登場し、皆で協力をして、山を作る様子がドキュメンタリータッチで映し出されていました。
同じ地域に暮らす一般人や、元プロサッカー選手のオリバー・カーン、俳優のブルース・ウィリスなども彼の動画に登場していました。
そのおかげか、片田舎の名もなき山は、ある程度の知名度を得て、小さな観光地と化しました。
連日、大勢の観光客がその山を見る為に集まっていたそうで、町長もミハエルを讃えたそうです。
「彼の企画は大変クリエイティブで、我が町の誇りでもあります。私自身も完成を楽しみにしております」との談話を発表しました。
彼の動画を見ていた私も、そして他の視聴者たちも完成を楽しみにしていました。
ですが、2021年3月の時点で、高さは130メートル程まで達した山の様子が動画に収められていたのですが、2021年5月に突然動画の更新がストップしたのです。
2021年7月に入っても何も更新がなかったので、私は彼にメッセージを送ってみました。
「こんにちは。私は日本人であなたのファンです。あなたの動画を楽しみにしております。また近い内に動画を拝見したいです」
1週間後に彼から連絡があり、以下のような内容を受け取りました。
「はじめまして。私はミハエル・エンドリックです。動画を楽しみにしてくださり、ありがとうございます。現在、ある事情により撮影が出来ておりません。この先もどうなるか分からない状況です・・・」
「どうしたのですか?体の不調などですか?」
「今は何も言えません。もしかしたら、その内にあなたの耳にも届くかもしれませんね。私の秘密が・・・」
「それは一体なんですか?」
そのようなやり取りを最後に、彼からの連絡は途絶えました。
しかし、2022年の8月に入ったある日、私はひとつのネットニュース記事を発見し、驚愕しました。あの時の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。
以下、そのネットニュース記事の全文になります。
『地元警察は、動画クリエイターのミハエル・エンドリック氏、37歳を殺人と死体遺棄の罪で逮捕しました。
彼は婚約者である女性を殺害した後、その遺体を隠蔽する様子を動画サイトに投稿していた模様です。
彼は山を作るという名目で企画動画を作成し、様々な人々に遺体隠蔽の
警察は彼女の遺体を掘り起こし、死因を特定するとコメントしております』
彼の動画は2022年12月時点で、まだYouTube上にて閲覧出来るようですが、私はもう見る気にはなれません・・・。
This novel is fiction.
山を作れ 岸亜里沙 @kishiarisa
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