第7話 ヌルゲー?2・乱入者

 俺は粘液状の巨獣スライムに寄生されたオーク——仮称オーク改——と戦っていたのだが、突然の乱入者により若干焦っていた。


 乱入者の正体は三つ編み金髪碧眼で推定七歳の少女ムギッコだ。鎧兵を警備のため一体だけ門番にしていたのが裏目に出た。素直に本体の近くに待機させて訪問者には居留守を使うべきだった。


 そういや、地球でゲームしていた時も訪問者に邪魔されたなぁ。最近のゲームはオンラインモードみたいの多いから安易に停止できないんだよね。懐かしいなぁ。


 ……って、現実逃避してる場合じゃないぞ俺。後悔と反省もあとだ。今は戦闘とお邪魔虫の両方を片付けねば。


「む、ムギッコ、何か用があるトン?」


 門番はNo.93、豚兜のトンカツだ。名前の由来は俺の好きな食べ物。見るたびお腹が減る。何でこんな名前にしたんだよ俺。


「トンカツー、いま寝てたでしょ!」


「ね、寝てないトン!」


「ウソだぁ、叩いても全然動かなかったじゃん!」


 いいから早く用件をだな……。


 瞬間、オーク改が動き出した。何かを煮込むような音がした後、スライムの粘液が触手のように何本も伸び、鎧兵達を絡め取っていく。


 ひぇぇ。鎧兵にクロールやバタフライをさせて泳ぐように脱出を試みるも上手くいかない。そして鎧がじわりじわりと消化されている。


 くそっ、捕まったら終わりだな。スライムの弱点は赤くて丸い核。それを探さないと。空中に浮遊しているトリプルモニターを素早く眺めてオークの全身をくまなく探る。


 ないないない! 背中にもお腹にも股間にもない! ってなると体内か? ……そうだ! まだ初めに体内で捕らえられた兵士がこっちに帰ってきてない! だとしたらまだ主観カメラが使えるかも。


 手元の打鍵感ばっちりのキーボードを操作してカメラを切り替える。……よし、映った! 鎧兵の体は溶かされ続けており、グミみたいにプニプニになっていた。しかし、辛うじて首が動いた。


 あった! 胃の内壁上部に大玉転がしの玉くらい大きい赤い核が張り付いていた。こうなるともう一度体内に忍び込む“自己犠牲アタック”を使いたいが、またスライムに取り込まれてさっきの二の舞になってしまう。


 だったらスライムが苦手とする“火”を使うか。火をおこせる武器は……うん、“火炎放射器”があるじゃん。


 魔法ワンオペは、鎧兵の数と同じだけ武器を製造できる。ミサイルのような地形を変えてしまうほどの戦略級兵器は無理だが、割と融通が効き、現代的な武器も作れるのだ。


 火炎放射器を持っているのは、騎士団No.90で第十小隊隊長“カレエ”お婆さんだ。名前の由来はカレー。俺の好きな食べ物。


 それとNo.96の“ヤキニック”。カーボーイハット風の兜を被り、西部劇に出そうなクールさとワイルドさを兼ね備えたおとこだぜ。名前の由来は焼肉。もちろん俺の好物。


 鎧兵マニアならもうお気付きだろう。そう、No.90〜99は俺の好きな食べ物由来の奴で固めている。それが第十小隊。ここテストに出るぞー。何のだよ。


「第二分隊を足下に!」


 指示を出しながらキーボードを操作する俺。別に声は出さなくてもいいんだけど何かカッコいいからつい言っちゃう。まぁ確認も兼ねてるからいいだろ。


「だいにぶんたいってなにー?」


 しまった! マイクを切り忘れた!


「し、新種の豚だトン」


「第二ブタさん! ってことぉ?」


 もうそれでいいからちょっとだけ大人しくしておいてくれムギッコさん。俺は今ゲーム、じゃなかった、死闘で忙しいんだから。


「グオオオ!」


 おいオーク、急に叫ぶなよ。近所迷惑だろ。


 敵は地団駄を踏み始め、小規模な地震が起きる。そして足元の第二分隊が潰れた空き缶みたいに圧縮されていく。


「死んだぜウェーイ!」

「あらあら、うわあああ!」

「ふむ、寿命かの。だがあるいは——」

「あたいがこんな豚に……!」


 サンダー、ライト、ダーク、ポイズンがクソみたいな台詞を吐きながら死んだ。ちなみに第二分隊は四体しかいない。団長ゼロをどの分隊にも入れなかったせいで、一人分少なくなってしまったのだ。まぁいまいち何言ってるかピンとこねぇよな。つまり俺がバカってこと。バカじゃないもん!


 とにもかくにも第二分隊がやられた事で自己犠牲アタック失敗、って思うじゃん? しかし甘いぜ。密かに近づいていたヤキニックが口内に飛び込むべくタイミングを測って大ジャンプしていた。勝った——かと思われたが、スライムの触手がヤキニックの脇腹をえぐった。


「グハッ、死んだぜベイベー!」


 ヤキニックは、荒野を転がる謎の草タンブルウィードのごとく地面を転がっていき岩に当たるとバラバラになった。


 オーク共め、連携バッチリじゃねぇか。寄生っつーか、相利共生そうりきょうせいっぽいな。ヤドカリとイソギンチャクみたいな互いに利益を得る関係。


 カレエさんを突撃させる。彼女はお婆さん、という設定だが所詮は設定。足は陸上選手並みに早い。腰がちょっと曲がったスタイルで全力疾走している姿はとてもシュールだ。


 そして目の前まで来た瞬間、火炎放射で威嚇。スライムが怯んだ。さらにオークが驚いて口を開いてしまっていた。よし、チャンス!


 はい! 飛び込んで侵入成功! ところが!


「シュッシュッ!」


「んー? 何してんのー?」


 間違えて変なアクションキー押してしまった。トンカツが虚空に向かって正拳突きをしている! 俺のバカ!


「しゅ、修行だトン!」


「あはは! かわいー!」


 くそー、何やってんだ俺。バイトをワンオペでやってただろ。マルチタスクは得意なんだよ……嘘です、得意じゃないです、無理してましたごめんなさい。


 ともかーく! 行け、カレエさん! 火炎放射だ!


 トンカツのマイクを切ったのを確認して俺は息を大きく吸い込んだ。


「ひゃひゃひゃひゃ! 燃えろっ燃えろぉ!!」


 火炎放射器をぶん回し、スライムを核ごと焼き払った。ふー、快感。


 外の兵隊の視点でオークを確認すると、苦しみ、のたうち回り始め、やがて息を引き取った。スライムもオークから剥がれ、ただのヌメヌメした水たまりのように動かなくなった。


 うぉっしゃあ! 勝利じゃあ!


「今、お屋敷からひゃひゃひゃ、って変な声したよー?」


 しまった! ここ防音じゃないし、そりゃあ外に直接聞こえるよな! 長閑のどかでいい場所だからね! 俺のバカ!


「団員の誰かが騒いでるトンね。気にしないで欲しいトン」


「ふぅん……トンカツ今日おかしいね。おくすり飲んだほうがいいよー?」


 たはは、ムギッコに心配されたら終わりだな。


「そ、そうトンね。今日はもう屋敷で寝るトン……ところで何の用事だったトン?」


「んー? 暇だから寄っただけー」


 このガキぃぃ……!


 ともかく勝利だ。後ろを振り返ると、破壊されて強制帰還した鎧兵及び鎧馬が所狭しと並んでいた。壁や床には穴が開きまくりだ。


 被害は約半数ってとこか……。


 うん、ヌルゲーだったな! 白目。

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