第41話 尻で餅をつけ!

「いないっ⁉︎」


 化学実験室の扉の窓から室内を覗き見るが誰もいない。

 実験器具等が置かれており、昔のままなだけで、“仮面”もいなければ調整用の器具らしきものも無い。

 扉を開けて実験室に入ったのだが、やはりそれらしき痕跡も無い。

 どう見ても昔のままだ…


 この化学実験室に来る道すがらに、他の教室が見えたのだが、どこも昔と変わらずただの教室だった。


 俺の心の中に疑念が生まれた。

 ここは青梅財団の秘密の研究所だと聞いたが、監視態勢は緩く、研究所だというのにそれらしき設備が見当たらない。

 ここは昔のままのようにしか見えないのだ。

 本当に研究所として使っているのか?


「風間、ここって本当に青梅財団の研究所なのかな」


 西松も同じことを考えていたようだ。


「俺もちょうど、そのことを考えていた」


「しょせん、あの森本の情報でしょ。あいつの話なんてあてになるのかよ」


「確かにそうだ。

 俺たちはもしかしてハメられたのだろうか…

 だとしても、ここまで来たからにはもう少し探ってみるのはどうだろう」


「それもそうだね」


 西松は半ば諦めたような顔をしながらも同意した。


「他にどこか大掛かりな機械を持ち込めそうな場所はあるか?」


「放送室はどうだろう」


 俺の問い掛けにパリスが答えた。

 意外だ。と思ったのだが、こいつは大学内をわけもなくあちこちフラフラしているからな。

 それは高校時代も同様だったことからして意外でもないか。


「え⁉︎」


 そんな中、急に西松が難色を示した。


「放送室がどうかしたか?」


 俺の問いかけに西松は頭を抱え、黙り込む。


「それがわからないんだよ。わからないんだけど何か嫌なんだよ」


「なんだ、それ。

 でも放送室か…、あそこなら放送機材がある関係で消費電力大きいのも使えそうだからな。行ってみるとするか」


 その時、爆発音のような音が響くと同時に校舎が揺れ、さらに実験室の灯りが消えた。

 その予期せぬ揺れに俺は足元を取られ、思わずその場に尻餅をつく。


「なんだこれはっ!」


 闇に包まれた実験室内が突如として真紅に染まる。

 西松は素早く窓の側へ寄っていた。


「正面玄関の方が燃えてるよ!」


 西松の一言に俺は立ち上がり、


「なんだって⁉︎」


 俺も窓の側に駆け寄ると、向かって右下、正面玄関の辺りから火の手が上がっていた。


「二号の野郎、なんてことをするんだ」


 やり過ぎだろうと思いながらも、思わずニヤつく。


 校舎内に再び非常ベルが鳴り響き、校庭前の通りの彼方に赤い光とサイレン音が聞こえてきた。消防か警察が来るようだ。

 警備員や白衣を着た研究者風の奴らが、校内から慌てふためき校庭へ走り出て来る姿が見えた。


「風間、見ろよ!研究者みたいな奴らが出てきた!」


「あぁ、やっぱりここは青梅財団の研究所のようだ。奴らは爆発で校庭へ避難したんだろう。

 よし!これで警備の目を気にしないで済むだろう。火が燃え移らないうちに探るぞ!」


 俺たちは一目散に走り出し、実験室を抜ける。

 廊下を走り出した時、再び爆発音が校舎を揺らす。


「ぬなっ」


 俺は思い切り足を滑らせる。


「あ〜〜っ」


 視界が目まぐるしく回転する。


 俺は思い切り転倒し、数メートル転がって壁にぶつかり停止した。

 その衝撃による痛みに思わず呻き声を漏らす。


「大丈夫かよ、風間」


 と西松が労ってくるのだが、風間の間の部分で明らかに笑ってやがった!このっ、バケかけの分散でっ!

 全身の痛みに耐え、なんとか立ち上がろうとすると、西松が手を差し出してきた。

 屈辱的ではあるが、西松の手を借り、なんとか立ち上がる。

 パリスの野郎ももちろん薄笑いを浮かべてやがり、奴をぶん殴り蹴飛ばしたいのだが、それは一旦置いておくとして、


「そうだ、パリス。お前は三階の残りの教室の様子を見てきてくれ。西松は二階だ。俺は一階を探ってくる!」


 恥ずかしさを誤魔化したくて指示を出す。

 それはまるで頭隠して尻隠さず、に似た気持ちなのだが…


「わかった、シロタン!」


 パリスはそのまま残りの見ていない教室へ向い、俺と西松はそのまま階段を下りていく。

 西松は二階で下りると、俺はそのまま一階へ向かう。


 一階に着くと、そこで廊下は二方向に分かれている。

 右方向が放送室へ、左は職員室等へと繋がっている。

 俺は廊下を右へと向かう。

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