白い穴の先は

第22話 エピローグ編② ある計画

いや、衝撃だった。

ソーリーの発言、アレ聞いて驚かない日本人はいないよね？

まぁ驚いたけどさ、あと10日で地球滅亡とか言われても正直実感は沸いてない。

「え？」とか「はぁ？」の世界だよ。

「10日後に地球は無くなります」って言われて、「大変だー逃げろー」って大慌てする人いる？

そもそも逃げるって言っても「どこに？」なんだけど。

シェルターに入って助かるような衝撃じゃないらしい、彗星の衝突。

テレビはどこのチャンネルも大混乱。

今の総理の話をどう解釈したらいいのか解らないって顔のMCや芸人さんたち。

あ、『しばらくお待ちください』の画面になった。

お父さんはチロを撫でくり回して下を向いて何かを考えている。

お母さんはキッチンへ行って戸棚や引き出しをあちこち開けてる音がする。

お姉ちゃんはすごいスピードでバチバチとスマホを操作してる。

パチパチじゃなくてバチバチ。

お姉ちゃん、スマホに穴あくよ？

ティロロンティロロン

私のスマホのLAINEの着信音が鳴ったので見るとリノちゃんだった。

リノちゃんと、あとカノちゃんはクラスで仲のいい友達。

家も割と近いのでよく遊んでる。

３人でやってるグループLAINEに未読マークが付いていた。

ティロロンティロロンティロロンティロロン

うおっ、見るとカノちゃんも参加したみたいで未読数が上がっていく。

慌てて私も参加した。

リノ　見た見た？総理の会見

カノ　見たよ　何アレ

リノ　おーい　ハナー　いないのー？

カノ　ハナちゃんお花摘み？

ハナ　いるし

ハナ　見たよ　ソーリーの話　あれマジ？

リノ　総理が言ってるから嘘じゃないと思うけどマジかはわからん

ハナ　ソーリーだしマジかなー

カノ　マジなのー？

リノ　マジかー

ハナ　マジ？

ハナ　にしてもあと１０日とは！

カノ　そうだよ！１０日ってどゆことだよ！言うの遅いよ

リノ　クラスLAINEに綾ちゃんから入ってる

リノ　明日学校休みだってー

カノ　明日休みなんだ

ハナ　てかあと１０日しかないし行ってもねえ？

カノ　じゃあクラスLAINEで皆んなにバイバイ言ってくる

リノ　私もー

ハナ　私も言ってこよー

クラスLAINEを見るとすごい未読数になってた。

開くとソーリーの話題とクラスの友達同士でお別れのぴえんスタンプの嵐だった！

皆んなお別れスタンプを上げつつも彗星衝突の話題が延々とループしていた。

最早、誰と誰が会話してるのやらわからぬ大混乱。

ティリリリリ　ティリリリリ

お父さんのスマホの着信音、見ると右手でチロを撫でつつ左手でスマホに出ていた。

パラピレパラピレピュルルル

お母さんのスマホだ。

「お母さぁん、スマホ鳴ってるよー」

お母さんが「あら」と言いながらキッチンから出てきてスマホを手に取った。

お姉ちゃんは相変わらず高速でスマホを叩いてる、と思ったら、スマホ片手にタブレットも操作していた。

私がクラスLAINEにスタンプをいくつかタップしていたらお父さんが突然テレビを消した。

「お母さん、千紗稀、華、ちょっと手を止めて。これから山田家の家族会議を始めます」

お父さんは真剣な顔だった。

警察でお兄ちゃんが穴に落とされた話を聞いた時と同じ顔。

いつも優しいお父さんのオデコが割れて中から宇宙人が出てきそうな顔だ。

「あとでかけ直すわ」

お母さんがスマホの通話を切ったみたい。

お姉ちゃんも鬼連打を止めていた。

「さっきの総理の話だと地球はあと10日で終わるだろう？　お父さんさ、その10日間は、家族一緒にいたいんだ」

うん。私もそう思うよ。

お母さんもお姉ちゃんも頷いている。

「世界中の人たちもきっと最後は家族と過ごすと思う。でもさ、優希がいないんだ。家族で過ごしたいのに、優希がいないんだよ」

下を向いたお父さんの目から涙が落ちた。

「……きは、いるわよ。生きてるわよ」

お母さんが怒ったような悲しいような声を絞り出す。

うん。お兄ちゃんは生きてるよ。

白い穴の底で生きてるよ！

お父さんが顔を上げた。

「だから、皆んなで白い穴に行かないか？皆んなで穴に落ちれば、優希と会えると思う。自殺とか心中とかじゃない！生きる為に、家族皆んなで生きる為に、白い穴に優希を探しに行かないか？」

………そうだよね。

それ、ありじゃない？

今までは国が白い穴を調査してくれてるって思ってたから、我慢して待ってた。

でもなかなか調査は進まないし、その上あと１０日で地球に彗星がぶつかるんだよ？

あと10日しかないなら自分達で探しに行くって、すごくアリだよ！

「行くに決まってるわ」

「行くよ」

「行こう！」

うちの家族はもとからすごく仲が良いんだよ、お兄ちゃん探しに行くに決まってるじゃん。

「よし！じゃあさっそく準備をしよう」

「備蓄食糧はバッチリよ」

お母さん、さっきからキッチンで何かしてると思ったら、食糧チェックしてたのか。

家族で白い穴に飛び込むのは良いとして、大きな問題がある。

白い穴はランダムに出現するからどこに現れるかわからない。

「白い穴ってランダムに出現するじゃん？どうやって探すの？」

「穴情報は上がったらすぐわかるようにした」

お姉ちゃん！さっきから鬼打ちしてたの、それ？

さすがだ、我が姉よ。

「必要最低限の荷物を車に積んで穴情報を頼りに移動する。そして車ごと穴に飛び込む」

おおぅ、なるほど。

「うちの車、大型ワゴン車だけど荷物どれだけ積めるかしら」

「人間４人とチロ、チロ大型犬だからなぁ」

またしてもお父さんがチロの首の下をグイグイ撫でてる。

チロは降参とばかりに腹天になった。

お父さんはすがさずお腹をワシワシした。

うちの車は大型ワゴン車だ。

「10人乗れます」とお店の人に言われたそうだけど、流石に10人は詰め込みすぎって思う程度の広さだ。

家族旅行の時は運転席にお父さん、助手席にお母さん、その後ろの座席にお姉ちゃんと私が座り、その後ろにお兄ちゃんとチロ、最後部は座席を倒して荷物置きにしてた。

沖縄に家族旅行で1週間行った時は最後部の荷物置き場はパンパンだった。

「これ、今ネットで調べた。もし異世界に行くなら持って行くべきモノ」

お姉ちゃんがタブレットをお父さんたち見せた。

穴情報だけでなくそんな事も調べていたのか、我が姉ながら尊敬する。

「水、日持ちする食糧、火を起こすモノ、防寒着…」

「あらやだ、武器なんてあるかしら」

武器って何だよ。

まぁ白い穴の先が本当に異世界だったら武器は必要だけど…。

「足りない物は明日中に買いに走る」

「明日、お店やってるかなぁ　ガッコ休みだしお店とかも休んでそう」

「そうだね。あと10日しかないならもう誰も働かないんじゃないかな。さっきお父さんの職場からも仕事終了の連絡きたし」

「え、お父さんクビになったの？」

「クビ…いや、お父さんの会社は商社って言って外国からいろんな物を輸入してたんだけど、こんな情勢だから海外との取引も終了で、各自家庭でゆっくりして良いって」

「ショッピングモールもやってないだろうけど無理にでも開けてもらって買い物して」

「銀行やってるかしら。カードが使えないと困るから朝一番で現金おろした方がいいわね」

「今行った方がいいな。今ならまだモールやコンビニのATMが開いてるだろう。俺がちょっと行ってくる」

「待って、なら皆んなで行こう。モールも確か8時か9時までやってたはず。手分けして買い物しよう」

「そうだな。まだニュースを観てない人もいるだろうし、いきなり店を閉めたりしないだろう」

そんなわけでチロを残して家族総出で急遽買い物に向かった。

お姉ちゃんのタブレットに載ってた『異世界に持っていく物』をほぼ買い揃えて帰宅したのは21:00を回っていた。

ええと、武器として買ったのはバールとシャベルだった。

お姉ちゃん曰く、武器の定番なんだって。よくわからぬ。

帰宅してすぐにテレビをつけたが、番組は全て情報番組にチェンジしていた。

ただ、いつもより画面にいる人が少ないような？

内容は相変わらず総理の発言を掘り返していただけだったが、いつどんな情報が流れるかわからないので今夜はテレビを付けっぱなしだ。

「各自、自分の荷物を用意して。持って行くのは最低限だ。それ以上は車に積めないからね」

「最低限って何持ってけばいいの？」

「華ちゃんの絶対持って行きたい宝物と、着替え」

「ハナ、下着はパンブラ靴下多めに、服は動きやすいやつで。あっちの季節がわからないから、着替えは夏冬１着ずつ」

「え！１着しか持ってっちゃダメなの？」

「服は最悪あっちで買えばいい」

「あっち…異世界の服かぁ。可愛いのあるかな」

「華ちゃん、バッグはリュックにしてね」

「そうだな。スーツケースやキャリーバッグは車に積むと場所取るからな」

「小さく畳めるエコバッグやダウンも持って行きましょう。あ、あと靴も詰めなくちゃ」

お母さんが玄関へと走って行く。

「お母さん、お母さん、優希の荷物は詰めたか？まだなら僕が詰めるよ」

「だいじょーぶ、さっき詰めたわ」

玄関からお母さんの声が聞こえた。

バタバタしているうちに0:00を回ってしまった。

昨日が終わったー。

総理が言ってた『あと10日』って、いつからあと10日だろう？

もしかして、昨日からだったら貴重な1日が終わってしまった？

残りあと９日だったりする？

地球滅亡まで、残り９日　ですか

--------------地球滅亡まで残り９日--------------