Vtuberの陰キャとギャルが百合する話
二葉ベス
プロローグ:いつものように続く毎日
プロローグ青:青の惰性。いつものように続く
Vtuberを何故続けているのですか?
たまにこういう質問を聞かれることがある。
みんないろんな回答を持っている。友達を増やしたいから。有名になりたいから。夢を叶えたいから。
それぞれ立派で素晴らしい考え方だと思う。
わたし? わたしがその質問を答える機会があったとしたら、首をかしげてうーんって唸ってしまうかもしれない。
わたしにそれらしい夢や目標なんてない。ただ惰性でVtuberを続けているだけ。
いや、それではない。本音を言ってしまえばもっと伸びたいし、イラストだって評価されたい! でも邪推なことばかりを口にしても、リスナーは嫌気を指してどこかへ行ってしまうだけ。だったら、惰性で続けているだけ。そういうことでいい。
◇
「まぁ、だからそんな感じ。イラストも楽しいから続けてるだけだしね」
今わたしは何故1人パソコンのモニターの前で喋っているのか。
大きめのヘッドフォンを頭にかぶって、目の前にあるマイクとカメラに向かって喋っているのか。
わたしが配信者だからだ。しかもただの配信者じゃない。今話題の喋って動けるバーチャルYItuberなのである。
とは言っても、活動半年にも関わらず、登録者は3桁どころかたったの60人。
同時間帯接続なんて毎回3人しかいなく、特に続けている意味も無いような趣味だ。
ツブヤイターに存在しているわたしの知り合いVtuberなんて、平然と100人、200人言っているのにもかかわらずだ。
じゃあなんでVtuberやってるの? って話だけど。答えは目の前にもあった。
露草:すごいじゃん! それで今みたいに上手くなってるとか努力の天才かー?!
熱心なリスナーさんがいるから。
恵まれていることに60人の中にもわたしを見つけてくださった天使様。いや、神様が存在する。その名も露草さん。とても褒めるのが上手で、いつもわたしを慰めてくれる。なんていい人なんだろう。神は実際に存在するんだ。
「えへへ、ありがと。褒めても何も出ないよ」
露草:出てる出てる!
「あっ、ありがと……」
思わず目を伏せた。
2Dのアバターもよく動くから同時に自分が下を向いてしまったことがバレて、やってしまったなー、という気持ち。
リアルでもそうだけど、あまり名指しで褒められることなんてない。陰キャだからしょうがないけど、この人が空気を口から吐き出すようにすぐ好きという言葉を投げかけてくれる。
ガチ恋勢は相手に対して好きって言葉をすぐ口にするけど、この人はどうなんだろう。わたしのガチ恋勢? いやいやありえない。わたしのガチ勢なんているわけがない……。
「ま、まぁそれはさておき。後もうちょっとで完成だから、ちょっと口数少なくなるね」
露草:りょ
お母さんに来年のお年玉を前借りして買ってもらったこの板タブ。最初は描くところとモニターの位置がチグハグで使いづらかったけど、最近はもう慣れた。
シャッシャッーと、滑らかな手付きでキャンパスに線を描いていく。
今日は軽い線画のようなもの。暇つぶしになればいいって思ってたけど、これが思ったよりもチカラが入ってしまって、結果今日の配信時間が3時間ぐらいは伸びそうだった。
明日も学校はある。でもやめられないとまらない。
絵を描くことは好きだ。好きだから時間を忘れてペンを走らせることができる。
では配信はどうか? と言われたら、友だちが欲しいとか、もっと評価されたいとか、そういう邪な欲望だけで動いている。
汚い欲望だというのは重々承知だけど、こればっかりは承認欲求の怪物がチラチラこっちを見てくるので、見ないふりをしてないといけないから、今日も惰性で動いているってことにする。
惰性はズルズル長引けば時間の無駄と言われるだろう。友だちも少ないし、評価もされないし、もうVtuberをやめたいと考えることも多くなった。
それでもやめずにいられるのは、きっと……。
「できた。知り合いのレモンさんです」
露草:おぉっ! めっっっっっっっちゃかわいい!
緑茶レモン:うんま……。ありがとう、音瑠香ちゃんんんんんんんんんん!!!!!
「あ、レモンさんいたんだ。こんねる」
なんだ、いるんじゃん。
わたしなんかの配信をずっと見てくれる人がいる。
それだけで明確に続ける理由にはなる。少なくともやめられない理由にはなるんだと思う。ある意味足かせとか、そういう風に聞こえなくはないけど。
「じゃあ今日はこんな感じで。明日も同じ時間にすると思う。おつねる」
露草:おつねるー
緑茶レモン:おつ! 寝るー!
こうやって明日もまた同じように配信を続けられる。Vtuberとして配信を続けることが好きか、と言われたら。
わたし、
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