とってもカワイイ私と付き合ってよ!お正月短編
三上こた
第1話 初詣に向かうカップル
「お、大和君。もう来てたんだー」
朝六時前の明朝。
自宅のマンションから出てきた結朱は、建物の前で立っていた俺を見るなり弾むような足取りで近づいてきた。
「おう。今着いたばっかだけどな」
そう言って結朱を迎え入れるも、彼女は何か思い出したように立ち止まった。
「あ、そうだ。あけましておめでとうございます」
「ん。あけましておめでとうございます」
二人でぺこりと頭を下げ、再び顔を突き合わせる。
その、妙に神妙な感じになってしまった空気がおかしくて、二人して笑った。
「えへへ。じゃ、行こうか。初日の出までに着きたいし」
「そうだな」
そうして俺たちは並んで歩き出す。
今日は一月一日。
結朱と本当に付き合うようになってから、初めての年明けを迎えていた。
長い階段を上り、境内に入る。
正月だから凄まじく混んでいるものだと思ったが、予想に反して参拝客の姿はまばらだった。
「意外と空いてるんだな」
俺が素直な感想を零すと、結朱は軽く頷いた。
「まあ、この辺だともっと大きな厄除けの神社あるからね」
「そうなのか? じゃあ、なんでわざわざこっちを選んだんだ?」
そう問いかけると、結朱は何故かしたり顔を浮かべた。
「そりゃあ、この神社の御利益は身を以て知っているからね! 覚えてない? 前にここに来た時のこと」
「あー……あったな」
確か何ヶ月か前に二人で来て、恋愛成就のお守りとか買ったっけ。
「その時に私は願ったのです。私のことが好きで好きで仕方ない大和君が素直になりますようにと。それがこうして見事に叶ったわけですよ」
やたらと得意げな顔をする結朱。
本当に付き合った今となっては、なかなか否定しづらいのが厄介なところだ。
「……ま、確かに御利益はありそうだな」
俺も渋々認めると、結朱は楽しそうに笑った。
「でしょ? というわけで大和君も願い事をよく考えるといいよ。『結朱ちゃんがいつまでも自分を好きでいてくれますように』とか、『結朱ちゃんがもっと自分を好きになりますように』とか」
「『結朱ちゃんがもう少しうざくなくなりますように』じゃ駄目か?」
「駄目だね! だって現時点で全くうざくないし! せっかくの願い事が無駄打ちになっちゃうよ!」
「分かった。じゃあ『結朱ちゃんが自分のうざさを自覚してくれますように』って願うわ」
「なんだとー!」
そんな馬鹿な話をしていると、俺たちの番が回ってきた。
賽銭を入れ、鐘を鳴らしてから二礼二拍手一礼をする。
そうして、ここに来る前から決めていた願い事を告げた。
そのまま数秒かけて願い事を終えた俺たちは、同時に顔を上げて列から離れる。
「……で、どんな願い事をしたの?」
よほど気になるのか、開口一番そんなことを訊ねてくる結朱。
「まあ、『面白いゲームがたくさん発売されますように』だよ」
そう告げると、結朱は頬を膨らませた。
「むー……私のことじゃないし。ていうか私よりゲームに時間使う気満々なのが目に見えてるんだけど。君の彼女は非常に寂しがりなのでもっと構うべきだと思うよ」
俺の裾をくいくいと引っ張りながら抗議してくる結朱。
「いや、二人でやればいいだろ」
「え?」
目を丸くする結朱に、俺は少し照れながら説明する。
「だから、二人で楽しめるような面白いゲームがたくさん発売されますようにって願ったんだけど」
そう言うと、結朱は少し間を置いてから、にやにやと笑った。
「なにそれ。大和君はほんとなんでもゲームに結びつけるねー? もうちょっとロマンティックなことを考えられないものかな?」
「似合わないことすると痛い目見るって学んだからな。一週間ちょい前に」
まだ微妙に痛む足首を一瞥してから、結朱に視線を向ける。
「そういうお前は何を願ったんだよ」
訊ね返すと、結朱は調子に乗ったのか、悪戯っぽい上目遣いをしてきた。
「んー? 『大和君がゲームより私を好きになってくれますように』って。いやもう本当になんでもゲーム中心に考える彼氏を持つと大変だよ」
俺をからかう気満々の彼女に、俺は一つ溜め息を吐いてから答えた。
「馬鹿だな、お前。さっき言ったこと、自分でやってるじゃねえか」
「え、どういうこと?」
きょとんと小首を傾げる結朱に、俺は真顔を作って言った。
「――願い事の無駄打ちってやつだよ」
俺の台詞が上手く理解できなかったのか、結朱は少しだけ考え込むように沈黙した。
が、数秒すると意味が分かったのか、みるみるうちに顔を赤くする。
「きゅ、急に何言ってるの、もう!」
「お前、年が明けても相変わらず防御力がないね」
見事にカウンターを入れて気分のいい俺が笑うと、結朱は耳まで赤くしながら恨めしそうな目をしてきた。
「うー……い、いきなり言われたら誰だってこうなるし! 多分!」
「いやあ、今年も結朱ちゃんは最高に可愛いなあ」
結朱の目を覗き込んでみると、彼女は悔しそうにしながらも恥ずかしさに負けたのか顔を逸らした。
「一番嬉しくないタイミングで言われたんだけど! そもそもね、大和君が普段から私のことを褒めないから耐性がつかないの! もっと私の防御力が上がるまで褒め倒してほしい」
「よし分かった。じゃあ今から褒め倒すか」
「えっ」
まさか承諾されると思わなかったのか、結朱は硬直した。
その隙を逃さず、俺は攻勢に出る。
「結朱は本当に可愛いなあ。正月から結朱に会えてとっても嬉しいわ。マジで照れてる顔も超可愛い」
「タ、タイム! 不意打ちとは卑怯な!」
「お前が要求してきたんだろうが」
俺の正論パンチに結朱は首まで真っ赤になりながらよろめく。
「くぅ……! このままじゃ致死量超えて照れ死するよ! 一旦抑える方向で」
「分かった。じゃ、来年の正月まで褒め言葉は取っておく」
「それは取っておきすぎだよ! もっと頻繁に褒めて!」
「よし、分かった。じゃあまた今から――」
「きょ、今日はもういいから! ほら、初日の出見よっ!」
「はいはい」
苦笑してから、結朱と二人で昇りつつある朝日を待つ。
俺たち見晴らしのいい場所にたどり着くと同時に、山の向こうからゆったりと昇ってくるのが見えた。
いつもと同じはずなのに、どこか特別に神々しく感じる太陽の光。
だけど、今年はあまりじっくりと眺める気にはならなかった。
何故なら、
「わぁ……綺麗だね」
初日の出が昇る間、それを柔らかい表情で見つめる結朱のほうに、俺の目は奪われていたから。
――やはり結朱の願い事は無駄打ちだったらしい。
とってもカワイイ私と付き合ってよ!お正月短編 三上こた @only_M
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます