愛を知るために優等生を演じるオレ。だけど、同居人も闇を抱え過ぎて偽りだらけの関係になっているんだが。

宮鳥雨

第1章 探恋部始動⁉

プロローグ

『この世に生まれてきて、愛されない子供なんて1人もいない』


 このような言葉をオレは一体何度、耳にしてきただろうか。


 学校の集会を聞けば校長がそのような話を長い話の中に織り混ぜたり、テレビをつければ専門家のような人たちが議論している。


 だけど、オレは不思議に思う。本当にすべての人間が愛情を注がれているのだろうかって。愛情を注いでいるように見えているだけで、本当は哀れまれているだけではないのだろうか。その人に愛情をもって接するのと、哀れんで気にかけてやるのでは雲泥の差であることに他の人は気づいていないのだろうか。


 もし、本当に誰か1人からでも愛を受けていたのなら、中高生の自殺数はもっと減っているのではないだろうか? 親による虐待だってもっと早く解決できるのではないだろうか?


 そうならないのは、自分たちは味方だと言う割には、本当に困ったときに役に立っていないからなんだろう。言葉だけで愛情を注いだ気になっているだけ。もし本当に愛情を注いでいたのなら、多くの子供たちが今も生きることができていたはずだ。


 だが、素直にこんなことを口に出せば、オレは多くの人から叩かれているだろう。「自分たちはちゃんと子供たちに愛情を注いでいる」と。


 でもしょうがないだろ。ここに愛情を注がれなかった人間がいるのだから。誰にも心を許すことはない。そんな人間を生み出したのがこの社会だ。だからオレの考えを批判する謂れはないはずだ。


 だからといって、オレは一人で生きてきたとは言わない。この年まで育ててくれた人はいる。だけどそれは哀れんで手を差し伸べてくれただけだ。だけどそれはオレにとって虚しいだけであった。自分の周りにいくら人がいようと、オレの心の氷を溶かすことはなかった。


 信じていた人に裏切られる。小さかった時に受けた傷は未だに癒えることはない。それでもそれは愛情表現だったと抜かすのだろうか。そんな言い訳はオレは許さない。


 自分は愛されない存在だと分かっている。それが分かっているつもりだが、どこか誰かに愛していてほしいと思ってしまっている自分がいる。だけどオレには愛情というものがもはや分からなくなってしまった。


「何で結婚したのか?」

 それは、愛があるからと誰かは言った。でも結婚した人の3分の1が離婚している事実がある。


「何故子供を産むの?」

 それは、子供が欲しいからと誰かが言った。でも生まれてきた子供に対して虐待をする親もいる。


 こんな矛盾が生じてしまうのはおかしな話だ。だけど、この矛盾は少ない話ではない。ならどうしてそのような矛盾が生じるのか、それは最初こそは愛情があったとしても、途中で愛せない人間だと思ってしまったからなのではないか。


 でもそれは結局最初から愛を持っていなかったのと同じことなのではないだろうか。最後まで一緒に居られない。一時の感情だけで判断するからこのような事態を招く。


 そして、オレ自身も愛されない側の人間なのかもしれない。オレが周りの期待に沿えないから、オレの性格が気に入らないから。理由が何であるかは分からないが、愛されていなかったことは間違いないだろう。


 だから、俺は演じることにした。素のオレを好いてくれる人はこの世にはいない、ならば誰からも愛されるような人物を演じるしかない。


 そうすれば愛について知ることができるのではないかって。でも、何年経っても知ることはできなかった。


 そして最近になってオレにとって都合の良いことが起こった。同じアパートに住む同居人が、「探恋部」というよく分からないものを作り出したことにある。なんでも他人の恋愛相談に乗るとかという、活動する意味があるのか分からないものだった。


 だが、この「探恋部」を利用すれば、『恋』について知ることができるのではないだろうか。恋を知れば『愛』というものも分かるのではないだろうか。


 だからオレは自分のために、この部活を利用する。それは、決して他人の恋路を応援するためではない。





 オレの目的を邪魔する奴は誰だろうと排除する。

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