今世の罪
■■は、今世での自分の名前がリン・メイルトであると認識すると同時に激しく混乱した。
なぜなら、リン・メイルトとは丁度自分がこの世界に来る前に読んだ親友から借りたライトノベルの主人公の名前だったはずだから。
夢かと思った。悪い夢なら覚めて欲しいと願った。だが、現実は非情で■■の望む展開は訪れなかった。
僅か10ページにも満たない量しか読んではいなかったが、それでもあのライトノベルの主人公であるリン・メイルトに元地球人とか転生者などという設定がないであろうことはわかっていた。
だから、わかってしまった。自分が異端児であると。
自分が、本来産まれるはずだった、この世に精を受けるはずだったリン・メイルトの命を奪ってしまったと。
それからは、リンの表情は暗くなった。
祖父は心配してくれ、その事に罪悪感を抱いたリンは外面だけでも明るく振る舞おうとした。
そしてそのうち諦めのような感情も湧き出してきた。
物語の主人公なら、異世界ものの主人公なら、物語として英雄のような、困っている人をなんやかんや助けてしまうような人物なんだろうと、■■はリンのことをそう認識していた。
だから、リンはまだ理解していなかった。異世界の残酷さを。
□■
ある事件が起こってから、またリンは暗くなってしまった。
それはそうだろう。肉体に素質はあっても、魂が無力なのだから。
異世界では、力こそ正義。戦う術を持っていなければ堕ちていくだけ。これが自然の摂理。だから、リンは自分のことを育ててきてくれた祖父に頼んだのだ。
「俺に、戦い方を教えてくれ」
自分が、リン・メイルトと生きると覚悟を決めて。
本来のリン・メイルトが成したであろう偉業を代わりに成すために強くなろうと。そう、心に決めて。
□■
「だから、俺は強くなるって、決めたんだ………」
自分の過去を語り終えたリンは、最後にそう言ってからクロムを見る。
リンの過去を聞き終えたクロムは、「ふむ」と頷き、顎に手を添えてなにか考えている様子だった。
「なるほど、よくわかった………」
考えが纏まったのか、クロムはそう言いながら顔を上げた。
「君が、なにか後悔のようなものをしているのがわかったから気になったのだが、前世への未練ではなく、本来のリン・メイルトへの懺悔、か………確かに、それに共感してくれる人は少ないだろうし、そもそも誰も信じないだろうね」
ふむふむと頷きながら理解内容を口に出すクロム。
「で?あんたは信じるのか?」
本来ならば荒唐無稽な話。信じる方が頭が可笑しいと言えるような話だが。
「信じるよ」
「………」
「そもそも、歩くプライバシーの侵害とまで言われる僕が、君の話を嘘ではない、と判断した。そして君は少なからず僕を信頼して話してくれたんだ。その誠意には答えるべきだろう」
クロムはそう言いながら初めて席を立ち、棚に向かって歩くと中からなにかを取り出してリンに向かって投げた。
「おっと………」
落とさないようにしっかりと受け止め、手の中を見るとそれは
「………コイン?」
なにかの模様が描かれたコインが一枚。
「それは【黄昏の絆】の所属の証であり、模様はこのギルドのエンブレムだ。代わりが無いわけじゃないが、できるだけ無くさないで欲しい」
「え?ってことは………」
大事な証であり、エンブレムが描かれたコインを渡す。ということは。
「僕は、君の誠意に答えよう。ようこそ、【黄昏の絆】へ。僕達は、君を歓迎する」
リンの【黄昏の絆】への加入が決定した。
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クロムがリンの前世にたどり着くまでの経緯
クロムはすごく目がいい
↓
なにか話せないことがある
↓
見た目に反して精神年齢が高いね
↓
ちょっと探りをいれてみるか
↓
ビンゴ
って感じです。結局、リンくんがガバかっただけ
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