忘れじの君たちへ〜アンチヒーローがすべてを救うまで〜

@sepatacrow

第1話 忘れじの君へ

みんなはかけがえのない大切な人はいるだろうか?

例えばその人が遠くの場所に行ってしまって会えなくなってしまった時

その人はあなたの記憶の中に居続けてくれてるだろうか。


これは、記憶を守り続けていた主人公と記憶をめぐる戦いの物語



「いつのまにか輝兄ちゃんと同い年になっちゃたよ。もし生きていたらちょっとは一人前に見てくれたかな?」



墓に線香をあげ、手を合わせている人物こそ

俺、物語の主人公田中 敬一である


墓参りといっても家族が死んだわけではない

輝にいちゃんとは近所に住んでいた十歳離れた近所の兄さんだ


家が近かったこともあってよく遊んでもらっていた

太陽のように明るく、強くて俺にとってのヒーローのような人だったけど

ある日、事故で帰らぬ人となってしまったんだ



「ケイ、今日も来ていたのか」


手桶と花を持った男は彼は輝兄ちゃんの父親だ。

昔は人当たりが良くて朗らかな人だったけど息子が死んでからずっと家に篭りっきりでおかしくなってしまったと周りの人達は言うが

俺はそんなことはないと思っている



「息子の墓に毎日線香を上げてくれるのはうれしいが、お前まで変人扱いされてしまうぞ?」

「ちょっと、近くで用事があったもので。すいません帰ります」


それでも俺は線香をあげた日を一日も絶やしたことはない

こうやって線香を上げている時だけ輝兄ちゃんと一緒にいるような気がしたから

嫌なことがあった時や、勇気が欲しい時、ここに来ると不思議とパワーがもらえるような気がしたんだ




なにせ今日は俺の大一番

|(俺、今日クラスメイトのルリちゃんに告白するからさ、天国で俺のこと応援してくれよ」


俺が気にしてるクラスの子にデートをする日

その帰りに告白をしようと決めたのだ





「今日は映画楽しかった」



彼女はルリちゃん。

成績優秀で、クラスのみんなからにも慕われてる人気者だ


「でも驚いちゃった『映画の券が余ったから一緒に見よう』って誘ってくるなんて普段消極的なケイくんがどうしちゃったの?」


緊張して固まる俺にルリちゃんはウインクして小突いてきた。

萎縮してしまった俺に対して彼女なりに激励しているのはわかっていた。



だから俺は意を決して気持ちを伝えたんだ


「実は俺、ルリちゃんが好きで!これからも一緒に映画を見たいなって!」





「ありがとう、そういってくれて私うれしいよ」


そのあとルリちゃんは少し間を置いて



「多分、私と一緒にいたらケイくんに迷惑かけちゃうと思う。それに本当のことを知ったら好きじゃなくなっちゃうかも・・・」


え?

これって、失恋?

いや、ここは「大丈夫だよ!」って言うべき?

俺の中で思考が渦巻いては消えていく


「実は私ー!!」



ドォォオォオオン


「な、何だ!?」


突如、地面が大きく揺れた

遠くで火と黒煙が上がった

まだ映画を見ているような気分だった


俺は慌ててスマホを見る

SNS、ネットニュース、動画サイトを見るがどこにも怪獣が出たような情報はない



「そんなものを見たって何もわからないよ」

「えっ?」



どう言う意味だ、なぜ彼女はこの状況を前にしてここまで落ち着いていられるんだ?


「ケイくんは逃げて、私、助けを呼んでくるから!」

「ルリちゃんどこへ行くんだよ」


一緒に逃げるように説得しようと彼女の手を掴もうとするが

あと一歩のところで掴みそびれてしまったんだ



忽然と消えたルリちゃんの身を案じた俺は町内の避難勧告を無視して彼女を探していた


「何をしているんだ、敬一!」


そんな俺の前に父親が現れた


「避難勧告を聞かなかったのか、早くこの町を出るぞ」

「でもルリちゃんが」


カッ


手をひく父に対して抵抗していると突如爆発が起こった


「ぐっ、わぁああっ!」


爆風に巻き込まれた俺は地面に何度も叩きつけられた






どれだけ時間が経ったのか

身体中が痛い

かすかに見えた光景は瓦礫の山と化した町の成れの果てだった


「父さん!」


起き上がり、辺りを見渡しても自分以外生きているものはいなかった


「父さん、ルリどこに行ったんだ?」


父さんはおそらく助けを呼びにいったんだ。ルリちゃんもきっと無事だ

足を引きずり、自分を鼓舞しながら地獄の街を徘徊する


ドオオオン!!


「この先は」


この先は輝兄ちゃんの墓の近く

どうすることもできないのに俺は向かっていってしまったのだ



そして、俺が見たものは

その光の正体が二人の人間によるものだとは時間はかからなかった


あまりにも現実離れした光景

二人のコスプレイヤーが人間離れした動きで戦いあってる姿であった



「俺も随分と舐められたもんだな、異能者一人で勝てるとでも思ったのか?」

「たとえ勝ち目がなくったって!」


その片方に俺は見覚えがあった

先程までデートをしていたルリちゃんに似ていたからだ


可愛らしいステッキで応戦する魔法少女だったが、大剣を持った男の一撃には敵わず、弾き飛ばされてしまった


「ここまでよく頑張ったと褒めてやりたいところだったが」


大男は視線を俺の方にやった。まずい


「ちょうどいい。ヒーローの嬢ちゃんよ、ちょっとはいいとこ見せてくれるかな?」


逃げる間もなく、大剣を持った男が目の前に立ち塞がる

「死ね!」


大剣が目の前に迫り、俺を突き刺そうとする


「いけない!」


ザシュ!



俺の視界が暗転した



細い体躯に巨大な剣が深々と突き刺さるのを見た


「どうして、俺なんかを」

「ケイくん、私は大丈夫。こんな奴には負けないから!」

夥しい量の血を流しながらもルリは俺を鼓舞していた



「あなたに告白されて嬉しかった。私本当はケイくんのこと」

「る、ルリちゃ」


振り絞る彼女の声を聞き取ることはできなかったが

ルリは最後の力を振り絞り自爆した



再び俺の体は宙に投げ出された


立ち込める砂煙

目が慣れて、人影が浮かんできた


「る、ルリちゃん!」


「!?」


しかし、影の大きさからルリちゃんではないことがわかった


「まさか右腕を失ったことを感謝することになるとはな。」


希望が絶望に変わる瞬間


「やっぱりオレはついてるぜ。もし、この腕が生身だったら死んでたところだったよ」と男は笑う

見れば右肩から先がなくなった咄嗟に腕を切り離したことにより爆発を避け切ったのだ



「ヒーローってのはいかんな、どいつもこいつも自己犠牲をしたがる」


歩み寄ってくる男を前に腰を抜かし、逃げたくても逃げられない


「10年前から何もかわらねぇ」


こういう時頭だけは無駄に回る。10年前といえば輝兄ちゃんが死んだ時期だ


「あいつは俺も認めるすごいヒーローだったよ」


この男の言葉に俺の記憶が蘇ってくる


そうだ、この男に出会ったのはこれで初めてではない


「一騎当千と言わした俺に対してサシでやりあい、右腕を失った時には俺も死を覚悟したよ

だが俺を殺せるほどの力があったにも関わらず、目の前にガキを救うために死にに来やがった」


そうだ、ただ泣くだけの俺を庇って兄ちゃんは死んだんだ

でもどうしてそんな大切なことを忘れていたんだよ


チャキッ


男の剣が恐怖に怯える俺を映す


「じゃあな,あの世で二人によろしくな!」


無情にも大剣は振り下ろされたのだ!

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