第28話 エピローグ編⑧ 白い穴に

--------------カウントダウン 残り6日--------------


【AM 4:00】【県内の穴出現までおそらくあと5時間】

  本日AM9:00穴出現予想




今朝は寝坊しないように3:00にアラームをかけておいた。

トイレを済ませて、チロの散歩(トイレ)も駐車場をぐるぐるしてきた。

皆も4時には起きていていつでも出発できる。

ここから先、スマホの電池の消耗を防ぐために各車の連絡係のみLAINEを開くようにお姉ちゃんに言われた。

食事も軽く済ませた。


明るくなってくる。

お姉ちゃんは相変わらずパソコンで他の地区の穴情報を探っている。




【AM 6:00】【県内の穴出現までおそらくあと3時間】


あと3時間……。

本当に間に合うのかな。

各自が自分達の車で待機している。

お姉ちゃんから少し移動の指示が出た。

予想される県道の途中まで進むらしい。




【AM 8:00】【県内の穴出現までおそらくあと1時間】



お姉ちゃんから指示が出る。

各自しっかりジャケットを着込み靴も履いて、バッグも背負っておくように言われた。


『車乗ってるのに?』


リノちゃんが私と同じ疑問を口に出した。


「うん、穴に入ったあと何が起こるかわからないから完全防備をしておいて」



チャイルドシートの子供達は毛布に包んだり帽子を被らせて衝撃に備えるようにしっかりシートで押さえてるようだ。

穴に落ちた時に後ろに積んだ荷物が前にとんで来ないように荷物も毛布で押さえて紐でしっかり縛りあげてある。




【AM 8:50】【県内の穴出現までおそらくあと10分】


ゆっくりと道路進みながら穴情報を待つ。


うわぁ、緊張するな。

本当に松阪市に穴出来るのかな。

もし出来るならこの近くにしてください!

神さまお願いします!(あ、困った時の神頼み!)




【AM 9:00】


9時になった。

スマホの時計画面の秒カウントが進んでいく。

お姉ちゃんはパソコンを睨んでいる。


5分…10分…。

…………………………………。



「来た!来たよ来たよ来たよ!」


お姉ちゃんが叫んだ。

パソコンに松阪市の穴情報が載ったようだ。


『どこだ!』


カノちゃんパパの声がお姉ちゃんのスマホから聞こえて来た。

お姉ちゃんがパソコンで地図を開きながら指示を出す。


「近いよ!ここから!このまま直進、ふたつ先の交差点を右に折れて…たぶんそのあたり」


『わかった』『了解』『オッケー』


「手順通り、先頭はうちの車、二番手に健人叔父さん、三番手がリノちゃんとこ、しんがりがカノ家のバス。カノパパはリノちゃんちの車と少し距離を取ってね」


『ほいよ』『オッケー』『おう』



「じゃあ行くよ!お父さん、スピード出して直進、ふたつ目の信号右に曲がったらゆっくり走って、穴を探すから」


「わかった」



今はお母さんの横にチロが座っている。

チロを毛布で包んでシートベルトで固定している。

チロが入る大型犬用のキャリーバッグは車の座席には積めなかったのだ。

私は3列目の左側のひとり席に座ってる。

シートベルトがしっかりと締まっているのを確認した。



「ふたつ目の信号を右に曲がる!穴探すからスピード落とすよ」


お姉ちゃんがスマホに向かって叫んだ。

お姉ちゃんのスマホからオウとかハイとか聞こえた。

お父さんがスピードを落としながらゆっくりハンドルを右にきる。



「右側か!」


お姉ちゃんが指差した方を見ると右側の歩道に自転車を止めた人がふたり立っているのが見えた。


「お父さん、このまま進んでどっか入れるとこでUターンして。あのふたり立ってる近くまで行って!後方の車に伝達、穴は右側かも。確認するので少し先でUターンします」


『了解です』『了解』『わかった』


少し進むと左側に空き地があったのでそこに入ってUターンした。

うちらが出たら後ろの健人叔父さんの車が空き地に入りUターン、と次々と続いてUターンした。


ゆっくりとさっきの場所まで戻り、車を停車させた。



「すみませーん、穴情報あげてくれた方ですか?」


お姉ちゃんが窓から顔を出して、そこに立ってた男の人に話しかけた。


「そうです。俺らがあげました」

「そこの道を入るとすぐなんだけど…」


お姉ちゃんが車から降りて走って見に行った。


「あった!」


3分もかからずお姉ちゃんが戻ってきた。

お姉ちゃんはふたりに頭を下げていた。


「ありがとうございます。助かりました」

「いえ、役に立てて良かったです。あの、あの白い穴に入るんですか?」

「ええ、そうです。あなた達は入らないんですか?」


ふたりは顔を見合わせながらちょっと複雑な表情になった。


「入りたいけど、うちは家族が誰も行きたがらないから…」

「うん。うちも。だから、まぁ最後は家族といたいから穴は諦めました。なっ」

「ああ、勇者になれたかもしれないのに残念。あはは」


「自分達は入らないのに穴を探して情報上げてくれてありがとう」


「いいえ。せめて、あっちに行く人の役に立てれば、ね」

「頑張って勇者になってください」



お姉ちゃんはもう一度頭を下げてから車に戻ってきた。


「穴に突っ込むよ。みんな着いてきて!」


お父さんが真剣な顔で車を発車させた。

すぐ左の道に入る。

前方の道路の一部が消えて見える、おそらくそこに穴ができている。



「みんな掴まって!」


お姉ちゃんが叫ぶ。

私の席の前はドアの乗り降りで空間になってるから、捕まるとこないよ!

え、ちょっ、これ、ジェットコースターだとしたら両手を上げるタイプのヤツじゃん。



「1号車行きまあああああす」


お姉ちゃんが叫ぶのと同時に車がガクンと前方に傾いて落ちていく。

うひゃああああああああああああ。

車が縦になって落ちて行くぅ。

まさにジェットコースター!(一応両手は上げた)


そにまま頭から落下していくのかと思いきや、スゥっと車のお尻側が落ちてきて、車が水平になった。

水平になったが着地したわけでなく、水平のまま落下を続けている。



水平のまま、落ち続けてる。

長いな……、上げていた両手が疲れたので下ろした。



「長いわね」


お母さんのひと言で車内の緊張も解けた。


「あ、LAINE切れてる。やっぱ使えないかぁ。ニュースでも穴に入れた機械は壊れるって言ってたもんなー」

「じゃあ車も壊れるのか……ん?ワイパーは動くな。ウインカーは…どうだろ。外が真っ白で見えないな」

「カノちゃん達、無事飛び込めたかな?」

「無事って言っていいのかわからないけどね」

「お父さん、ワイパー動くの?」

「うん。動くぞ、ほら」


フロントガラスをキュッキュッと音を出しながら白いモヤを掻き分けつつワイパーが左右に動く。


「うぅむ、機械系全部がダメになるわけじゃないのか」


私は思わずスマホを再起動してみた。

あ、よかった、立ち上がった。


「お姉ちゃん、スマホは壊れてないみたい」


「おっ、ホント? でも通信はダメだろうね」


「ん〜……んん? あ、LAINEふっかーつ、ビデオチャット出来るかな」


『ああ!繋がったぁ。ハナぁ、聞こえるぅ?』

「聞こえる聞こえる。リノちゃん今どこ?」

『今どこって穴の中だよ!穴のどの辺かはわからないー。窓の外は真っ白白だ』

『おおお!ハナ!リノ!』

「ああー、カノちゃん!無事かい?外?穴?」

『穴、穴。いやぁバス長いから穴に入れるか不安だったよー』

「よかったぁ。1番に入ったから後ろの皆んながどうしたかわからないからちょっと不安だったー」

『ちゃんと皆んな順番に突っ込んでたよ。うちのバスが最後だから見てた』

『あ、穴の最初んとこジェットコースター並みに怖かったね』

「うん。私、両手上げたよ」

『わははは、ハナちゃんっぽいー』


「真由香おばさんー、健人叔父さん、聞こえるー?」


お姉ちゃんがスマホで真由香おばさん達に必死に話しかけていたが、おばさん達の反応はなかった。


「うぅむ。おばさん、スマホ再起動に気づいてないんだろうな」


真由香おばさんは俊くん達小さな子の世話でそれどころじゃないのかも。


『もしもし、誰か通じてますか?』


スマホから京子おばあちゃんの声が聞こえた!

お姉ちゃんがすかさず反応する。


「京子おばあちゃん!聞こえるよ!そっちはどお?皆んな無事?」


『ええ。大丈夫よ。俊くんが大泣きしてるけど。よかった通じて』


俊くん大泣きかぁ、確かに5歳でジェットコースターは怖いよね。


「京子おばあちゃん、真由香おばさん達にスマホを再起動するように伝えて

再起動すれば繋がるから」


お姉ちゃんが京子おばあちゃんに指示して直ぐに真由香おばさんのLAINEが繋がった。


『よかったぁ、連絡どうやって取ろうかと思った』


おばさんのLAINEから大泣きしてる俊くんの声が入ってくる。


『うるさくてごめんね。俊が泣き止まなくて』

『ビックリしちゃったのよね』

『カノちゃんとこのバスの子達は大丈夫かな?』

『こっちは皆んなケロってしてる』

『ミオちゃんなんか寝てるよ。将来大物になるね』


皆んながスマホの再起動をしたようで続々と声が入ってきた。



「全員無事でよかった。真っ白で前後左右上下まったくわからないけど、一応話した計画通りにお願いします。いつ着地するかわからないから、今の状態をキープしてね。うちの車が1番に地面に激と…到着するからLAINE聴き逃さないで」


「お姉ちゃん!今、激突って言った!」

「言ってない言ってない。到着、だよ」


ううう、まぁジェットコースターと違ってレールは無いし、車にホバリング機能なんて付いてないからしょうがないんだけど!


「おとーさん!ソフトな激突でお願い!」

「無茶言うなぁ…」



『長いね』

『長いな』


LAINEからリノちゃんと健人叔父さんの呟きが聞こえた。


その時、

何か急に重力が戻ってきたような?エレベーターが1階に到着した時のような、グィって押される感じがした。


「たぶん地面近い!」


お姉ちゃんが叫ぶ。


うわ、うわ、うわ、地面? 地面に凸る?


「みんなしっかり掴まれ」

「シートベルトしてるわね!」

ワンワンキャンキャンキャン チロの悲壮な鳴き声がした。ガンバレ、チロ。


しかしこれは、デスティニーシーの“テラーマンション”か!

両手を上げて前を見て笑顔を作る。(だって、どこかで写真撮られてるかもだから)

だが、徐々に落下がゆっくりになり、地面にぶつかる寸前にトランポリンで弾かれたようにバウンドが数回、地面へトスン。


着地…した?


「お父さん!早く移動して 2台目が落ちてくるから!」


お姉ちゃんが叫ぶ。

お父さんがアクセルを踏み急発進してその場を離れた後に車を停めた。

窓の外はもう白くない。

窓から首を出して上を見上げると上空にものすごく濃い白いモヤがあり、そこからワゴン車ぐらいの大きさのモヤモヤが現れた。


健人叔父さんの車だ!

叔父さんの車は白いモヤに包まれたまま数回バウンドして着地した。

それと同時にモヤが消え、叔父さんの車が現れた。


『健人叔父さん!すぐに移動して!』


お姉ちゃんがLAINEに叫ぶ。

叔父さんの車がうちの車の方に移動してきた時、また上空のモヤからちょっと小さめのモヤが出てきた。

たぶんリノちゃんちの車だ。


『リノママ、バウンドして着地したら直ぐに前進して! バスが落ちて来るから』


リノママの返事を聞く前に上空からバスを包んだ細長いモヤの塊が現れた。

ボインボインボイン……トスン

リノ家の車が移動した直後にバスが着地した。




全員、無事に、白い穴の先に到着した。


そう、白い穴にはちゃんと先があったよ!

異世界かどうかはわからないけど、ちゃんと世界があったよ!

それにしても、あの高さから無傷とは、白いモヤって何物よ。

お姉ちゃんが言ったみたいに神がかり的な物体だな。

神さま神さま神さまありがとうございます、と心の中でお礼を言った。




お姉ちゃんが車の外に出た。

私は怖いから窓から顔だけを覗かせていた。


地面は土っぽいし、周りには樹木が生い茂っている。

木に顔があったり枝を手足のように動かしてもいない、普通の森っぽい。

ここは森の中にポッカリ空いた広場のような感じだ。

結構広い。

上を見るとまだモヤは出ている。


「まだ落ちて来る人がいるかもしれないから、あっちへ移動させよう」


広場の端っこの方へ車やバスを移動させた。


『何があるかわからないから、まだ皆んな車の中にいて』

『俺もいく』


お父さんがスマホ持って降りて行った。


『お母さん、俺の代わりに運転席に座っててくれ 何かあったら車を出して』

『わかったわ』


クゥン、クゥン…

チロが落ち着きなく鳴いている、もしかしてトイレかな。


お父さんとお姉ちゃんが進もうとした木々の横の方から、突然、人が数人現れた!



「あ、落ちて来た人ですか?」


近寄ってきた男性3人がお姉ちゃんに話しかけてきた。


LAINEからお姉ちゃん達の会話が聞こえている。

3人は地球人のような服装だし、あと見た目も日本人ぽいし言葉も日本語だね?


「そうです。あなた方も…ですか?」


「僕らも昨夜飛び込んだので来たばかりですよ」



「ここは…どこなんだ?」


お父さんが周りを見回しながら口にした。


「え、ええと、ここはってこの世界って意味なら俺らもわからないです」

「うん。ただ、あの白い穴の先の世界としか言いようがないよな?」

「この広場は?って意味なら、ここは南の広場ですね」

「この森、広場が3つあるんです。東西と南に」



「ねぇ、何でそんなにこの森に詳しいの? 昨夜落ちてきたばかりなんだよね?」


「ああ、この広場にも貼ってあるはず……ほらあそこだ」


男の人が指差した方向を車の窓から見ると、遠目だが何か荷物が積んであり、近くの木に紙が何枚か貼られていた。


「以前にここに落ちた人がいろいろ貼ってくれてたみたいなんですよ。この森の地図とか、物資とかね。あと、街への行き方とか」


「街あるんだ!」


「僕らも来たばかりだから街には行ってないけど」

「それで、あ!」


男の人が話の途中で指差した上空の白いモヤの中からモヤの塊が落ちて来る。

車ほど大きくない。

地面に一度バウンドしてからモヤが爆散したら、バイクに乗った人が現れた。

着地のあとバイクごと横倒しになったので3人が駆け寄ってバイクを起こすのを手伝ってた。



「うわぁ、ビックリした。本当に穴の底に世界があるんだ!異世界か?異世界だよな? これで地球のどっかの森だったら泣くぞ。あ、でも富士の樹海とかなら行ってみたかったからいいか」


バイクの青年はものすごく興奮していた。

それを見て笑いながら3人のうちのひとりが話しかけた。


「あはは、気持ちはわかります。俺らも昨夜そんなだったから。どの県から穴に?」

「あ、三重県です。穴情報のサイト見てたら割と近かったのでバイクに飛び乗って突っ込んでみました」


なるほど身ひとつで来たみたいで荷物は持ってない。


「あ、上からまだまだ来ると思うのであっちに移動してもらえますか?」


その人達と話しながら上空のモヤ見上げていたらお父さんの大声が聞こえた。

いつの間にかお父さんは広場のあっち側の貼り紙を見に行っていたようだ。


「お母さん!お母さん!早く!!!」


大声で呼ばれたお母さんが慌てて車から降りる。

私も慌ててお母さんの後ろを追った。



「どうしたの…」

「これ、これ見てくれ」


見るとワナワナと震え出したお父さんの顔がクシャっとなり泣き出した。

お母さんはお父さんから手渡された皺くちゃの紙を恐る恐る、見た。


「優希!」


お母さんも泣き出した。

お父さんと抱き合って泣いている。


お母さん持っていた紙を覗き込む。



➖➖白い穴から落ちて来た人へ➖➖

水や食糧はそこに置いてあるのを自由に使ってください

隣の木にこの森の地図を貼っておきます

ここは森の南の拠点です

俺達は普段は西の拠点から1時間半のとこにキャンプを張ってます

移動が難しいなら毎日午前中に3つの拠点を回っているのでここで待っていてください

➖➖山田優希・ライアン➖➖



お兄ちゃんだ!お兄ちゃんだ!お兄ちゃんだ!!!

やっぱりお兄ちゃんは生きてた!

神さまありがとうございます!


私もお姉ちゃんもお父さん達に抱きついて泣いた。



健人叔父さんやカノちゃんパパ達が近くまで来ていた。

お父さんが無言で紙を渡す。


「良かった、良かったよ。優希くん生きていたんだ」

「ああ、よかった」

「ハナちゃん、良かったね!グスっ…」


いつの間にか周りに皆んなが集まっていた。





--------------地球滅亡まで残り5日--------------

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