第17話 デュラン・デルト
勝利を確信し、高笑いと共に攻撃の苛烈さは増してゆく。
前線で戦うリックとアランは必死に攻撃を凌いでいるが、それもいずれ限界が来るのは目に見えていた。
「〝
「クレア、あいつの〝
「無茶言わないでよ、見ればわかるでしょ。原理を読み解くのでさえ難しい難解な禁術よ。脆弱性を突いて書き換えるどころか、どんな術式か読み解くのもままならないわ」
禁術の知識があるクレアでさえ、解読不可能な代物。
書き換えることはできない、となると、他に方法はあるのか……?
「方法は……ないんでしょうか?」
「〝
「他の〝
思考を巡らせる。奴にダメージを与える、その方法を。
だが、思いつかない。聖剣デュランデルは不壊の〝
「……あるには、ある……方法が、ひとつだけ。確実とは言えないが」
ひとつだけ。可能性があった。
既に人間を止めている奴に効果があるのかはわからないが、この方法がもし通れば、一発逆転の奇跡を起こすことができる――!
「本当なの、レイオス?」
「そのためには、俺があいつに極限まで近づかなければいけない。……それに、今のあいつにその方法が効く保証は、ない。結局全てが無駄になるかもしれない」
だが、間違いないという確証はなかった。
そんな俺の零した言葉に反応したのは、俺の幼馴染でもあるリックだった。
「水臭ぇこと言ってねぇで、俺達に任せろよ! 俺がお前の進む道を切り開いてやる!」
「リック……」
お前はいつもそうだった。無鉄砲で、それでいて、いつも俺達のために道を切り開いてくれた。どんな無茶だろうが、俺のことを信じて――。
「レイオス」
一瞬振り返ったアランは、俺の目を見て言葉を紡ぐ。
「――『どんな内容であれ、僕たち〝デュラン・デルト〟に不可能はない。そうだろう?』」
それは、いつしか俺が言った――みんなを鼓舞するための言葉だった。
「その言葉は――」
「レイオス、君が言った言葉だ。まさか嘘だったとは言わないよね」
微笑むアランは、飛んできた赤黒い魔法弾を斬り捨てながら、俺に向けて――この場の全員に向けて、告げる。
「〝デュラン・デルト〟がここに揃った以上、敗北はあり得ない」
絶対的な宣言。この場の誰にも疑わせない口調で、はっきりとそう断言した。
「僕達は、君を信じている。だから君も、僕達を信じてくれ」
それは、リーダーとして――そして、アラン自身としてのお願いだった。
何を今更――ああ、そうか――こんなの、今更の話だったな。ふっと笑みを漏らした俺は、その言葉を信じて軽く問いかける。
「……だいぶ無茶なお願いをすることになるぞ」
「いつものことさ」
俺達のやりとりは、それだけで十分だった。
覚悟も、やることも、全部決まった。後は、俺が指示するだけ。だから――
「頼む! 俺の為に道を切り開いてくれ! 後は俺がなんとかする!!」
その言葉に何も言わず、この場の全員が頷いた。
「何をしたって無駄だ!! 諦めて死ね! 死ね! 死んで我が肉体の糧となれッ!!」
雰囲気が変わったことを感じ取ったのか、剣を振る舞わし暴れ回るアレイスター。
そんな滑稽な姿を冷笑した俺は、その愚者に向けてはっきりと告げる。
「それが貴様の醜い本性か。それで神を名乗るとは聞いて呆れる」
剣を振り回し、赤子のように暴れる醜い姿に――俺は剣を突きつけると、
「今の貴様は神などでは断じてない! 禁術に頼り、ただ力に溺れる愚者に過ぎない!」
神を自称する彼に向けて、きっぱりと言い切った。
「みんな、奴を――魔神……いや、愚者アレイスターを討伐する! 準備はいいな?!」
「ああ!」「うん!」「ええ!」「はい!」
奴は神ではない。ただ力に溺れた愚者であると。
そんな奴に負けるような俺達ではない。掛け声と共に、俺達は動き出した。
「しねえええええええええええええええええええ!!」
「ホーリーシールド!!」
振り下ろされた二本の巨大な剣。絶対的な力を前に、アランは一歩前に出ると、仲間を守る為に盾を掲げる――すると、光の障壁が俺達全員を守るように展開された。
矛と盾が激突する。受け止めた衝撃でピシリと障壁日ヒビが走る――だが。
「はあああああああああああああああああああああああああッッ!!」
だが、アランは一歩も引かず、感情を剥き出しにして吠える。
徐々に徐々に、押し返す。光の障壁もどんどん深いヒビが走るが、そんなにお構いなしに攻撃を押し返し――そして。
「はあッ!!」
強引に、攻撃を弾き返した。同時に役目を終えて砕け散った光の破片があたりに散らばる。
大きくのけぞる愚者アレイスター。その隙に俺は、剣を突きつけ叫んだ。
「クレア!!」
「ええ!! ――開け、言の葉の門よ!! 我が敵を氷獄の海に沈めよ!! ブリザード!!」
肌を引き裂くような暴風雪が、敵に襲いかかる。動きが鈍ったそこに、さらなる一撃を叩き込む――!
「――我が敵を凍て貫け!! アイスランス!!」
傷がつかない相手なら、動きを止めるのが効果的。
アークメイジの下の左手右手に鋭い氷の槍が突き刺さり、そこを始点に氷が手首を侵食し、奴の手を封じる枷となる。
その隙に俺達は全速力で駆け出した。
「アランは右手を! リックは左手を相手してくれ!!」
「わかった!」「おうよ!」
共に駆ける仲間達が、速度を増して先行する。
一番の障壁となる剣を持った腕を相手するべく、二人は覚悟を決めて相対する。
「そんなへなちょこ攻撃、喰らわねぇんだよ!!」
四人に分身したリックが、身軽な動きで左手を翻弄する。
奴の重い身体ではリックを捉えるには速度が足りない。軽々と避けたナイトウォーカーは、その隙だらけな腕を蹴り飛ばし、攻撃を喰らわせる。
「邪魔はさせないよ」
振りかぶった大きな剣を、正面からホワイトパラディンの盾が受け止める。
まるで山の如く、あれだけの攻撃を受け止めて一切動じない。どころか、弾き返してみせる。
二人の最上級冒険者が切り開いた道に、俺とセラは全速力で駆け抜けた。
「これでも喰らえェェェッッ!!」
瞳にある第三の目が光る。腕を封じただけじゃ足りなかったか!!
どう避ける、一瞬の逡巡。その隙に、後ろからついてきていた少女が――アークビショップが前に出る。
「セラ?!」
セラは、この場でできることが何か、考えていた。
ここまでみんなが苦戦していたのはきっと、私を守りながらみんなが戦っていたからだ。
守られるだけなのは、嫌だった。何か役に立ちたいと、強く願っていた。
この場に頼れる治癒術師がいる以上、回復はこれ以上いらない。
なら、私にできることは――それ以外のこと。
彼ができない、それ以外のことで――今度は、仲間を守るんだ――と!
「――プロテクトバリア!!」
放たれた光線を、バリアが受け止める。
一手先を読み、二手先を読み、できることがあるとしたら――と、唱えていた障壁魔法。
それをここぞというタイミングで、解き放った。
「きゃあっ?!」
光線を受け止め、爆発する。その余波をまともに受け、その場に転ぶセラ。
彼女のためにも、みんなのためにも、ここで終わらせる――!
「喰らえッッッ!!」
握り締めていた小瓶の蓋を開け、その中身を彼の顔面に叩きつける!
薄紫色の粉が舞い、それを受けた愚者アレイスターが咳き込む。だが、それだけだった。
再び立ち直った彼は、そんな俺達の努力を無駄だとあざ笑う。
「この身は完全不滅! 今更貴様が何をしたところで意味など――」
「
「――――――?! アアアアァァァァァアアアァァァァァッッッ!!」
掲げた手から、敵に向かってヒールを撃ち込む。
本来なら回復するはずの魔法を受けた彼は、痛みに絶叫を上げ、剣を取り落とす。
ありえない。胸を抑えながら、そんな目でこちらを睨みつける。
「な、何をした……我の身体に、何を――貴様ァァァッッ……」
どうやら、成功のようだ。今だ状況を理解していない彼に向けて、俺は端的に告げる。
「アンデットパウダー」
それは俺が先日用意した、とっておきの切り札。
「通常の攻撃を無効化する代わり、回復が魔力神経へのダメージとなる〝
〝
「人の身を捨てて、魔力で命を繋ぎ止めている貴様には効果は抜群だろう」
それは図らずとも、彼にとっての弱点たりうる策だった。
「な、何故……この身はあらゆる効果を受け付けぬ、そういう話じゃなかったのか!?」
「誰から話を聞いたかは知らんが、状態異常を無効にしたところで、良い効果は防げない」
アンデットパウダーの回復反転効果はあくまで、薬の副作用だ。
本来は有益な効果であるが故に、状態異常無効で防げるような代物じゃない。
「さぁ、ここからは根比べといこうか」
手を掲げ、俺の使えるたったひとつの魔法を構える。
「貴様のその馬鹿みたいな体力がどこまで持つか――先に俺の魔力が尽きるか――」
「ひっ……や、やめ……やめろ……」
「――勝負といこうじゃないか」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「――ヒール!!」
声にならない絶叫が、都市中に響き渡る。
――そしてそれが途絶えた時――全てに決着がついた。
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