第19話 顔合わせ。自己紹介
19話目
「それじゃあアルトも自己紹介をお願いしようか。」
レイリー率いる研究チームの自己紹介は全員終わった。
「え〜っと、何から言おうか……名前はアルト。魔術師の決まりによってフルネームは教えられない。年齢は1万を過ぎてからは数えていないね。
それで、僕は魔術師であり研究者だ。主なテーマは宇宙に対する干渉と実現。最終的な目標は決めていないけど、当面は個性の事を解明していこうと思っているよ。」
「「「・・・・」」」
レイリー以外は僕の紹介に懐疑的な目線を送っている。魔術師でなければ理解しにくい内容だったかもしれないが、それでも僕の事を説明しようと思ったらこれくらいしかない。
「レイリーに渡した魔術キットはどうだったかな?」
なので外部ツールを使わせてもらう。レイリーに渡したキットは本来であれば今使う予定だったんだけど、取って行かれてしまったので感想を聞いてみる。
レイリーは傍観を決めており何も言い出さない。その事は他の人たちも分かっているのか、歌瀬さんが話しかけてきた。
「あれ本当に個性じゃないんだよね。それだったら凄かったよ。珈琲豆と水、個性を使いながらとった血をコップの中で混ぜて飲むと、珈琲みたいになるなんて。血の味はしたけど、それを取り除けばちゃんとした珈琲だった。」
「それは良かった。即席の魔術キットだったからね。その場にあるもので考えなきゃいけなかったから不発するかも知れなくて不安だったんだ。」
「……あれが魔術なの?」
魔術キットで試したとはいえ本当に魔術があるのかは疑問視しているみたいだ。これだけで信じてもらえるとは思っていないから他の案も用意しているんだけどね。
「魔術にしては魔力のごり押しだけど、それでも魔術だよ。珈琲豆と水は珈琲と言う物質の元。そこに魔力を加えることで、抽出という手順を無視して珈琲になる。まあ、ただの珈琲豆とただの水だと魔力を加えても、何も起こらないから少し細工はさせてもらっているけどね。」
「その細工って言うのはどんなの?」
「えっと……難しくなるけどいいかな。」
「教えて。」
周りの人たちは口をださないで歌瀬さんがしきってくれるようだ。
「渡したキットでやったことはいたって単純な、変換という作業なんだ。珈琲を作るには前提として珈琲豆と水がいる。その後いろんな作業を経て珈琲になるんだけど、その作業を神秘と言う力を使って飛ばしたんだ。」
「神秘? 魔力とは違うの。」
「全然違うよ。神秘は……簡単に言うけど魔術の動力源だよ。神秘を使う事で「ああだったかも」「こうだったかも」「そうかもしれない」「こうかもしれない」を実現するんだ。」
「神秘を使わなきゃ魔術は使えないってこと?」
「そうだね。魔術は神秘による奇跡をプログラム化したものだ。」
「それなら魔力って言うのはなんなの。私達は魔力を研究するために呼ばれたんでしょ?」
「疑問に思うのは良い事だけどまだ聞いていてね。魔力って言うのは神秘を呼び寄せる物質なんだよ。魔力がある場所には神秘が沢山ある。魔力を消費すれば神秘が沢山発生する。それが魔力なんだ。」
「だから魔力を消費して魔術を使うんだ。……それって神秘をそのまま使うのじゃ駄目なの?」
いい質問だ。確かに魔術を使うには神秘が必要だけど、僕たちはわざわざ魔力を神秘に代えてから魔術を使っている。なぜワンクッション置く必要があるのか?
「神秘は使い勝手が悪いんだよ。魔力は人の手によって動かしたり出来るけど神秘は動かすどころか、場所によって濃淡があって使いづらい。だから、魔力を使って操作しているんだ。」
「そうなんだ。」
納得してもらえたようで何よりだ。
僕も魔術師になったばかりのころは神秘をどうにかして動かすことが出来ないのだろうかと考えた事が有るけど、人為的に動かすには大変だったんだ。
動かす方法の一つとして「感情」があるんだけど、どう頑張ったって1人の感情では満足いくほど動かせなかった。沢山の人の感情があれば、宝具みたいな強力な道具が出来るんだけどね。
ちなみに魔力では宝具は作れないらしいよ。メカニズムは知らないけど、専門の人が言うには魔術のようなロジックで出来ているわけではないとの事。
「分かってもらえて何よりだよ。虹山さんと縁側さんは質問ある? なんでも答えるよ。」
「じゃあ聞きたいんだけど、魔術ってどんなことが出来るの? 個性の元とは聞いているんだけど空を飛べたり出来るのかなって。」
「個性で出来る事は全部出来るよ。原理は同じだからね。……あ、でも個性よりは考えて使わなきゃいけないかもね。」
「考えて使う?」
「個性ってさ多分だけど生理現象の一つと思ってもいいくらい自然と使えるでしょ? 個性だと術式が体に刻まれているから生まれた瞬間から使えるんだけど、魔術師は自分で作ったり習ったりしなきゃ使えないんだ。つまり、目を閉じるや腕を上げるみたいに自然と使う事は難しいんだよね。」
「へ~、個性よりも魔術の方がいいとは一概には言えないんだ。」
個性は魔術の劣化と断言できないところは残念ではあるが、利点がある以上は認めるしかない。
最初個性を見たときは一種類しか呪いの類と思ったりもしたけど、考えは覆されてしまった。
「まあ、僕は魔術の方が良いと思っているけどね。あ、でも個性を持っている人って体の構造も違うよね。この前あった頑丈の個性を持っていた子は、個性を使っていなかったけど体が硬かったし。」
「確かに。体が違うと比べ方も違うのか。」
「僕からしたらホモ・サピエンスじゃない別の人種に見えるよ。」
病院にいたほとんどの人は、体に変化が生じていた。肌の色が違う人や指の本数が多い人。そこまで行かなくとも、頑丈の個性のように触らなければ気づかないレベルの人まで様々だったが、中でも目立っていたのは、角が生えている人だろう。
どのような個性かは見当もつかないが、それでも角があるか無いかは大きな違いだ。
個性によって起きている変化だろう。
「それはそうだ。自分たちもそろそろホモから別の名称になったほうがいいと思っているよ。」
魔力を生成できている時点でホモではないことは置いといても、あれだけしぶとかったホモ種が居なくなるのは考え深い所がある。
「縁側さんはなにか質問ある?」
「いや、俺はいいかな。研究に直接関わるわけでもないしな。」
「ちょっと! 前も言ったけど縁側さんはチームの一員なんだから! 直接関わってなくても、出資をお願いしに行ってくれたり、論文だって書いてくれているんだから胸張ってください!」
「はは、そう言われると弱いなぁ。」
縁側さんはいつもこんな感じのようで、歌瀬に怒られている。
「……そうだ。それならどんな魔術を使えるか教えてくれ。チームなら何が出来るか知っておいたほうがいいだろ。」
「どんな魔術、ですか……どちらかといえば具現化するような物質系は苦手です。質量があるものを出したりするのは。反対に概念系や操作系のは得意ですが、一般レベルで使うのであれば気にするほどでもないかな。」
僕の研究は基本的に概念に対しての干渉だから、必然的に得意になったんだ。
「あ~……概念系っていうのはレイリーの幸運と同じと思っていいのか?」
「幸運もそうだけど、キットでやった魔術も概念系だよ。作業っていう工程を無視できるようにしているんだから。」
他の例として、転移魔術の原理は概念系だね。本来人間は光の速度を越せないから0秒で移動する事は出来ないから、別の方法でアプローチしていたのが塔を降りる前に研究していた転移魔術だ。
「操作系は物を動かす事と思ってくれればいいと思うよ。まあ、残念な事に個性は物質系と操作系が多いみたいだけどね。」
空を飛ぶための羽を生やすのは物質系と操作系のハイブリットだし、体を硬くするので言えば操作系単体もあるし、そもそも体の物質が変わっているのであれば物質系に入る。
共通して言えるのは、体に対して作用している個性が多いから操作系の中でも生物操作に分類されるのが多いと思う。
ただ、生物操作とはあまり向き合ってこなかったなと思いに浸るしかなさそうだ。
「いろんな分類があるんですね。」
「昔は無かったんだけど、不便だから作ったんだよ。あのころは魔術を使うのは才能と余程いい勘が無きゃまったくと言って良い程使えなかったからね。」
「え、アルトさんが作ったんですか。」
「そうだよ。如何せん僕は兄弟弟子よりも才能が無かったからね。魔術を一から解明しなきゃ全く使えなかったんだよ。そのおかげで今では教えられない魔術を沢山抱えているけどね。」
「凄いですね……私の個性は何に分類されるんですか?」
歌瀬さんはこの話に興味あるらしくいろんなことを聞いてくれる。あの頃は才能のなさにいじけてどんな事でも試して、駄目だったら教えてくれた人に文句言っていたから無駄に知識があったんだよね。
だから、元々あった魔術の基礎に手を出して改良させてもらったんだ。
そのせいで魔術の業界ではそれなりに有名になっていたりする。
「歌瀬さんは、そうだな~。実際に見てないからどうなのか分からないけど、歌を聞いた人を感化させるということだろうから、単純に相手を操作しているから操作系……なのか聞いた人の感情を揺らがす事を増強している概念系を操作系のハイブリッドなのか、聞いてみない事には分からないね。」
「そんな風に分かれるんですか。」
「縁側さんはどうですか! 今の話だと感情探知は操作系っぽいですけど。」
「これも多分になっちゃうけど、感受性を豊かにしているという意味で操作系なのかな。」
ここまで会話をしてきて無事溶け込めそうでよかった。レイリーは何も言っていないが、この雰囲気を見て安心しているようである。
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