第14話

俺の自信ありげな発言を聞いてミラネルはゆっくり俺の前まで来ると腰を下ろした。


「まぁ今のところ他に方法があるわけでもないし、その話じっくりと聞こうじゃないか」


ミラネルが聞く体勢に入ったのを見てレティーナも俺の隣にある石に腰を下ろした。

俺は二人が聞く準備ができたのを見計らって話を始めた。


「まずミラネルが言っていたユグドラシルによる結界だが、多分だが今俺達がいるこの道そのものが結界の中心だと思うんだ」


俺は今まで歩いてきた道を指して言った。


「どうしてそんなことがわかるんだ?」


ミラネルは当然俺の話に疑問を呈した。

俺はその疑問が来ることがわかっていたように話を続ける。


「それはさっきこの場所で魔術が使えなかったことと、ミラネルが俺達に会う前にこの道の外で魔物に出くわしたことが鍵になっている」


「どういうことなんでしょうか?」


レティーナが首をかしげて俺に問いかける。


「つまりこの道では魔術が使えないってことは、何者かが魔術を使えないように細工をしているってことだ。

そうなれば当然魔物についても出現しないようにしているはず、もし魔物なんて野放しにしていたら、どんなイレギュラーなことが起こるかわからんからな」


「でもさっきここをスライムが通り過ぎましたけど……」


得意げに話す俺にレティーナは再び気になったことを話す。


「俺もそれは気になっていた。だけどよく思い出せあのスライムはたしかにこの道へ入ってきた。けど追いかけられてるのに俺達には目もくれず通り過ぎていっただろ?」


「あれは単に私達に反応してる場合じゃなかったからではないですか?」


ミラネルがもっと質問してくると思ったが、レティーナの方が目を輝かせ質問してきていた。

俺はそんなレティーナに驚きつつも話を続ける。


「たしかに最初はそう思ったけど、あのスライムを追っていたのはミラネル。エルフ族とはいえ同じ人型の生物、追いかけてきてる者と同じ形状をしている俺達にまったく反応しないのは不自然だと思う。

少なくとも別の方向に逃げ道を変えるとか、少し遠いところから茂みに入るとかあったと思うんだ」


「たしかにありえない話ではない。だがそれだけでこの場所が結界の中心だというのは早計じゃないか?」


話を聞いていたミラネルが切り込むように俺に言った。


「たしかにそれだけで言えるとは思わない。けど少なくともこの道の外には魔物がいて、ここにはいない。そこに違和感があるのは間違いない。

だから確かめたいんだ。俺達はまだこの道の外に出ていない、だから道の外で改めて俺達の魔術が使えるのかどうかを」


俺は拳を高く上げて立ち上がる。

二人は俺を見ながら苦笑していた。


「いろいろ言っていたが。結局、道の外に出たかったのか」


ミラネルは再び呆れながら言った。


「もっとすごい考えがあるのかと思ってたのに……結論があまりに普通で何とも言えない気持ちになりました」


レティーナは期待を裏切られたようで落胆しているようだった。

そして俺はすごく良い案だと思って自信ありげに語っていた自分が恥ずかしくて両手で顔を覆ってしまった。


改めて俺達は道の外へ出るべく道の端に立っていた。


「それじゃあ、せーので出るぞ」


俺が掛け声を決め二人に確認を取る。


「あたしはさっき出ていたんだが、何故いちいちこんなことを」


ミラネルは少しめんどくそうに言った。


「たしかに掛け声をする必要があるのか正直わかりません」


レティーナはこれをする意味をあまり理解できていないようだ。

俺は二人の返事を無視し掛け声を強引にかける。


「せーの!」


俺が掛け声をかけるとなんだかんだ二人は俺に足並みを揃えてくれた。

三人で一緒に一歩を踏み出すとそこは木々が生い茂る深い森の中だった。

後ろを振り返るとさっきまでいた道は存在している。


「やはりただの森じゃないか」


ミラネルは外の景色を知っていたからか少し不機嫌そうに言った。


「たしかに特に変わった様子はないですね。さっきの道から見てたよりも周りは深い森だったのが少し驚きですけど」


レティーナもほとんど違和感を感じていないようだ。


「よし見た目は普通に森だな。あとはここで魔術が使えるかどうかだが」


俺はさっきと同じように種を地面に落とし水が出るように強く念じる。

その内、両手の先がじんわりと熱くなってきて湧き水のように水が種に降り注いだ。


「それはさっきやっていたすごい魔術とかいうやつか?」


ミラネルは俺が種に水をやっていると気がついて近づいてきた。

その次の瞬間、あの時のように種が光輝いたかと思うと太い蔓が空へ目掛けて伸びていった。

俺は前回のこともあり光った瞬間退いたため蔓に巻き込まれることはなかった。

近寄っていたミラネルも少し蔓に当たっていたが尻餅をつき伸びて行く太い蔓を口を開けたまま眺めていた。

レティーナも伸びていくのを見るのは初めてなのかすっかり固まってしまっていた。

しばらく蔓は伸びたが、前回とは違い1つだけ植えたためそれほど巨大にはならなかったようだ。


「ななな、なんだこれは!?」


あまりの光景に驚きすぎてその場から動けないでいるミネラル。

その隣で驚きながらもはしゃぐレティーナ。


「前は伸びる瞬間は見れませんでしたけど、実際に見るとすごいですね! やっぱりバルトさんの魔術は他の人と何か違う気がします!!」


「これが俺の持ってる力。本当はさっき見せたかったんだけど、なんか植物を一気に育てることができる水を出すことができるんだ」


俺は両手で受け皿を作り念じると両手から水が溢れ出す。

量は多くないが放って置くととめどなく両手から零れ落ちていった。

ミラネルは未だ信じられないといった感じで立ち上がると太い蔓へ近づいた。


「あたしもこんな魔術を見たのは初めてだが、目の前でこう見せられると信じえざるおえないな」


まだ信じられないといった感じだが、太い蔓を触りながら興味津々のミラネル。

それほどまでに俺のスキルはこの世界では珍しいということなのだろう。

まぁ転生する際にもらったスキルだしなぁ。

そんなことを思っていると、不意に視界が真っ赤な光に包まれた。

何事かと思い顔を隠しながらそっと見ると、さきほどまでミラネルが首にかけていたペンダントの石が赤く光輝いていたのだった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る