押し付けあい
連続更新第九話目!
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ゆっくりと、たどたどしくだが、マロンの誠心誠意な説明により、リンは漸く事の概要を理解できた。
「じゃあ、あんたは昨日のあの熊のことでずっと悩んでたのか?」
「──そう。………本当に、ごめんなさい………」
再度リンに頭を下げるマロン。そんなマロンの頭をリンは上げさせる。
「やめろ。あれは俺が弱かったから起こった結果だ。あんたが謝ることじゃない」
「で、でも!私が逃がさなかったら君が怪我することも………」
「それが、傲慢だって言ってんだよ。いいか?迷宮の魔物が外に逃げ出す例だって、少ないが他に実例もあるんだ。用心してなかった俺にも問題がある」
「それだって………すごく少なくて………」
「かもな。でも、実際に起こったんだ。俺は「そんな事起こるはずがない」って心のどこかで思って、驕っていた。確率の低いことをおそろかにしていて、
むしろ、リンとしてはこんなはやい時期に強敵と戦い、自分に足りない部分を見つめ返させてくれたあのパウ・ベアーに感謝してるくらいだ。
でも、それでもマロンは納得しない。糾弾される覚悟はあった。たとえどんな言葉で責められようと、傷つけられようと、マロンは甘んじて受け入れるつもりであった。
それなのに、リンはそれも自分の責任だと言う。
「君が責任に感じることなんて、なにも………」
だから、マロンも最後まで引き下がらない。自分が悪いんだと、リンに定着させるために。リンに、責任を負わせないために。
不器用なのはわかっている。もっと他にいい方法だってあるだろう。だけど、マロンは今回、ギルドメンバーに相談なく自分だけで解決しに来たのだ。だから、いい案など出るはずもなかった。
「たしかに、
「そうだな。たしかに、あんたが逃がさなければ俺は何事もなく帰れたかもしれない」
そうなのだ。今までの
だが、今回は違う。迷宮で産まれた魔物の軍団の1匹が、一人の少女の虐殺劇の前に怯え、逃げ出した。人為的な
だから、リンはマロンがパウ・ベアーを逃がしたという事実だけは否定しない。
「だが、俺はあんたに感謝してるんだ。おかげで自分自身を見つめ直すことができた。だから、感謝だ」
「それは………結果論だよ………」
もし、死んでいたら。リンはマロンにそんなことを言えなかっただろう。死んでも言葉を話せていたのならば、罵詈雑言をマロンに浴びせていたはずだ。
リンが今生きているから、マロンにそんな言葉を言うことができるのだ。
「優しすぎるよ………」
相手を気遣うような、そんな言葉。
「俺は、本心を言ってるだけだ」
リンにとってはいつもの変わらない。自分の言葉で、傷付けられようと、救われようと、リンにとっては関係ないのだから。だから、思ったことを素直に口にする。
だが、本来のリン・メイルトならどうしていたかはわからない。もっと優しい言葉を言っていたかもしれない。それこそ、物語の主人公みたいに。
(でも、俺は………)
本来、リン・メイルトがこの世界で何を成すのかは知らない。だが、物語の主人公として、ファンタジー系の主人公として、きっと英雄の如く活躍したのだろうと、子供の頃から思ってきていた。
だから、リンはこの瞬間も、自分が強くなるために。周りから英雄だって言われるくらいになるために。そのための最善の選択をする。
「それでも、まだ罪悪感を感じるんだったら………」
これは、卑怯だと、思う。他のどれでもなく、この言葉だけは打算だけで言い、相手のことを一切配慮せずに、自分の為だけに言うのだから。
「あんたの所属してるギルドに、紹介してくれないか?」
きっと、本来のリン・メイルトが今の自分を見たら、失望するだろうと、そう思いながらも。
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世にも奇妙な責任の押し付けあい
普通なら起こらないね
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