第6話「心の傷と小柄な温もり」

第六章


「何の用でここにいるんだ。」

「なんだっていいじゃーん。久しぶりの再会なのに嬉しくないの?」

「何でこの家の鍵を持っている。」

「おばさんに借りたんだよ。祥ちゃん、おばさんからの連絡も無視してるなんて酷す     

 ぎー。様子を見に行ってくるからって言ったら、すぐに貸してくれたよ。」

(………。)

 まさかこんな形で連絡していなかったことを後悔することになるとは…、さすがに予想もしていなかったし出来なかった。

 寿みなみ。

 僕の遠い親戚であり、小中学校の同級生の腐れ縁で…、後述するが『元』許嫁だ。

 今の僕はどうしても、こいつとだけは喋りたくなかった。

「帰ってくれ。」

「ひどーい。今日くらい泊まっていってもいでしょ?」

「あのなあ…。」

 もっと強く言わないと駄目かと思ったとき、みなみの視線が僕の替えから外れていることに気が付いた。

「祥ちゃん、外に誰かいるの?」

 気が付かれるのも時間の問題だと思っていたが、僕としては否定するしかない。

「誰もいねーよ。」

「でも、ドアがちょっとだけ開いてるよ…?」

 急いで振り返ると、ドアの隙間から未来が心配そうに僕たちの様子を見ていた。

「お友達がいるなら入れてあげないとかわいそうじゃん。」

 そう言うと僕の賢明な制止もむなしく、玄関のドアを開けたみなみだったが、声を発することなく固まっている。

 僕はみなみが何を思っているのか、容易に察しがついた。

「ふーん。」

「あ、えっと…。」

 未来が困惑している。

 これはさすがに動揺を隠せない展開になってしまう。

「ねえ祥ちゃん?」

「何だよ。」

「カノジョ?」

 言葉一つ一つをとっても、悪意のある言い方をしているのは明らかだった。

 これはとても面倒だけど、この場を乗り切るには全てを正直に正確に話す必要がある。

「彼女だよ。」

「やっぱりそうなんだ。」

 そう言うとくるりと未来のほうを向いて、

「初めまして。祥ちゃんの元彼女の寿みなみって言いまーす。」

「お前と付き合った記憶は一ミリもない。一体どういうつもりだ、何をしに来たん

 だ?」

 どうも僕の近況を知ろうとして来ただけではない気がする。

 しかしその真意が分からない…、いや、昔からそこを隠すことが上手かったことを忘れていた。

「あなた、男の人でしょ。」

「…はい。」

(これ、マジで止めに入ったほうがいいな。)

 そう思った僕は、玄関へと急いで二人の間に入った。

「おいっ。僕の様子を見に来たんだろ?だとしたら未来は関係ない。」

 しかし、みなみの行為は暴走ともとれるような形になって、未来へと襲い掛かった。

「その恰好、可愛いと思ってるの?」

「え…。」

「あははっ、へんなのー!」

「おいっ、みなみ!!」

 思わず声を荒げてしまったほどに、この状況を看過せずにはいられなかった。

 何としてもだ。

「なに祥ちゃん、こんな人がタイプなの?」

「今すぐ帰れ。」

「こんな気持ち悪い趣味の人なんて相手にする必要ないのに。変な病気がうつる

 よ。」

「黙れよ。」

 未来がいなかったらこいつをぶん殴っていたところだった。

「なーんだ。大人たちが言ってた通り、祥ちゃんもこの変態さんと同類なんだね。ガ

 ッカリ通り越してマジでうける。病気ってやっぱり治らないんだねー。気持ち悪

 い。」

「お前自分が何言ってるのか分かってるのか!」

 不敵な笑みを浮かべているみなみは、留まることを知らなかった。

(おかしい。この手の話題に拒否反応を示すことは知っていたけど、今こいつが醸し出しているのは拒否反応ではない。嫌悪だ。)

「祥ちゃん。」

「何だ。」

「本当にこの人のことが好きなの?」

「ああ、もちろんだ。」

 フーンといった表情で僕と未来を交互に見ているみなみ。

「らしくないね。」

「どういうことだ。」

「お兄ちゃんらしくもないし男としても失格だよ。おばさんも妹さんも泣いちゃうね

 ー。」

 家族がどう思うかなんて、こんな奴に言われるととても癪に障る。

「まあいいや。ホモはホモ同士仲良くしてたら?このことは全部おばさんに言うから

 ね。」

「分かったから今すぐ帰れ!」

「はいはい。お邪魔虫は帰りますよー。」


 そう言って帰っていったみなみだったのだが…。

「地元にいたころはあんな感じじゃなかったのに、どうしたんだ…?」

 昔からこういう話題には、敏感に反応するほうではあったことは先に言った通りだが、ここまで酷いことを言っているのは見たことが無いし、言われたのも初めてだ。

「ごめんな未来…。」

「………。」

 必死に涙をこらえているのが俯いていても分かる。

「ごめんなさい…。」

「未来が謝る必要はない。」

「こんな姿で生まれてきてごめんなさい…。」

「そんなこと言わないで。」

 そう言うと、静かに僕の胸に顔をうずめて、静かに泣き出してしまった。

「とりあえず部屋に入って。コーヒー淹れてあげるから。」

「ありがとうございます…。」


 静かになった部屋に、未来のすすり泣く声とコーヒーメーカーの動作音だけが静かに響いている。

 

 出来上がったコーヒーをテーブルに置いて、未来の隣に座った。

「気にするなって言うのは…、無理な話だよな。」

「………。」

「みなみに何を言われても僕の気持ちは変わらないよ。」

「…なんでここまで私のことを、好きでいてくれるんですか?」

「分からない。」

「…え?」

「誰かを自由に好きになることができなかったから、自分の心の原動力が分からな

 い。」

「そうだったんですね…。」

「…びっくりした?」

「は、はい。もう少し詳しく聞きたいです。」

「ん、分かった。」

 僕とみなみは…、特異な理由で出会った。

 みなみの家は、地元で信仰深い神社の家系だったのだが、一人っ子であったため跡継ぎが必要だと議論になったらしい。

 別にみなみが跡を継いだらそれはそれでいいと思うが、子孫を残さないといけないという面では、外部から男性を迎え入れる必要があった。

 しかしその時はみなみは六歳で、少なくともこの時点で、外部からの人間を迎え入れるは、さすがの大人たちも思い留まったようで、身近な人間から探そうということになったらしい。

 …先々長いんだからそんな歳から本気にならなくても、と思ってしまうが、それくらい重要なことだったのだろう。

 それで候補に挙がったのが僕だった。

 遠い親戚ではあるが、自宅が近所で同い年という、あくまでも大人が考える条件はクリアしていたのだ。

 こうして僕たちは、交流を深め始めた。

 みなみの最初の印象は、とても元気な女の子という感じで、そのころの僕は今よりも内気な性格だったため、放課後はよく神社に連れまわされて、木登りなどの遊びから神社の歴史など、色々なことを教えてもらった。

「それだけ聞くと、微笑ましい関係のように感じます…。」

「問題は中学生以降なんだよ。」

 中学生になったころから、僕の中で一つの疑問が生じた。

 小学生の頃は、「みなみちゃんと結婚するんだ。」とよくわからないまま大人の言うことを聞き入れていたが、思春期というものが始まって、数少ない同級生と話をするうちに疑問がわいてきた。

 その中でも特に疑問だったものが、常日頃から大人たちに言われていた「男らしくしろ。」や「相応しい人間になりなさい。」という小言。

 友人たちの自由さをうらやましく感じるようになった僕は、次第に自分が何なのか分からなくなっていった。

 しかし僕の家は母子家庭で、母さんはこの縁談にすべてをかけていたから、どうしても意義を唱えることが出来ずにいた。

「漫画やアニメみたいな展開でしょ。」

「はい。許嫁って漫画やアニメの世界だけかと思っていました。」

 正直に言うと、ここまで詳細にカミングアウトをしたことは、生きてきてこの方一度もなかった。

 

 次第に僕は、他人が決めた「らしさ」に嫌悪感を覚えるようになっていた。

 男らしくと言ってくる人には、わざと物腰柔らかに接したり、神社の歴史を話してくる人を無視したりもした。

 当然だが、聞き分けの良かった僕しか知らない大人たちは、どんどん不機嫌になっていった。。

「お前らしくない。」「しっかりしろ。」「見損なった。」とか、それはもう散々な言われようだった。


 それでも最初のうちは、みなみが助けてくれていた。

 しかし…、次第にみなみも僕のことを遠巻きに見るようになって、「近寄らないで」とまで言ってくるようになった。

 そうして僕が中学三年生になるころ、町内の集会場で関係者たちが会議を開いて、色々と話し合ったらしい。

 結局すぐに結論は出なかったようだが、周囲からの身勝手な期待のせいで、僕は男としての自信を完全に失ってしまった。

 それからの僕は適度にみなみを含め、町の人全員と距離を置いて生活するようにして、自己防衛に努めたのだが、今度はその行為が裏目に出た。

「あんなにかわいい子が許嫁としてそばにいるのに、それを受け入れないのはおかし

 いってね。」

「…ひどい。自分たちが勝手に決めておいて、そんな身勝手な話ってあんまりで

 す!」

「怒ってくれてありがとう。でもね、そのあと議論を重ねた大人たちが出した最終的な結論は、浦瀬さんの長男は男色だっていうものだった。議論を重ねていることは知っていたから、もっと真面な答えが出ると期待していた僕がバカだった。」

「男色って何ですか?」

「とりわけ男性の同性愛者を指す、昔ながらの言い方だよ。」

「そんな…。」

 結果的に母親にも失望されたけど、最後まで僕のことを慕ってくれたのは、誰でもない実の妹だった。

 妹はその当時小学校低学年で、僕たちの境遇なんて詳しくは分からなかったはずなのに、僕が何か言われると、「お兄ちゃんにそんなこと言わないで!」と、時には泣きながら庇ってくれたこともあった。

「あの頃になると母さんも、疲労の色を隠せなくなって僕から距離を置くようになっ

 てさ。妹の弁当もつくらないようになったから、それも僕の担当になったんだ。だ

 から今も率先してやらないだけで、ある程度の簡単な料理だったらできるんだ

 よ。」

「…決して無理はしないでくださいね。その当時のことを思い出してしまうでしょうし。」

「とう、じ…かー…。」

「祥太郎さん?」

「結衣、大丈夫かな………。」

 そう口にしたら、涙をこらえることが出来なくなった。

「ちゃんとご飯食べれてるかな…。いじめられたりしてないかな………。」

「祥太郎さんっ!」

 抱きしめてくれた未来の温もりは、久しぶりどころじゃなくて、心の底から安心させえてくれる優しさで溢れていた。

「う、うう…。」

「祥太郎さん、落ち着いて。」

 背中をさすってくれる小さな手に、これほどまでに包み込まれる感覚を覚えるのは、今までの僕だったら考えられなかった。

「ありがとう…。」

「楽しい時こそ半分こ。辛い時も半分こです。」

「………っ!」

 ダムが決壊した。

 今まで抱えてたものがこんなに大きかったんだって、実感することができた。


 しばらくの間未来の胸に顔をうずめていた僕は、今日泊まってほしいと頼んだ。

 「もちろん。」と言わんばかりに、しっかりと頷いてくれた。


「ごめんね、本当は未来の家に行くつもりだったのに。」

「全然大丈夫ですよ、ご近所さんですからいつでも来れるじゃないですか。」

 自分もひどいことを言われて傷ついているはずなのに、そのようなそぶりを一切見せることなく、僕のことを気にかけ続けてくれている。

「何か食べますか?」

「ああー…、何かあったっけ?」

 立ち上がって台所に行き冷蔵庫を開けると、ものの見事にもぬけの殻状態だった。

「どうしようかな…。」

「ネットで注文しちゃいます?」

「…それもいいか。」

 未来がスマホを取り出そうとするので、「僕のスマホでいいよ。」と断ってアプリを立ち上げる。

 有名なお店からニッチなお店まで幅広くラインナップされているため、どのお店にしようか迷ってしまう。

「何か食べたいものある?」

「うーん…、普段あんまり食べないものが食べたいです。」

 未来は普段和食が多いと聞いているから、だとすると洋食や中華あたりがいいのだろうか。

「あ、ここ…。」

「ん?」

 未来が指さしたのは、とある世界的に有名なチェーンのカフェだった。

 場所はというと、僕の家からも未来の家からも徒歩圏内で、正直に言うとわざわざアプリで注文するようなお店ではないのだが…。

「ここにしようか。」

「はいっ。」

(気を使ってくれたのかもしれないな…。)

 先ほど未来は、僕が未来に対して思っている優しさについて聞いてきたが、それは僕のほうこそ聞いてみたいことだった。

(ほんと、ある少しの誤解さえ解けたら、その後はすぐにクラスメイトとも自然に話せるようになれると思うんだけどな。)


 あれから数分ほど悩んだのだが、結局二人ともパンケーキを頼んでしまった。

「なんだかんだで、楽しみにしていた心は抑えられないもんだよな。」

「ふふっ、そうですね。」

 もちろん専門店とは違い、シンプルな昔ながらのホットケーキのようなもので、アットホームな味だったが、これはこれで美味しかった。

 食べ終えたころには既に午後十時をまわっていたが、「夏休み中だしいいか。」ということで、二人でテレビ番組を見てゆっくりと過ごした。

「バラエティ番組なんて久々に見たわ。」

「そうなんですか。私はよく見ますよ。」

「僕は殆どニュースしか見ないなあ。」

「…なんか、ちょっと納得できます。」

「なんで?」

「ふふっ、真面目な方だなってことです。」

 そんなに真面目かなあと思いつつテレビを見ていたが、この年からテレビ番組に疎いようではだめだなとは感じていた。

 一学期は調べ物や資料の作成という、高校生らしからぬ生活ばかりしていたため、こうやってゆっくり番組を見る余裕がなかった。

 そう考えると、少しだけ僕の心に余裕ができたのかもしれない。

 その時未来のスマホに通知が来た。

「あ、おばあちゃんからです。」

「へえ。おばあさんスマホ使えるんだ。」

 なんだか馬鹿にするような言い方になってしまったが、年配の人でもたまにスマホやタブレット、パソコンを使いこなしている人を、テレビだけでなく街中でも見かけることがある。

「私は中学校を卒業するころに、親からスマホを買ってもらいましたが、操作は殆ど

 おばあちゃんが教えてくれたんです。」

「へえー。凄いな。」

「祥太郎さんは…、独学ですか?」

 よくわかったねって言おうとしたところで、僕の性格からしてそう思われるのも当然か、と思った。

 自分が好きなものに限って教えてくれる人がいなかったから、自分で調べるほかなかっただけなのだが。

「そんなにいいものでもないけどね。」

 そう言ってコーヒーを口に運ぼうとしたが、既にカップの中身は空っぽだった。

(………。)

 格好悪いことをしてしまったと思いつつ、静かに立ち上がって台所に向かう。

「もう一杯コーヒー飲む?」

「そうですね…。少しだけいただきます。」

「ん。」

 何のコーヒーにしようかと思ったが、時間も時間だしカフェインレスコーヒーがいいだろうと考えて、台所下のストックを確認する。

 普段自分では率先して飲まない類のコーヒーだったが、買い置きがあったので一安心した。

 ガラガラと豆を挽く音が部屋の中に響いている。

「私、この音好きです…。」

「落ち着くよね。」

 いつの間にか僕の隣で豆を挽く様子を見ていた未来は、ゆっくり深呼吸をしていた。

「自分のお店を開けたら、そういう将来も悪くないのかも。」

「いいですねっ。凄いです!」

 少し恥ずかしいことを言ってしまったと思ったが、そんな気持ちは未来の笑顔を見たら全部吹き飛んでしまうから驚きだ。

「未来と一緒に経営出来たら、幸せだろうな。」

「私も同じことを考えていました。」

(………。)

 お互い何を言ったらいいのかわからなくて、数秒間の沈黙が流れた。

「さすがに恥ずかしいな。」

「ですね。」

 それでもそれからはコーヒーを片手に、「こんな店がいいよね。」とか、「こんな商品をさせたらいいね。」とか、座って飲みながら話すことすらもったいなく感じて、台所で立ち飲みをしながら二人で色々なこれからの思いを語り合った。


 一しきり語り合ったと感じたのは、夜中の二時をまわったころ。

「未来、今日は用事あったりする?」

「いえ、今日は特に予定は入れていませんので大丈夫です。むしろ祥太郎さんがよろ

 しければ、ずっとここにいたいくらいです。」

 照れくさいことを言われて少し言葉に詰まったが、

「とりあえずお風呂入っちゃおう。」

「はい。」

 そう言って未来を先に風呂へ案内してから、タンスの中から引っ張り出した服を脱衣所において、ベッドの準備をする。

(………。)

 さっきまでワイワイ喋っていたから気が付かなかったが、部屋の中がかなりひんやりしている。

 少し空調を弱めた僕は、窓を開けてベランダに出た。

 東京の夏は暑いと聞いていたし、そう思い込んでいた。

 だから熱中症に注意しないといけないと、去年の夏は身構えていた覚えがある。

 それでもいざこっちで生活してみると、暑いと感じたら涼むことができるコンビニなどがいたるところに点在しているし、楽しめる施設だって桁違いに多いから、暑さなんて気にならなくなるときもある。

 今日がまさにそうだった。

「住めば都だな…。」

「そうですねっ。」

「うわっ!びっくりした…。」

「ふふっ。一人で遠くを見ていらっしゃったので、ちょっと驚かせちゃいました。」

 子供っぽく笑う未来のことは、何でも許せてしまいそうだから不思議だし、少し怖くも感じる。

 今度は僕が風呂に入るために脱衣所へ向かった。

 洋服を脱いで洗濯機を回そうとすると、脱衣所の外から僕を呼ぶ声がした。

 「何かあった?」と聞くと、「後で洗濯機の使い方を教えてください。」と言われた。

(別に乾燥機能が付いただけでそこまで多機能なモデルではないはずだけど…。)

 まあ、機会全般詳しくないのかなと、深く考えることなく風呂を済ませた。



(………。)

 静まり返っている室内に、秒針の音が響いている。

 時刻は朝の六時になる頃。

 何となく目が覚めてしまったので、このまま起きていようと思ったが、あんまり動くと胸の中ですやすや眠っている未来が起きてしまう。

 昨日あそこまで僕の過去のことを話す予定は、もちろんなかった。

 みなみの言動や態度を擁護する気は全くないが、みなみとの思い出を否定することが、どうしてもできない自分もいることは、きちんと向き合わないといけない。

 みなみが僕のことを避けるようになったのは、みなみ自身の立場上仕方のないことでもあった。

 みなみの実家である神社はその地域の人々の氏神様で、特に年配の人なんかは「何か困ったことや辛いことなどがあったときは、あの神社へ行きなさい。」と、ほぼ口をそろえて言っていたことを、今でも鮮明に覚えている。

 しかしみなみにあのような態度をとられた以上、ますます実家に帰りづらくなってしまったし、妹の近況が気がかりでしょうがなくなってくる。

「…せめて母さんにだけは連絡してみようかな。」

 先の件で僕と距離を置くようになった人とはいっても、僕が不自由なく生活できるようにと、毎月欠かさず仕送りをしてくれている。

「とりあえずチャットだけでも返すようにしておこう。」

 守りたい人ができると自分の気持ちも変化するんだと、実感できた一日だった。

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