第50章| プリーズ・トラスト・ミー <15>つれないデービッド(紺野トモコの視点)
<15>
――――――――・・・・・・――――――――・・・―――・
羊原ショーンが各テーブルを回り談笑している最中。
あたしの座るテーブルの人たちがよそに気を取られている隙を見て、デービッドに囁いた。
「この前のバーベキュー、楽しかったですね~。ねぇ、今度は二人で出かけません? ねっ? 」
周囲にバレないように、ちょこんと腰をデービッドにくっつける。
マッチングアプリで出会ってしばらくしたあと、デービッドはマッチングアプリを退会してしまったようだ。もうアプリ上ではあたしから、デービッドのプロフを見ることはできなくなっている。
それで今、デービッドとは毎日のようにLIMEでやり取りをしているけど、誘われるのは集団でのバーベキューパーティとか、今日みたいな講演会だとか・・・・・・。雑談プラス、ビジネスの話って感じだ。
確かに紹介制のハーブがいいものなのは認めるけど、あたし達は恋愛を求めて出会ったはずなのに、いつの間にか関係性が知人ポジションになってしまっているのが解せない。
「うーん、そうだな・・・・・・・・・・・・」
煮え切らない態度。
オトコからこういう風に扱われるのって不愉快だ。
こっちだって複数同時進行はしているけど、あたしの方からイケますサインを出しているんだから、そこは素直に食いついてほしい。
「今はビジネスに集中したいからさ。二人で会うっていうよりは、こうしてグループで会いたいかな。トモコも、一緒に夢を叶えようよ」
筋肉ムキムキの強オスみたいな身体をしているくせに、呆れるほど女々しいセリフである。
「あっ、そう・・・・・・・・・」
興醒めした気分でいると、テーブルに羊原ショーンが回ってきた。
「みなさ~ん。乗ってマスカ~!? 最高デスカ~!? 」
デービッドにつれない態度を取られてこっちも気が立っているので、羊原ショーンの演技くさい口調や、仮面を貼り付けたような “温かい笑顔” にイマイチ気乗りがしない。
キャアキャア言っているテーブルの面々に対して、冷え切ったあたしの態度に気付いたのか、ショーンが声をかけてきた。
「そこのお綺麗なお嬢さん。どうしましたか、浮かない顔をして」
――――――――褒められたら嬉しい。『綺麗なお嬢さん』という歯の浮くようなお世辞にも、思わず笑みがでてしまう。
「べっ・・・・・・別にっ。浮かない顔ってことはありませんケド? 」
「そうですか。何か悩み事でもあるんですか」
「えっと・・・・・・。働くのが大変だってことと、素敵な旦那さんが欲しいってことですかね~っ」
あたしが卑屈なセリフを吐くと、隣の劣化女子アナが『私も同じ~っ! 』と言ってきた。
チッ、一緒にすんなよ・・・・・・・・・。
「えっ? こんなにお美しいのに? 」
ショーンが眉間にすっと皺を入れて、納得できない、というふうに首をかしげて言った。
「・・・・・・・・・あのねぇ。僕、実は、霊感があるんです」
「はぁ!? 霊感!? 」思わず叫んだ。
「そう。見えるんです。その人の本質が。ちょっと占わせてもらってもいいですか」ショーンがぐいっとこちらに身を乗り出した。
「えっ・・・・・・ま、まぁいいですけど・・・・・・」
占いはけっこう好きだ。いつも自分の力で自分の方向性を決めるのってシンドイ。大きな力を持っている誰かに自分の未来を教えて欲しい。本質を教えて欲しい。そういう日がある。
ショーンに言われて氏名と生年月日を教えた。
ショーンが『紺野トモコ』とあたしの名前を紙に書いて、その上に、いくつもの数字を書き入れた。
「んんんん・・・・・・・・・。トモコさん。あぁ。見えます。あなたは『
「う、うん。そうね」
「それに『
「それも・・・・・・当たってる」
あたしの言葉に、内田がうわぁ~、と感嘆の声を上げた。
「それに『お金に関して心配事を抱えている・・・・・・』でもそれは今年まで」
「えっ!? 」
良さそうな予言でテンションが上がる。デービッドや内田、ニセ女子アナも色めき立った。特に、さっきあたしに冷たくしたデービッドの顔が羨ましげに歪んだのを見て、内心、ざまあみろ、と思った。
「来年は金運が爆上がりしますよ。ああ、ここにも大国隆神様の赤い
ショーンが紙に『氣』と書いた。
「何それ。いいじゃない♪ 」ショーンが言ったナントカ様のことは知らないけど、ちょっと嬉しくなる。
「強い波動・・・・・・トモコ・・・・・・あなたは本物と偽物を見分ける目を持っている女性だ。素晴らしい高みに達することが可能だ。だけど凶の道も見えている・・・・・・それは行動しないことによって訪れます」ショーンが手かざしをしながら呟いた。
「凶!!? 凶は嫌だな~」
「そう・・・・・・トモコ、落とし穴を避けられるなら避けたいですよね? 」
「もちろんよ! 」
「お金持ちにもなりたいですね? 」
「Yes!! 」
「僕を信じてくれマスカ? 」
「え、ええ・・・・・・はい。信じます」
「じゃあすぐに、リストを作ってください。ハーブをお勧めし、売ることができそうな可能性が少しでもあれば・・・・・・まずは300人。目標は1000人。氏名を書き出して。そして次々に連絡すること」
「さ、300人!!? 」
「トモコ・・・・・・あなたは沢山の人と関わるおシゴトをしているんじゃないですか? 」
ショーンが紙にサラサラと『仕事』『志事』、少し離して『円』『縁』と字を書いた。
「えっ・・・・・・まぁ、そうですね」
看護師は確かに、仕事で沢山の人に関わる。患者さんとか・・・・・・。
「そう。それなら、お仕事で出会う相手だっていいでしょう。職場の同僚や先輩後輩、ビジネスでお付き合いが発生する人々。それから、よくランチにいくお店の人、よく使うコンビニの店員、宅配便の配達員。生まれた日から遡って過去の同級生と先輩後輩たち。隣近所に住む人。お友達、親戚、家族。全部を合わせたら相当な人数になるでしょう」
「書き出して・・・・・・その人たち全員にハーブを売り込むんですか? それは無・・・・・・」
無理、と言おうとして遮られた。
「無理、と言ってはいけません」
ショーンが突然、悲しい眼をした。
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