抜け駆け
十九話目
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リンのたんこぶできた発言に、思わず吹き飛ばした本人がツッコんでしまった。
確かに殺す気はなかったが、Eランク冒険者相手にその程度で済まされるとは思わなかったのだ。
(確かに、身のこなしも悪くはなかったが………)
それでもダメージが少なすぎることに関してはショックだった。
(まあ、いい………)
そんなことよりも、リンを倒すことの方が重要だった。
そして男がリンのダメージを気にしている時、リンも男について少しだけ探っていた。
(なぜ、こいつは俺を攻撃したんだ?)
部下の仇か。そうだとしたら、そもそも近くにずっと潜伏していた理由にはならない。なにか理由があってリンを襲ったと考えるべきだろう。
(まあ、予想は着くけどな)
ずっと考えていたことだ。そもそも、あの三人組がリンに関わり出したのもマロンに会った次の日からだった。そして、マロンと一緒に森に入ると殺気が強まり、リンを吹き飛ばした男はマロンのことを様付けで呼んでいた。
(まあ、妬みか?上級冒険者と仲良くしてるからっていう。くだらねぇ)
そんなんなら、もっと自分の実力を磨けと言いたいものだ。
「一応聞くが、なんで俺を狙ってるんだ?」
だが、それもリンの勘違いの可能性がある。別に勘違いだろうと、やることは変わらないのだが、そこはしっかりとしておきたいのがリンだ。
「俺たちが貴様を狙う理由。それは………」
男は少し俯いた。?を浮かべながらリンとマロンは男を見ていると、少しだが男の体が震えているのがわかった。
「俺が貴様を狙う理由。それは、それは………」
そして意を決した男は顔を上げると、リンに指をさしながら叫んだ。
「貴様が!抜け駆けしてマロン様と仲良くしていたからだ!」
仲良くしていたから。それは予想通りだった。だが、その前の言葉の意味がわからなかった。
「抜け駆け?」
「そうだ!我々は神聖にして、清楚なるマロン様を遠くから眺め、お守りするギルド【マロン様の奴隷】である!貴様は!そんな神聖なるマロン様に近づくだけでなく、こうして共にパーティメンバーとして森に来ている!これは、万死に値する」
男の主張を聞いたリンは厄介そうな事件の全貌をある程度理解して思わず叫んだ。
「ただのファンクラブの逆恨みかよ!」
まあ、ファンクラブにしては名前に奴隷とか入ってるし、なかなかやばい部類なのだろうが。
「だからこそ、俺はここで貴様を排除する!【マロン様の奴隷】副ギルド長であるこの私、ゴルド・リミーナがな!」
「副ギルド長がそんなことしていいのかよ。っていうか、厄介オタクもいい加減にしろ………」
そこら辺は現代日本でも異世界でも変わらないのだなと考えつつも、リンも全力で迎え撃つ体制を整える。
「えっと、リン?私が関係してそうだし、私がやっちゃうけど………?」
マロンはリンを心配して言ったわけではないのかもしれない。純粋に自分がまいた種だと思っているからこその発言だろう。だが、
「悪いけど、下がっててくれ」
リンはマロンの手を拒絶した。
「………どうして?」
リンはわかってるはずだ。ゴルドとの差を。それでも、リンはマロンの手伝いを拒んだのだ。
マロンの問いにリンは少しだけ考えると
「ちょっと、
どうしても、という訳では無い。だが、ここで自分より強いからといって女の子に戦わせる気もなかったし、なにより。
「マロンに俺の獲物を取られたくないからな」
それが一番の理由だったりする。
マロンはそれだけである程度察したのか、後ろに下がって戦いを見守ることにした。
「くくく。相手がEランク冒険者であることは不服だが、マロン様に俺の戦いを見てもらえる絶好の機会だ。礎になってもらうぞ?
「それはこっちの台詞だ。ぶん殴ってやるから、覚悟してろよ
こうして、駆け出しと上級者の不純な決闘が幕を開けた。
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ちなみに先に倒した三人もファンクラブメンバー
【マロン様の奴隷】はマロンのファンなら誰でも入れるギルドです
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