私に任せて

十話目だよ〜ん


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 ギルド紹介。

 そもそも、ギルドとはなんなのか。

 代表的なのは冒険者ギルドだろう。

 だが、あそこは冒険者登録をした者に仕事を斡旋する場所。

 依頼主はお金を払ってギルドに依頼を出し、冒険者ギルドはその内容によって報酬を定める。

 魔物の魔石や討伐部位は、換金素材としても優秀であり、冒険者ギルドでも買い取っている。鍛冶師達は一定の信頼がある冒険者ギルドから素材を買い取り、武器や防具を作るのだ。


 では、冒険者ギルド以外のギルドとは、なんなのか。

 簡潔に言えば、パーティの拡張版であり、クランであり、家族であろう。


 所謂ギルド長とも、団長とも呼ばれる人物が、最初は人を集め、メンバーが集合したり、みんなで住むことができる建物を用意して本拠地を作る。


 苦楽を共にするそんな彼らは、もう家族と言っても刺し違えがないだろう。

 故に、不用意に外部の人間を増やすことはしない。

 時折ギルドに所属しているメリットを狙って外部から直談判しに来る者もいるが、採用率はそう多くは無い。


 不用意に人を入れて、問題を起こせばそれはその人物が所属しているギルドの問題にもなり、ギルドの信用に関わる。故に、新しい人材を入れるのも慎重に行うのだ。


 入りたくても入れない。それが個人運営のギルドである。

 だが、それでも個人運営ギルドに加入を希望する人物は後を絶たない。何故ならば、加入することそのものにメリットがあるからだ。


 簡単に挙げられるのは信用の獲得だろう。信用とは、本来得がたいものであり、誰でも彼でもすぐに手にできるものでは無い。だが、個人ギルドならば話は違う。

 個人ギルドは実績の有無に関わらず、一定の信頼がある。無論、実績はあるに越したことはないが、新しくできたギルドでも、ギルド長に「ギルドを発足できるだけの信頼がある」という証明にもなっている。


 ギルドを発足する。そのために人員を一定数集めなければいけない。そしてギルド長の冒険者ランクがCランク以上であることも条件だ。

 つまり、一定数の人から信頼があり、冒険者としての実力も十分にある。これは他の人から見ても信頼に値することではあるだろう。


 無論、ギルド長だけ信頼があっても他の者の所業が悪ければ信頼は落ちる。故にギルド長も己にとって信頼できる者しか加入させないのである。


 信頼があれば、無名の者に任せるのが不安な仕事も依頼しやすく、美味しい仕事も斡旋しやすい。鍛冶師や薬剤師たちも貴重なアイテムを依頼しやすい。パーティメンバーも集まりやすく、迷宮探索等も冒険の危険度も下がりやすい。

 ギルドが強ければ強盗に狙われにくいので物が盗まれにくく、ギルド内に先達が集めた情報の資料等があれば、冒険者ギルドを介さずに情報収集ができる。


 もちろん、人間同士故に諍いなどのトラブルもあるが、基本的に個人ギルドに所属することはメリットが多いのである。


 強いてデメリットを挙げるとすると、クエストなどで手に入れたお金の一部をギルド資金として納金しなければいけないことだが。それを含めても、有り余るメリットがあるのである。



□■



 個人ギルドに所属するために、所属してる人物に橋渡しをお願いする。それはよくある事だ。だからマロンもリンのお願いに素直に頷くことはできない。


 マロンが所属しているギルドは大手だ。そんな大手ギルドにEランク冒険者がいきなり所属するのは無理があるだろう。

 Eランク冒険者とはいわばなんの実績もない新人。リンがいくらパウ・ベアーと渡りあったとはいえども、そんな簡単に許可を出す訳にはいかない。


 紹介するだけなら………とも思ったが、それができない理由がマロンにはあった。


(クロムにも釘を刺されてるし………)


 万年天然少女で人見知りのマロンには、ギルド長から直々に忠告を受けていた。


(お詫びの気持ちはあるけど………)


 それはあくまでも個人的な事。ギルドまで巻き込む気はマロンにはなかった。


(人柄は、問題ないと思うけど………)


 だが、それも所詮会って数分程度でマロンが判断しただけだ。猫を被っていて、これから本性をさらけ出す可能性もある。

 それに、マロンはギルドの幹部勢からは「戦闘に関わることは兎も角、それ以外であまり人を判断するな」とも言われている。マロンには意味がわからなかったが、天然で騙されやすいマロンに対しては当たり前とも言うべき対応だ。


「やっぱり、無理か?」


 しばらくの間考え込んで黙ってしまっていたマロンの思考を中断するかのようにリンが言葉を発する。


「ううん。そんなこと………」


「ここで誤魔化さなくてもいい。どうせダメ元で頼んでみただけだしな」


 そう言ったリンの表情は悔しそうな表情ではなく、達観している様子だった。

 そんなリンに、マロンは申し訳ない気持ちが湧き出してくる。


(私は………)


 迷惑をかけた相手に、今度は気を使われている。そこに屈辱感などは無い。マロンに、そういった感情はあまりないのだから。怒りもない。ただただ、申し訳なさがさらに増しただけ。


(たった一人のお願いも聞けない………)


 たった一人にお詫びすらすることができない。それは今のマロンには致命的なものだったから。


「すぐには、できないかもしれないけど………」


 だからマロンは覚悟を決めた。


「私に、任せて!」


 ギルドの仲間に迷惑をかける覚悟を。厚顔無恥にも、お詫びを先延ばしにする覚悟を、決めたのだった。


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ギルド加入は、企業就職みたいなもの

ギルドに入ってた方が安定するしね

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