第48章| 高度に発達した産業医面談は遊びと見分けがつかない <6>伝える工夫
<6>
「荒巻先生、行ってしまいましたね・・・・・・。先ほどの面談、あんなに色々な理由があって会話が組み立てられていたなんて・・・・・・全然気がつきませんでした」
「荒巻先生の面談って、雑談とかお遊びにしか見えないよね。
でも・・・・・・。病院に来るときの患者さんってだいたい『ツライ、痛い、助けてほしい』と思っているからお医者さんの言うことに従ってくれるけど、社員さんが産業医面談や保健指導を受けるときは『現状を変えたくない』『今のところそれほど困ってない』っていう人が大半でしょう? だから荒巻先生は、ああやって面白いコトをやって、産業医の言葉に耳を傾けてもらう仕掛けを工夫しているんじゃないかな」
「確かに・・・・・・、保健師が行う保健指導も難しいですもんね。社員さんの食事や運動に関するアドバイスをしても次にお会いしたときには何も生活が変わっていなかったり、そもそも保健師と会うことさえ嫌だっていう人とか、そんな話は余計なお世話だっていう雰囲気で話が盛り上がらない人もいました」
「わかるー。私もそうだったよ。そうやって対象者に話を聞いてもらえない体験を繰り返すうちに、保健指導に苦手意識を持ってやりたがらなかったり、やっても流れ作業みたいにしてしまう産業保健職もいるよね。相手の気持ちを変える努力を諦めて “私は伝えたんだから、あとは自己責任です” って割り切ってしまうほうが、ある意味ラクだし」
「でもそうやって割り切ってしまうと、対象者の行動は変えられないから・・・・・・本当の意味で“伝えた”って言えるのか疑問も残りますね」
「うん。『最後は自己責任』っていうのは正しいんだけど、じゃあ対象者の行動を何も変えられない保健師って会社にいる意味あるのかな? 健康関連の事務作業をこなす役割のひと? って思うし・・・・・・何より、そういうやり取りだけ繰り返してると、だんだん自分がこの仕事を嫌いになっていく気がするの。
荒巻先生は、全体的にかなりいい加減なんだけど、社員さんとのコミュニケーションを諦めてない姿勢は凄いと思ってるんだ」
「そうなんですね・・・・・・。あ~、マジックの秘密も知りたかったです・・・・・・」
「うふふっ。それは荒巻先生と同行しているうちに分かってくるんじゃないかな? さてと。私たちは残りの仕事をしよっか」
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