第25話 エピローグ編⑤ 集合

--------------カウントダウン 残り8日と5時間--------------


【PM 19:00】




カノちゃん一家を連れて我が家へ戻った。

健人叔父さん一家とリノちゃん一家に今日の夜7時を目処にうちに集合してもらうようにLAINEしてあった。


自宅に戻ると、うちのそんなに広くないキッチン、ダイニング、リビングは人でいっぱいになってた。


お父さん、お母さん、お姉ちゃん。

健人叔父さん、真由香叔母さん、俊くん、美優ちゃん、京子おばあちゃん。

リノちゃんとお母さん。

カノちゃんとカノちゃんのお父さん、お母さん、蒼くん。

私を含めて15人か。



お姉ちゃんが『白い穴に突入大作戦』をサラッと説明する。


①必要最低限の荷物を車に積んで家族を乗せた車で『白い穴』に突入する。

②『白い穴』はいつどこに出現するか不明のため、いつでも出発出来る状態にして家族は常に一緒に行動する事。

③ここにいる全員、と言ってもスマホを持っている者だが全員でグループLAINEを組んで連絡を密にする。

④穴の先の事は向こうに着いたら決める



「穴はどうやって見つけるんだ?」


健人叔父さんがお姉ちゃんの方を見ながら小さく手を上げていた。


「うん、ネットに『穴情報サイト』をいくつか立ち上げた。大量に上がる情報からこの地域の穴情報を拾える仕組みを作った」


流石だ、お姉ちゃん。

パソコンで何かしてると思ったらそんな事してたんか。


「ただ、通信がいつまで大丈夫かわからないから、なるべく早くに出発したい。多少遠くてもここから行けそうなら出発する。通信が止まったらアウトだからね」


「確かに…まだ電気や水道も止まってないが、いつまで使えるのか」

「さっきテレビでやってたわ。電気、ガス、水道はあと3日は普通に使えるようにするって。3日はって事は4日後からは使えないって事でしょ?」

「電車やバスも会社によるが同じく3日だそうだ。個人タクシーはどんどんと引き上げ始めてるらしい」

「最後の5日は家族と…って流れてた」


みんなが一瞬無言になった。


「そうね。いつも当たり前に使ってる電気も水道も電車も、そこで働いてくれる人がいるから使えるのよね」

「警察も消防も病院も、最小限の人数でギリギリまで回す予定とは言ってたがな。彼らにも家族はいる。最後は一瞬にいたいだろう」

「飛行機は明日終日のみで運行は終えるそうだ」

「日本にいる外国人全部は乗れないんじゃない?」

「かなり本数を増やして往復を繰り返すって放送してたな」


「飛行機はね、影響を受ける可能性があるから早めに終了するのよ」

「影響って彗星の?」

「え?彗星の引力で引っ張られるって事?」

「飛行機が引っ張られちゃうの?」


ビックリして思わず叫んだけどお姉ちゃんに笑われた。


「衝突5日前じゃまだ飛行機は引っ張られないわ。衝突1日か2日前はわからないけどね。そのあたりの情報はもの凄い数が氾濫しててちょっと読めないわー」


「え…じゃあ…」


「恐らく、あと3日…衝突5日前くらいから、彗星の影響を地球が受け始める事を政府は懸念しているんじゃないかな。地震とか火山噴火とか、そのせいで起こる津波とかね。そうなったら国内の移動どころかライフラインの維持も無理だろうし、だから、あと3日で準備して家族で残り5日間籠りなさいって事だろうな。飛行機は電磁波の影響をモロに受けそうだから早めにストップさせるんでしょ。それと、国によっては既に大荒れのとこも出てる。某国は大統領の発表後には強盗や殺人があちこちで怒り始めたし、空港へ行くのもひと苦労みたいね。海外勤務の日本人が戻ってこれるかどうかわからないわね」


「なるほど、そう言う事か…」


「うちの会社も今朝から猛ダッシュで引き上げ開始したよ」

「え?お姉ちゃんの会社?お姉ちゃん会社員だったの?」

「ちょっと、華!アンタ私を何だと思ってたのよ」

「ええ…と、引きニート?部屋に籠ってゲームしてる大学中退女?」


「酷! 失礼な妹だよコイツは!」

「ちょっと華ちゃん、お姉ちゃんは大学在学中にお友達と起業して一応会社を作ったのよ?」

「お母さん!一応って何よ!ちゃんと作ったわよ。収益も結構出てたからね。業務の内容が情報関係だから在宅が多かったのよ」


お姉ちゃんはプンスカ怒っていた。


「ハナちゃんのお姉ちゃんカッコいい〜」

「うん、凄い〜」


カノちゃんとリノちゃんが尊敬の目でお姉ちゃんを見てた。


「と、とにかく、『穴』を見つけたらなるべく早く出発する。道路が走れるうちに」


話を聞いていた皆んなが頷いた。

あっという間に22時をまわってた。

健人叔父さんとこの俊くんと美優ちゃんはソファーの上で寝ていた。

とりあえず今夜は解散で明日は各自宅で待機しつつお姉ちゃんからの連絡を待ってもらう。



「真由香さん、お布団敷くから今夜はこのまま泊まってきなさいよ。美優ちゃん達寝ちゃったから」


お母さんが客間に布団を敷きに行った。


カノちゃんとこのお父さんがバスの話をして、明日の朝に健人叔父さんの荷物を取りに来てくれるそうだ。

バスにはまだかなり空きスペースがあるのでうちも毛布や羽毛布団をのせてもらえる事になった。

もちろんリノちゃんちの布団も。


お姉ちゃんは皆んなが帰る前に袋を3つ持ってきて健人叔父さんとカノちゃんのお父さんとリノちゃんのお母さんに渡した。


「これモバイルWiFi 、何種類か。大手とそれ以外もある。移動中にいつどこの通信が使えなくなるかわからないから必ず持っていって。それからさっきのグループLAINEにそれぞれのパスワードも貼ったから、全員自分のスマホにWiFiのパスワードは通しておいてね」


マジか、お姉ちゃんいつどこで手に入れて来たんだ。

凄いな。

スマホはいつでも使えて当たり前だったからそんな事まで考えなかったよ。


「一応、無線機も手に入れたけど使い方を説明する時間が無いしそれはおいおい…ね」


「おう、ありがとうな、千紗稀ちゃん」

「ありがとう千紗ちゃん」

「すまんな、千紗稀ちゃん」


カノちゃん一家とリノちゃん親子が帰って行った。

客間に敷いた布団に俊くんと美優ちゃんを運んでから健人叔父さんと真由香叔母さんはリビングに戻ってきた。

京子おばあちゃんは美優ちゃん達と一緒に先に休むそうだ。



「健人さん真由香さん、お風呂沸いてるから入っちゃって」

「すみません、お義姉さん」


叔父さん達がお風呂に入ってる間にお母さんはササっと摘めるモノを用意していた。

夕飯はさっき集まった時に皆んなで話しながら食べた。

もちろん朝に続き、ご馳走様NO.2だ。


叔父さん達が出たら今度はお父さんがお風呂に向かった。


「お先にすみません」

「いいのよー、うちの子達は朝入る系だから」


お母さんが笑いながら言った。

朝入る系って何だ。

確かにお姉ちゃんはいつも朝風呂だが私は夕風呂系だよ。

夕ご飯の前に入るのが好きなんだ。

まぁ今日はゴタゴタしてて夕方はカノちゃん達といたから入れなかったけどね。


お母さんが冷蔵庫から缶ビールを出して叔父さんと真由香さんに渡した。

健人叔父さんがゴクゴクと美味しそうに飲むのを眺めながら、気になってた事を聞いてみた。


「健人叔父さんも真由香おばさんも、白い穴の先の事、本当に信じてる?あの穴の先に……別の世界があるって…」


健人叔父さんは一瞬私を見てからビールに目を戻して押し黙った。

真由香おばさんは健人叔父さんの顔を見てる。



「………そうだなぁ。わからん、というのが9割かな」


叔父さんがポツポツと語り始める。


「あの穴が地球のあちこちに出来初めても自分達の生活は変わらなかったから、単に『穴』としか思ってなかった。優希くんの事件があって、穴が何なのか考えるようになった。でも全くと言っていいくらい解明されなかったのにこのタイミングで今回の彗星衝突騒ぎだ。俺たちのような一般市民にはお手上げだよ」


「そうねぇ、うちも優希の事がなければ、家族全員で静かに最後を迎えてたでしょうねぇ」


「うん、うちもだよ。結局あと10日、いや、実際はあと8日か、どうせ数日で終わるならどこで終わっても同じだ。だから穴の先がどうかなんてわからないが、最後に家族で冒険するのもいいかって思ったんだ」



お姉ちゃんはバナナを齧りながら相変わらずパソコン叩いている。


「まぁねぇ、ネットの中でも『白い穴の先に別の世界がある』ってのはかなり都市伝説的な扱いになってるからね。日本はオタク文化ってぇかアニメや小説でも面白いくらい大量の異世界モノがここ数年取り扱われてて、それが何か必然によるモノではないかって考える人も出始めてるみたい」


「お姉ちゃん、言ってる事が難しいよ!」


「あはは、つまりね、ここ10年くらい『異世界』ってキーワードが頻繁に上がってきたのは、いずれ来る『異世界』に対応させる為、誰か、何者かが仕組んだんじゃないかって、意見もあるのよ」


「でもせっかく対応させて来ても馴染む前に地球が無くなるとかダメじゃん」


「そうなんだよ。オタク文化の日本でさえ『異世界』に馴染んでるのはまだほんの一部だからねぇ。世の中を回してるのは頑固な旧世代だしねぇ」


「そもそも誰が馴染ませてるの?政治家?マスコミ?」


真由香おばさんも真剣にお姉ちゃんの話を聞いていた。


「いや、政治家やマスコミは頑固世代だよなぁ。たぶんおそらく、ってか私の勝手な妄想だけど、神、かなぁ」


「かみ、さま?」


お姉ちゃんが神さまを信じてるなんて初耳だ。


「華は神さま信じてない?」


「う、んん? 宗教とかって何か事件とかばかり起こすし、そもそも神さま見た事ないし…」


「うん。私も見た事ないし宗教にも入ってないよ?日本人って無宗教ってよく言われてるし、他の国みたいに生まれた時から特定の神さまを信じさせられたりしないじゃない。キリストとかアッラーの神とかさ、絶対的なやつって日本には無いよね。でもさ、元旦には初詣に行くし、受験とか縁結びとか、あと結婚式や葬式も。当たり前のように手を合わせるのよね?宗教にのめり込んでないのに、不思議だよね」


「むむ、確かに」


「一番わかりやすいのはアレかなぁ。『困った時の神頼み』した事あるでしょ? ハナも」


「ある! めっちゃある!」


「ほらね、日本人って心の奥底では神さまを信じてるのよ。じゃなきゃ頼まないでしょ?困った時に」


ううむ、確かにそうだな。

困った時に『助けてウルトラーマン』とか『助けてドラ右衛門』何て思った事は一度もない。



「思うに、日本人ほど『神さま』を信じてる民族はいないと思うよ?だから今回の彗星衝突より前に現れ始めた『白い穴』は、神さまからの救いの手に思えるんだよね」


「なるほど」

「そう言う事なのね」

「お姉ちゃん…」


「なぁんて、私の勝手な妄想だけどね。ただ、あれだけ頻繁に穴が出現してたのに日本も世界もなかなか踏み出さない、と言うか踏み出せない。地球に彗星が衝突するのに人類のほとんどがそのまま終末を迎えようとしてる」


「そうね……。あの穴…そんな気がして来たわ」

「さっきは9割わからんと言ったけど、『白い穴』の先に別の世界があると、今は9割思えるよ」

「叔父さん、残りの1割は?」

「え…1割は穴に落ちてジ・エンド」

「ええええ!」

「まぁ落ちなくてもあと8日で10割ジ・エンドだから」

「そうだね」



私とお姉ちゃんは自分の部屋に帰りベッドに入った。

このベッドで寝られるのもあと何日だろう。






--------------地球滅亡まで残り8日--------------

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