第8章|右肩上がりの市場価値 <2>『サラリーマン・ブラザーズ』
<2>
――――会社の経理を最大限に効率化するなら『ワンニャンクラウド会計!!』
短いスキマ時間にさえ仕事に没頭する鈴木先生を横目に、私はつい、タクシーの助手席背中部分に搭載された、宣伝用のタブレット画面を眺めた。
鈴木先生と一緒に会社訪問をするようになって、私もたびたび同伴でタクシーに乗っているんだけど、昼の時間帯に都内を走るタクシーに乗っているひとはビジネスパーソンが多いのか、私がタクシーで見る宣伝内容の大半は、ビジネス関連だ。
話題の芸人や、会社で働く人が登場するようなCMで、“御社の業務を効率化”系、“人事やオフィスにお役立ち”系、それか、高級な商品や旅行などの宣伝が多い。キャッチ―で、ついついずっと見てしまう。
画面が、雑誌の宣伝に変わった。
――――もし『リーマソ・ブラザーズ』が『リーマソ・シスターズ』だったら、金融危機は起きなかった……正しい意思決定にこだわる、女性投資家の挑戦……『Folks JAPAN』
画面には、白いスーツの襟元に素敵なスカーフを巻いた、いかにも優秀で誠実なビジネスウーマン、という感じの女性の写真が浮かび上がった。
清潔感のあるミディアムボブのヘアスタイル。真珠のイヤリングとネックレス。年齢は50代半ばぐらいだろうか。
(リーマソ・ブラザーズ……??)
なんか、最近、どこかで聞いたような言葉だ。
……リーマソ……
……リーマン……
……サラリーマン? ブラザーズ……
えーと……『スーパーマリオブラザース』みたいな感じかなぁ……??
私の脳内に、“マリオとルイージ”VS“サラリーマン・ブラザーズ”の図、がふと浮かんだ。
弟の耕大と、北海道の実家ではよく、『マリオカート』で遊んだ。
大盛り上がりで、毎回、楽しかったな。
“サラリーマン・ブラザーズ”がマリオカートに出場するとしたら、投げるアイテムは何が面白いかなぁ。名刺?お金?
テッテッテッテッ、チャリンチャリン。
脳内で、『マリオカート』のプレイ画面を想像した。
「……さん!! 足立さん、着きましたよ! 早くタクシーから降りてください」
「は、はいぃぃっ!! 」
しまった。『マリオカート』の新キャラを妄想していたら、あっという間に次の訪問先に着いてしまったみたいだ。鈴木先生に促されてタクシーを降りた。
ほんと、東京は時間の流れが速いなぁ。
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