魔物の死体をネクロマンサーがもっていった
「あ゛ーーー面倒くさい……」
俺がソファに寝転んで愚痴っているとシャミアが声をかけてきた。
「どうしたんですかルード様? ここまで到達しそうな方が入ってきたんですか?」
「惜しいな、そこそこの実力者が来たんだよ。まあそいつは結局勝てないと判断して逃げ帰ったわけだが……」
「じゃあ構わないじゃないですか? 回復する必要も無かったんでしょう?」
「それはそうなんだがな……雑魚を倒しては一旦退いてを繰り返すもんだから小物の死体がたくさん出来たんだよ。これを処理しとかないとアンデッドになるからな、始末をつけておかないとならないわけだが……」
シャミアはポンと手を打って頷いた。
「なるほど、その処理が面倒くさいと?」
「そうだよ、シャミアさあ、なんかプリースト系のスキルを持ってたりしないか? わざわざ生贄にされるくらいなんだから特別なスキルでも……」
「無いですね。私は村でも落ちこぼれだったから生贄にされたわけですし」
にべもない返答だった。ああ、俺が出向くしかないのか。まったく、パーティで攻略しようとするならプリーストの一人でも仲間にしておけってんだよ。後始末をする方の身にもなってほしいものだ。
「しょうがないなあ……まったく、人間を助けるだけでも面倒なのに魔物の後始末までさせられるのか……」
するとシャミアが俺に疑問を投げかけた。
「別に無視すればいいのでは? アンデッドもここまでは来ないでしょうし、ルード様が魔物のケアまでする必要は無いと思うのですが……」
「そこは色々偉大なものに付き従うものとしての義務があるんだよ……」
あの自称神を偉大なものだとは微塵も思っていないがな! はた迷惑なことばかりをしてくれるクソみたいな神だ。しかしそんなものでも勇者を生み出し魔王だった俺を打ち倒したのだから従うしかない。力こそ全ては俺の信念だからな。
「ルード様も案外大変なんですね」
「俺をなんだと思っているんだ? 部下からいつも命を狙われ敵はものすごく強い相手ばかりな生活を送ってきたんだぞ? 今の暮らしなんて面倒なだけで大変というのは少し違うよ」
少なくとも小物の死体を始末するのに命の危険は無いからな。勇者に命を狙われるようなことはないので安心して生活できる。人間が他者に優しく出来るのは常時命を狙われているようなことが無いからではないかと思っている、魔王時代はそれはそれで苦労していたからな。
結界マップに探索パーティが戦っていた地点を表示してそこへポータルを開こうとした。マップに背を向けた時にシャミアから声がかかった。
「ルード様、新規で人が来たようですよ」
「なんだよ……これ以上面倒事を増やす気か……本当に勘弁してくれよ」
マップに向き直ると先ほど侵入してきたパーティがいた地点に人間のマークが出ていた。
まーた侵入者か。いい加減にしてほしいものだ。俺が追い払ってもいいのだが人間を傷つけるとまたあのエセ神がやかましそうだからな。死にそうになったら助けてやるくらいでいいだろう。
「ルード様、魔物の死体を集めていますよ!」
シャミアがマップから映像を表示して侵入してきた男を映していた。
「操作を覚えたのか、なかなか筋がいいじゃないか」
「えへへ……ルード様も褒めてくださるんですね」
「ああ、信用できる部下だからな」
マジで魔王時代は信用できる部下は皆無だったからな。隙あらば自分が魔王の座に着こうとする連中ばかりだった。
「死体の処理でもしてくれるのか?」
「そう言う様子もないですね。何やら魔方陣のようなものを書いていますが」
「プリーストか? 浄化してくれるのか」
俺は映像を覗いてみた。そしてよく見ていた魔方陣を人間が書いていることを見てしまった。
「あれは……」
「ルード様?」
俺はそっと映像を閉じて何も見なかったことにした。死体の処理は終わったので問題からは目をそらそう。親切な人間が魔物の死体を処理してくれた、それでいいではないか。
「どうしたんですかルード様? 何故映像を消したんですか?」
「アレは死体を動かして従える儀式の魔方陣だ」
「え……?」
つまり……
「あの男はネクロマンサーだろう。戦力になると思ってここに来て死体を回収したんだろう。アイツが何をするのかは知ったこっちゃないし、死体の処理はしてくれたんだから感謝して俺たちは何も見なかったことにしよう」
「いいんですか?」
「ああ、ネクロマンサーは死体を動かせるが生きている時ほどの力は出せないからな。外周部に出てくる魔物程度ならゾンビ化させても大した戦力にはならないさ」
シャミアもあきれている様子だった。
「隙あらば自分の者にしたいって方もいるんですねえ……油断ならないですね」
「まあ今回は後始末の手間が省けて良かったよ。深く考えるのはよそう」
そうして二人でお茶会を始めた。その日はそれきりで何事も無かったので俺たちはあのネクロマンサーは死体処理をしてくれた親切な物好きとして深入りしないことに決めたのだった。
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