進撃するものたち

「さあ、遂に始まる」


 男は、薄暗い空間で手を広げる。


「安寧の時を生きる、愚かな人々に、絶望の時が迫る」


 その男は、まるで演説をするかのように言う。


「さあ、暴れるぞ諸君。今日こそ、我ら【輝く絶望】が、人々を絶望へと陥れるのだ」


 その瞬間、暗闇から歓声が響き渡る。


「先発は誰が行くか決めてある。二番手は貴様だ。それが一番合理的だ。いけるな?」


 男が見たそれは、言葉を発することなく、静かに頷いた。



□■



「今日は迷宮攻略に行かね?」


 朝。部屋でメロが着替える前にリンはそう提案した。


「私はいいけど………リンはどうしたの?」


「いや、もう二日も休んだから………」


 そう。二人は二日間しっかりと休息をとり、もはや体が訛りかけているのだ。


「うーん………でも、【輝く絶望】がなぁ………」


 犯罪者ギルド【輝く絶望】の騒動は収まりつつあるが、まだ少しだが存在する。それが収まるまで、と考えてはいたが


「まあ今日は久しぶりだし迷宮に潜らず、森の中で引き返す形でどうだ?」


「まあ、それならいいかな」


 ということで、二人とも戦闘衣バトルクロスに着替えて、武器をしっかりと準備し、出発することにした。


「そういえば、リンはステータスの更新は済ませてるの?」


「ああ。結構レベル上がったぞ」


 未だに成長に衰えが感じられないリンは、そのレベルを31にまで上昇させていた。


「そういえば、今日だな………」


「なにがですか?」


「リベンジを誓った熊型と戦った日だよ………」


 そうだ。今日で一ヶ月なのだ。


「そうですか………それと、いい加減魔物の名前も覚えてください」


「名前は興味ないからな」


 だが、今日に限って思い出すのだ。嫌な予感がする。


「でも、なんで急に思い出したんですか?」


「さあな。なにかの前兆じゃね?」


「ちょっと、やめてください………本当になにか起こったら」


 どうするんですか。そう言おうとしたメロの言葉は口から出なかった。なぜなら


「じ、地震だぁ!」


 突然、地面がドッ!と揺れて、二人は立っていられなくなった。


「ちっ!冒険者が立っていられないって………」


 どんだけだ。そう思ったが、その地震は案外すぐに収まった。しかし、


「なんだ!?あれ!」


 そう叫んだ男の視線の先には、街の外壁が聳えていた。

 いつも通りの外壁。10mもある巨大な外壁だ。

 そして、その外壁に、巨大な手がかけられていた。


「………は?」


 意味がわからなかった。


「あれに触れるって、どんだけ………」


 思わずリンも言葉を失ってしまった。

 そしてその手は、離れていてもしっかりと確認できるレベルで、大きかったのだから。


「もしかして、レイドボスですか!?」


 レイドボス。それはリンも聞いたことがある。

 複数人で挑まなければいけないほどのボスが、稀に迷宮内に現れるとか。だが、


「あんなもの、迷宮でも現れませんよ!?」


「そもそも、大きすぎるしな。迷宮から出てこれないだろ………」


 二人で愚痴を言うが、相手は待ってくれない。そのままレイドボスは立ち上がり


『buooooooooo』


 巨大な巨人は、大声で叫んだ。


「………俺は、巨体向けじゃないからな………」


 リンの得意な戦法はその速度を生かした戦闘だ。巨人相手じゃ、その速度は殺されてしまう。


『buooooooooo!!!buoo?』


 一通り叫んだ巨人だったが、後ろからなにかに殴られたかのように急に頭を前に倒した。


「えぇ!?」


 リンの隣に立っていたメロも、驚愕の声を上げる。


「ちょ!?どうしますか!?」


「どうするもなにも………」


 急いで駆け付けなければ。そう言おうとしたが、巨人の横を、なにかが通るのが見えた。


「なんだ?あれ………」


 リンが目を凝らして見ると、そのなにかは外壁を蹴って、街に向かって飛び出した。


「メロ、なにかが………」


 来る。そう言おうと思ったが、直後に強烈な殺気がリンを襲った。


「メロ!」


 だから、瞬時にメロを蹴り飛ばした。


「………え?」


 巨人にばかり意識が向いていたメロにとっては、本当に不意打ちで、突然の出来事だった。


 だが、リンにメロを気にしている余裕はなかった。なぜなら、街に飛び出してきたなにかは


『guaaaaaaaaa!!!』


 一直線にリンに向かって来たからだ


「ちっ!」


 悪態づく暇もない。回避する暇もない。余裕もない。だから、迎撃するために剣を抜いて


『guaaaaaaaaaaaaa!!!!』


 そのなにかにタックルされて、リンはその何かと一緒に飛ばされて行った。

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