第4話 白い穴の先、そこは

俺は3人に白いモヤの穴のある交差点まで連れてこられた。


クラスメイトのひとりが俺達をスマホで撮っていた。

先輩はスマホのカメラに向かって笑いながら、


「これから公開処刑をしま〜〜す」


楽しそうに宣言をした。


マジかよ、おい、笑い話にならないぞ?


2人にどつかれているうちにジリジリと穴に寄って行ってしまう。

穴のギリギリ淵まで追い詰められたところで先輩は持ってたナイフをひとりに渡し、代わりに俺のカバンで俺を殴り始めた。


殴られた反動で穴に落ちないように踏ん張っていたが、何度目かの攻撃が顔にきて、手で顔を覆った途端、今度は足を狙われ結局耐えられず大きくバランスを崩した。


そして俺は、白いモヤの穴へと、落ちた。



"白い穴"


それは最近、地球のあちらこちらに現れ始めた現象で、直径5メートルほどの穴が白いモヤで覆われていて深さが全く不明の穴の事だ。

穴は世界中に出ては消え、場所を変えては出て、そして消えてを繰り返していた。


もちろん日本でもすでに穴は50を越える報告が上がっているようだった。


うちの街で今日初めて穴が発見されたと朝クラスで皆が騒いでいたのだ。

それがここ、駅前の交差点で、そして俺が連れてこられた穴だ。


穴に落ちて戻ってこない行方不明者は国内で確か2人報告されていた。

俺は3人目の行方不明者になるのか。

穴に落ちた(落とされた)事に気がついてもらえればだが。


と、俺は落ちながら冷静考えていた。


実はちょっとだけワクワクしている。

俺はネットが好きでネトゲやネット小説をよく読む。

ジャンルはファンタジーもので「異世界転移」というモノだ。

主人公が異世界に転移する時に、白い召喚の輪が現れたりする。


異世界転移小説ファンの間では、今世界規模で起きているこの白い穴の現象が、実は異世界へ転移する"召喚の輪"では?と、密やかに囁かれているのだ。

俺も召喚の輪妄想を日々膨らませていたひとりだ。


だからこの白い穴の先は異世界に繋がっていると思うんだ。


どうせ転落死するのならちょっとの間、そんな夢を見たっていいじゃん。


と、突然空気が重くなったような?いや、濃くてまるでグミのようなものに包まれた感じで、落下しているのを感じ始めた。

そして落下のスピードが次第に遅くなっていった。


「向こうに出るのか?」


身構えた直後に、背中が地面に激突した。

落ちたというより背負い投げされたような感じだった。


グミのようなものに包まれた感じのまま地面を数回バウンドした。

俺を包んでいたグミのようなものが弾けて霧散したと同時に、俺は木の根っこや草が密集している地面をゴロゴロところがった。


「くあ〜 いってえええ」


背負い投げまでは大した事なかったのだが、その後地面を転がった時にあちこち打ちつけて擦りむいたようだ。

だが、その程度ですんで本当にラッキーだった。


そう。いろんな意味でラッキーだった。



「出た」


俺は、穴の向こうに出たんだ。

白い穴の先は森だ。森の中だ。


異世界の森だろうか?

いや、早まるな、地球にも森くらいある。

アフリカにもアマゾンに、日本にさえ富士の樹海があるじゃないか。

そうだ、普通に俺の住んでた街にも山と森くらいあった。


だがここは地球じゃない。

だって空に太陽が、その 右側に月が。そして左側にも月が。

そう、太陽の両側に月があったのだ!


「地球って月、一個だったよな?」


誰にともなく問いかけた。


「うん、一個だよね」


自分で返事をした。



俺、来たんだ! 異世界に!



ガサガサ!ドン!


木の枝を揺らす音と地面に何かが落ちた音がして、驚いて飛び退いた。



慌てて太い木の後ろに身を隠すとき、靴が片っぽない事に気がついた。

足にカバンをぶつけられた時に脱げたんだ。

マズイな。

片足が裸足では走って逃げる時に全力が出せない。


不安に思いつつも音がしたあたりを伺っていたが、 森はシンとしたままだった。

10分ほど潜んでいて、なんの音もしないので恐る恐る木の後ろから出て、さっきのところに戻った。


そこには、俺のカバンと俺の靴(左足)が落ちていた。


靴を履いてカバンを抱きかかえて木の根に腰かけた。



さて、ここが異世界だとするとネット小説ではだいたい3パターンに分かれる。


①国王もしくは王女が城(神殿)に召喚した。しかし彼らはだいたい悪者で戦争とか国の面倒事に巻き込まれる。

②神様が白い部屋へ召喚して、チート能力を与えてその後に異世界へ転移させる。これは割とありがちの「俺TUEEEEEEEE」になる。

③死んで何らかの理由で異世界の森とかに転移した。これは結構厳しいパターンだ。自分で努力して第二の人生を歩む系だ。


俺の場合は国からも神様からも招かれていないので、概ね第3のコースかな?


そうだ!ステータスを見よう!

異世界ファンタジーのテッパン、自分の能力を確認する為にステータス画面を呼び出すんだ。


「ステータス! ステータス確認! ステータス表示!」


………。

何も出ませんでした。グスン。


じゃあ、魔法はどうだ!


「ファイアーボーーール!エアカッターーー!ライト!ライト!ライトニングううううう、ヒール!ウオーター!

はぁはぁはぁ、英語の発音が悪いのか?」




..........。


いや、わかっていましたよ。

魔法は使えませんでしたー。


あれか、第3のコースの中でもハードモード系だな。

ゲームでいうところのナイフ一本でゾンビ倒すやつだな。

俺にはナイフも無イフ‥‥(衝撃のあまりにオヤジギャグを言ってしまった)


ゴホン、ゴホン…。

えー、あるのはさっき落ちて来た俺のカバン。

中には教科書とノート、塾のテキストと筆記用具、からの弁当箱、タオルと体操着(しかも汚れている)。

役に立ちそうなものがないな。


キョロキョロと周りを見回して、殴るのに手頃な太い棒と刺せそうな先の尖った棒を拾った。

最初の武器が棒って「神様、ヒドイ」と思ったが、よく考えたら剣とか貰っても俺には使えないな。うん。



恐らく地球に戻るのは不可能だと思う。

ここで生きていくとしても、とりあえず人のいる街とかを探す事が第一の目標だな。

というか、そもそも''人" いるのか?

持ってる武器が棒二本という超ハードモードだし、もしかしてこの世界の住人はタコ型とか虫系とか……うわぁ勘弁してください。

せめてグレーのような宇宙人型にして。


穴が消滅するまでは長くて数週間だっけか?

その間に助けは……無理だろう。

そもそもあいつらが助けを呼んでくれるとも思えない。

このカバンだって証拠隠滅のつもりで放り込んだんだろうしな。


けどまあ、うっかり誰かが落ちてこないとも限らん。

しばらくはここを拠点に周りをを散策していこう。


まずは水と食べられそうな木の実を見つけるのだ。

というか、食べられる木ノ実ってどんなだよ?

アーモンドとかクルミってどんな木になってるの?


地球上の食べられる木ノ実も知らんのに、いきなり異世界の木ノ実かよ。

前途多難だな。

森にリンゴやバナナがなってるとは思えない。

せめて、柿…とか、栗って生で食えたか?




ネット小説だと森へ転移した主人公はキャンプ経験があって火を起こせたり、なぜかウサギ(肉)が狩れたりするけど、俺ムリだから。

家族でキャンプには行ったけど、バンガローは電気だったし、バーベキューコンロはスイッチ押すと火がついたから。


あと目の前にウサギがきても狩れないから。

ウサギとか猫とか犬とかモフモフ系は無理。


ネット小説の主人公は街に着いたら、井戸を掘ったり塩を作ったり揺れない馬車を作ったりしてお金を稼いでるけど、それも俺ムリだから。


てかさ、普通に生きてる高校生が井戸や塩や馬車作ったりしないからな。

そんな部活入ってねえよ。


あと、ハーレムもムリだから。

彼女いない歴うん年だから。

だ、だ、大学行ったら頑張って彼女を作ろうと思ってたとこだから。

何話していいかわからないし、それ以前に言葉通じるのかという大問題が!

てか、タコや虫とハーレム…ゾワワワワワァ!ムリムリムリムリ。


穴の中を落ちてくる時は「異世界ワクワク」とか思ったけど、実際異世界にくると、現実が目の前に迫ってくるな。

厳しいなぁ。


グ〜〜


ハラ減った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る