第12話 アメリカンフォレスト

俺たちは無事に草原を突っ切りアメリカンフォレストに突入した。

それにしても、森の中といい草原といい獣も鳥も虫も何も出てこないな。

この世界って本当に生き物がいない世界なのかな。



生き物がいない世界……。

うん。

アメリカンフォレストに入ってすぐに出会ってしまった。

生きてない元生き物に。


「そこにいろ」


ライアンに言われて待つ。


「とりあえず弔うのは後だ。まずは進もう」


「え?死んで…? あ、目印、あとでわかるように目印立てておこう」


アメリカンフォレストに入ってすぐに亡くなったアメリカ人?を発見したが、穴を掘って埋めるのは時間がかかるので目印を立てて先に進む事になった。

俺はそこらで拾った棒に布を切った物を縛りつけて地面に刺した。




ジャパンフォレストの西側に位置するアメリカンフォレスト。

アメリカンフォレストから言えば森の東側から突入した事になる。

一応そのまま森を西へ西へと進む。

中央がどのあたりかわからないから向こうに抜けるまで進んでみる事にした。

うまくすれば拠点らしき場所にぶち当たるかもしれない。


ライアンは穴に落ちてから闇雲に森を移動したので自分が森のどこから来たかはわからないそうだ。


進んでいるとまたしても倒れている人を発見した。

残念だが“元・生きていた人”だった。

が、ライアンの顔が曇った。


「マズイな、少し気をつけた方がいいかも知れん」


「え?」


「こいつは餓死じゃねぇ」


「え…」


「今までの餓死した死体は特に怪我もなく痩けて死んでいた。だがこれは顔にアザがあるし、腕も折れている」


服を捲ったライアンがさらに眉間に皺を寄せる。


「腹をかなりやられているな。殴られたか蹴られたか、おそらくこれが死因じゃないか?」


「え、え、それって他の人、げ原住民かケモノ…」


「わからん。が、これをやったのがもし他の何かならまだ近くに潜んでるかも知れん。もしくは、いや、獣だとしたらキバによる咬み傷や爪の跡があるはずだが、それは見当たらねぇって事は人間がやった可能性が高いな」


「……原住民か落ちて来た人か」



俺たちは荷物(台車とカート)をここに隠す事にした。

木の枝や葉で覆い、木の上の方に印を掘って置いた。

何かあったときに走って逃げられるように身軽になった。

一応武器として俺は鍬を持ち、ライアンはバールのような物を持った。



なるべく音を立てないようにしながら西へと進んでいく。

するとまたしても倒れている人を発見した。

ライアンが確認するとこの人も亡くなっていたそうだ。


この人も顔や身体がアザだらけだったそうだ。

アメリカの森に入って3人目。

1人目は餓死、2人目3人目は銃や刃物ではなく撲殺?



「猟奇殺人鬼がこの辺にいるのか、もしくはふたりがやり合ってお互い倒れた……ううむ」


「素手のジェイソン……」


「っぷ、ゆうきの歳でジェイソンを知ってるとは」


「あ、うち両親がホラー映画好きで」


「ジェイソンが素手だとあまり怖くはないな」


「そう言われればそうですね。チェーンソーで切りかかってこその怖さだし、ジェイソンが素手でもこっちは鍬持ってるし、俺のが勝つ気がする。来いや!ジェイソン!耕してやるぜ」


「やめろ、腹が、よじれる。大声出したらジェイソン来るだろが」


あ、ジェイソンは決定なんだ?


その後はお亡くなりになった人にもジェイソンにも会わずに広い場所に出た。

ジャパンフォレストで言うところの拠点っぽいんだが、特に物資は落ちていない。

とりあえず今夜はここで野宿をする為、さっきの所まで戻り荷物を回収してくる事にした。



一応ジェイソンを警戒しつつ台車とカートを持ってきた。


ジェイソン(殺人者)を警戒して火は起こさない事にした。

二つ並んだ大木の間にカートや荷物を隠して俺たちはそれぞれの木のウロに身を隠した。




ジェイソンに襲われる事もなく、朝を迎えた。

朝になっても物資が広場に落ちてはいなかったが、何となくここが穴が繋がる場所に思えた。


「昨日の移動にかかった時間を考えてもアメリカの森も日本の森も似た大きさだな」


「うん、そしたらここにも拠点が3つあるんじゃない?」


「そうだな。だからジャパンフォレストと同じような場所をまずは確認してまわろうか」


「うん」


火が無くても食べられるクッキーやペットボトルの水で朝食を済ませた。


「ジェイソン…昼間も襲ってくるかな」


「一応警戒はするが、どうだろうな。ジェイソンという第三者ではなく、俺はあのふたりがやり合って共倒れしたと思う」


「何でそう思うの?」


「ふたりの遺体があった場所が近すぎる。もしジェイソン…というか第三者がやったとしたら、あれほどボコボコにされたんだ。それを見てたもうひとりはもっと遠くへ逃げれたはず。縛られた後は無かったからな」


「うん」


「恐らく何かでふたりが揉めて喧嘩になり最初にどっちかが倒れた。残ったやつがそこから移動しようとしたがそいつもかなり深手だったんだろう。大して移動できずに倒れたって感じか」


「そっかぁ。何で揉めたんだろ。せっかく穴に落ちた仲間だったろうに」


「そうだな、何でだろうな。世界は日本ほど平和思考じゃないからな。つまんない事で揉めたんだろ」


「んん? それ、日本人が脳天気って事?」


「違うぞ?褒めてんだ」


「そう? そっか」


日本は平和主義というより闘い慣れていないだけって気がする。



俺たちはジェイソンに出会う事なくその後、拠点を2つ発見した。

アメリカンフォレストも日本と同じく全部で三つの拠点があった事になる。

というか、それ以上広く探索する時間がないので確実かどうかは不明だ。


最初の広場は何も無かったから拠点かどうか怪しんだが、ふたつ目に見つけた場所には広場の中央に落ちている物があった。


ロープや梯子は一方が切れた感じになっていた。

白い穴にロープを入れると途中で切れるって聞いたから、切れた先が落ちて来たって事だろう。

何かの機械が繋がった鎖もあった。

確かアメリカは最初に白い穴が発見された国で、色々と穴を探ったような話がネットに出てた。

その残骸かな?



「チッ、やはりうちの国は物資なんて落としてくれる親切な国民はいないのか。使えねぇ残骸ばっかじゃねぇか」


ライアンがぶつぶつと文句を言いながら転がっていた機械をいじっていた。

三つ目の拠点でも似た様な物が落ちていた。



「何だこれ? ねぇライアンこれ何だと思う?」


俺は足元にあった物体を摘んで持ち上げた。


「何だ?そりゃ」


俺が持ち上げたのは、見た目は銃の形をしているが素材が岩だった。

石と言うほど硬さはなく鍬で叩いたら崩れそうな素材の拳銃だ。


「それも」


俺が指差した所にはライフルっぽい形の岩?

いや、岩にしては精巧作りだな。

銃やライフルなんて映画やTVでしか見たことないから本物に近いかどうかはわからない。


ライアンが足で踏んづけたらライフルの先っぽの部分が簡単に崩れた。

何でこんなんが落ちてるの?

こんな崩れやすいおもちゃを白い穴に落としたって事?

アメリカ人って変わった人がいるな。


「これは…軍隊の、いや、そっくりな作り物か?」


その辺に転がってる石ころと思ってた物もよく見ると、銃の弾っぽい。


「あ、あれなんて手榴弾っぽいね」


「ゆうき!触るな!」


俺が手に取ろうとしたらライアンに怒鳴られビックリした。


「触るな…もし手榴弾なら危ない」


「え、でも見た目、砂を固めた感じだよ?」


「中まで砂かわからん。ゆうき、ちょっとあの木の後ろに行け」


ライアンが指差した木はここからかなり離れていた。

ライアンは俺が木の後ろに隠れたのを確認してからゆっくりと手榴弾っぽい塊に触れていた。

俺のところからはよく見えないが、もし危険ならライアンも危ないんじゃないか?

どうしよう、止めた方がいいかな?


俺がオロオロ悩んでいるとライアンが俺を方を振り返った。


「大丈夫だ」


見るとライアンが持っている棒の先で、たぶんさっきの手榴弾みたいだった物が崩れた土の残骸になってた。


「他の機材や鎖はそのままの状態で落ちてたのに何でだ?」


ライアンが他の、銃の弾やライフルも棒でグシャグシャと突いていた。

俺はふと頭によぎった事を口に出した。


「武器…だから、かな?武器だけこの世界は禁止で穴の途中で土化するとか…」


「鍬やバールはそのままだぞ?」


「だって鍬は武器じゃないじゃん。鍬は農器具だし、バールは何に使うか知らないけど何かの道具でしょ?」


「なるほど、この世界は地球の武器の持ち込みは禁止か。日本の拠点にそれっぽい物が落ちてなかったのは、日本人は普段から武器を持ってないからか」


「うん。自宅に銃を置いてる家はほぼないよ。限られた職業の人くらいだよ」


「ここがどこかはわからんが、この世界を作った神はそう言うのを拒んでるってことか」


「だからジェイソンはチェーンソーを持ってないはず」


「いや、チェーンソーは武器じゃないだろ。ありゃあ、木を切る道具だぞ?」


「ああ!そっか えええ、じゃあジェイソンは武器持ってるって事?」


「まあな…ジェイソンはいないと思うが」


「え?じゃあ、ゾンビは? ゾンビはいそうだよね?」


「ゆうき、お前、ホラー映画の見過ぎだぞ」


「ええ!だってこの状態だよ?地球に出来た白い穴に落ちたら、変な森に出たんだよ?これがホラーでなくて何なんだ!ファンタジーとかSFでもいいんだけどイマイチファンタジー要素が見当たらないんだよね。スライムとかゴブリンとかいたらファンタジーかもしれないけど」


「何だ、そのスライムとかゴブリンってのは。スライムはグニョグニョしたオモチャだよな?」


「違うよ、スライムやゴブリンはぁ、日本のファンタジー小説とかに必ず出てくるテッパンの魔物だよ。主人公がここみたいな異世界に来て最初に戦う魔物」


「はぁ」


「でもこの森って全く出てこないじゃん?」


そんな話をしていた時、背後の木の陰の草から突然ガサガサと音がしたもんだから俺は飛び上がった。


魔物が出たか!

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