仁義なき戦い

 吹き飛ばされたリンは、そのまま大通りに背中から落ちていった。


「が、ぁ………」


 強烈な衝撃に、空気を吐くが、スキルの効果によって、リンの体は再生していく。

 だが、この状態で攻撃を仕掛けられると不味いのはリンだ。警戒するためにも顔を上げて。


『guaa』


 リンの前に立った魔物を見た。


「………あ?」


 どこからどう見ても見覚えのある姿。そして、片目には斬ったあとが残っており、片腕にも斬れたあとが残っている。


「お前、もしかして………」


 そしてリンは思い出した。一月前、リンが手傷を負わせ、負けた相手を。


「あの時の、熊型か?」


『guaa………』


 熊型は静かに頷いた。そして手に持った大剣を構える。

 

「………そうか」


 リンはそれだけで理解した。あの時も今も、どこにでもいる有象無象の冒険者でしかないリンとの再戦を望んで、ここまで来たのだ。


「いいぞ。やるか」


 そしてリンは、一昨日買ったばかりの魔法剣を取り出す。魔法剣はリンのことを主人と認めたのか、淡い光を纏っている。すんなりと鞘から抜けたということは、この相手が自分が斬るに値すると、認めたということだろう。


「「リン!」」


 と、マロンとメロが来るのがわかった。


「!?2人とも、下がってて」


「はい!リン。ほら………」


 マロンはパウ・ベアーに気が付くと、すぐに戦闘態勢に入る。そしてメロはリンを避難させるように移動させようとして。


「悪いな二人とも。ちょっと、下がっててくれ」


 リンが二人の協力を拒絶した。


「!?なんで!?」


「あれは、俺の敵だから大丈夫」


 マロンは意味がわからなかった。さすがに今回はゴルドとは訳が違う。このパウ・ベアーは、もはやパウ・ベアーとは別種の魔物となっている。リンが勝てる道理はないのに。


「わがまま言っちゃダメ!はやく下がって」


「断る」


 マロンはそれでも食い下がろうとしたが、メロが制止する。


「メロ!?なんで………」


「だって………」


 リンが生き生きしてるから。

 そこまでリンが戦う意欲を見せたのは、メロにとっても始めてみることだったから。


「リン」


 それでも、マロンは食下がる


「駄目、死んじゃう………また、私の前から………」


 どこかトラウマを思い出すように、震え出したマロンの頭を、リンはそっと撫でた。


「悪いな………少し、当てられた」


 リンは優しくマロンの頭を撫でながら言う。


「ちゃんと、戻るから」


「………本当?」


「ああ。だから、戦わせてくれないか?双方共に、待ち望んでいた決戦なんだ」


 そして、リンはパウ・ベアーと向かい合う。


「テレジアは」


「─────」


「テレジアは、私が危なくなった時、助けてくれた」


 だから、とマロンは繋げる。


「リンが危なくなったら………我慢できない。だから」


「ああ。危なくなったら、助けてくれ」


 リンは最後にメロを見た。


「悪いな」


「いいえ。戦いたいんですよね?」


「ああ」


「じゃあ、頑張ってください。私も、危なくなったら援護しますので」


「頼りにしてるよ」


 最後にそれだけ言葉を交わすと、今度こそリンはパウ・ベアーと向き合った。


『guuu………』


「悪いな、待たせすぎた」


 だが、パウ・ベアーからしてみれば、少し待つくらい構わない。一ヶ月も待ったのだ。数秒くらい、我慢する。


『………guuu』


「そうだな。あの時の、そして………さっきの続きだ。【我が名は─────】」


 メロもマロンも、リンのその魔法の詠唱は嫌いだった。前に向かって進むものを嘲笑うかのようなその詩が。

 でも、リンは自分の全身全霊で挑むために、その歌を歌う。だから、二人はじっと聞く。


「【偽りの英雄ファルシュ・ユナイト】」


 英雄が終わり、昇華魔法が発動すると、二人は向かい合って


「始めようか」


『guoooooooo!!!!!!!!』


 一人と一匹の、仁義なき戦いが始まった。


────────────────────


今のリンくんのステータス

─────

名前:リン・メイルト

Lv.31

ランク:D

筋力:211

体力:225

耐久:180

敏捷:232

魔力:229

精神:189

〈所持魔法〉

【クリエイト・ウォーター】

・市販魔法

・水生成

偽りの英雄ファルシュ・ユナイト

・昇華魔法

・身体能力急上昇

・発動対象は術者限定

・発動後、要間隔インターバル必須

愚者の足掻きフェルズ・アダマント

・昇華魔法

・攻撃力急上昇

・一撃必殺

・威力は込めた魔力量に依存する

【フリーズ】

・市販魔法

・氷結魔法

【ティンダー】

・市販魔法

・着火魔法

【ライト】

・市販魔法

・光源魔法

【アダマント】

・付与魔法

・雷属性

〈所持技巧〉

【未来視】

・数秒先の未来を見ることが可能

【操作画面】

・自己ステータスの閲覧可能

・マップ表示

・アイテム収納空間作成

【気配感知】

・市販技巧

・半径100m以内の気配を感知

【百折不撓】

・自己再生

・心が折れない限り体は再生する

・魔力や体力にも適応

【気配遮断】

・市販技巧

・自分の気配を薄める

【衝撃緩和】

・市販技巧

・受ける衝撃を少し減らす

【暗視】

・市販技巧

・暗闇でも見えやすくなる

【持久力強化】

・市販技巧

・体力減少量が少し減る

─────

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