第3話 落ちた!と言うか落とされた
1話、2話はプロローグで名もなきサラリーマン視点でした。
ここから本編開始で主人公が高校生に変わります。
----------------------------------------------------------------------
落ちた!
そう思った直後、俺はバランスを保てずに白いモヤの穴へと吸い込まれていった。
その穴は深く真っ白で、どっちが上だか下だかわからない気持ち悪い状態で俺は落ちていった。
昨年の夏休みに家族で行ったオーストラリア旅行で、初めてやったバンジージャンプを思い出した。
見ているぶんにはたった数秒のジャンプ(落下)も、いざ自分がやってみると
ゴムが伸びきるまでに、ものすごくものすごおく長い時間に感じられたのだ。
あの時は橋の上から川をめがけて飛び込んだのだが、いつまでたっても川に到達しないのに驚いた。
時間って、絶対 伸びたり縮んだりしてるよな。
で、今がまさにその状態?
白いモヤの穴に落ちた。
そして落下し続けているんだけど、これ、長く感じてるだけ?
案外底まではそんなにないけど、俺が長く感じてるだけかなぁ。
それとも本当に深い穴で、地球の中心に向かって俺は落ち続けてるのか?
・・・・・・・ふあぁぁ。
落下があまりに長くて、緊張しているのが面倒になってきた俺は身体の力を抜いた。
どうせ人間死ぬ時は死ぬ。
というか、これ、絶対に死ぬでしょ?
穴が深くても浅くてもこの距離落ちたらさすがに死ぬよね?
とりあえずどこかに激突するまで走馬灯でも思い浮かべようかな。
(走馬灯って自分で思い浮かべるものなのか?)
母さん、父さん、姉貴、妹のハナ、4人の顔を順番に思い浮かべる。
あ、あと犬のチロ。
うちは結構家族仲はよかったよな。
商社のサラリーマンの父さん、派遣で事務員やってる母さん。
仕事好きな母さんは姉貴が生まれるまでは働いていたげど、出産後は姉貴と俺とハナが小学生の間は専業主婦をしてくれていた。
ハナの小学校卒業と同時に母さんはまたどっかの会社に派遣で事務員としてフルタイムで働きだした。
姉貴は俺より5歳年上だが、見た目がチビッコでいつも妹と間違えられていた。
妹のハナの方が実際背は高い。
姉貴は22歳で身長145センチだもんな。
俺が中1の時に高3の姉貴が中1に間違われて本気でキレた時は怖かったな。
母さんが勤め始めてからは「これからの男は家事が出来ないとモテない」とか言われて、俺も父さんも家事を仕込まれた。
おかげで一家5人それなりに助け合ってうまくやってたと思う。
夏休みや冬休みは、家族であちこち旅行に行ったな。
何しろ、家族共通の趣味が"グルメ"だったからね。
父さんの仕事の都合で引っ越しも数回あって、俺は近所に"幼馴染"とか"親友"なんてものは出来なかった。
そのかわり、ネットの友人は結構いた。
ネッ友なら引っ越しとか関係ないからな。
もちろんネット上だけでなく、実際にオフで会ったり遊んだりもした。
学校の友人は年が近いせいか、勉強でもスポーツでもライバルチックでそれがちょっと嫌だった。
でもネットだと年下から年上までいろんな人がいたから、甘えたり頼られたりとそれなりにいい感じの付き合いが出来た。
あー…来週の土曜日にスイーツ男子の会のオフがあったのに、穴に落ちたから行けないなぁ。
と思った時、その元凶を作った三人の顔を思い出した。
俺をカバンでぶっ叩いてこの白い穴に落としたやつは、一個上の三年。
後ろでゲラゲラ笑っていた二人は同じクラスだった。
ふたりは一年のときにクラスで別のやつをターゲットにイジメをしていた。
そいつの弁当を取り上げて頭にぶっかけたとこを、こっそりスマホで写真に撮って担任宛にラインした。
イジメられていたやつは限界だったみたいで転校していった。
イジメていたふたりは担任に呼び出されて叱られた恨みで、その後イジメのタゲを俺にしたようだった。
俺は基本、家族に隠し事をしないので学校であった事は逐一報告していた。
「目には目を、歯には目と歯を!念には念を!!怨念を!」
「お返しは二倍!仕返しは三倍よ!」
と、よくわからないエールを姉貴と母さんからもらった。
父さんからは「いざとなったら転校すればいい」と言われていた。
妹は眉毛を八の字に下げてオヤツのどら焼きを半分くれた。
ええと、その悲しげな顔はイジメられてる俺を悲しんでくれたんだよね?どら焼き半分を惜しんでるんじゃないよな?
でも、誰かに愚痴れる、味方がいる、というのは心強いものだった。
やられたらやり返す。
弁当を床にばらまかれたら、翌日あいつらの弁当を窓から捨ててやった。
机に「死ね」と落書きされたら、その机をあいつらの机と交換してやった。
体操服をゴミ箱に捨てられたので、あいつらのカバンを焼却炉に放り込んでやった。
あいつらもそこまでやり返されると思ってなかったようでビビリ始めイジメがやんだ。
だが、あいつらは三年のとある先輩に泣きついたのだった。
その先輩というのが、三年でもちょいヤバイ系で有名で、学校も手を焼いている生徒だった。
そいつの担任が立て続けに二人辞めていた。
レイ○されて転校した女子や駅の階段から突き落とされて障害をおった男子などキナ臭い噂が後を絶たない先輩だった。
今日、塾の帰りにそのふたりが俺を待ち伏せしていた。
ふたりは俺にスマホの動画を見せた。
そこには学校の椅子に縛られたうちのクラスの女子が写っていた。
その背後には件の先輩が立っていた。
「ちょーっとおれたちに付き合ってくんない?つきあってくんないと、彼女、マズイ事なっちゃうかもよん?」
困った。
こいつら何がしたいんだ?
彼女がマズイ事に‥‥‥って、そこに映ってる女子は別に俺の彼女じゃないし、ただのクラスメイトだし?
俺のクラスメイトってことはお前らのクラスメイトでもあるよね?
だって俺とお前ら(彼女も)同じクラスだし。
とりあえず誰か攫って人質にして俺をおびき寄せる作戦なのか?
バカなの?
「彼女がマズイ事になるのと俺と何か関係あんの?」
わかりきったツッコミを入れてみたら、
「だから無理があるって、ゴニョ」
小声でゴニョゴニョ言っている。
「俺行かないし、あと、警察に通報する」
「え、ちょ、待った。まじヤバイんだって」
「沢渡先輩、こえーし、まじ本気で彼女マズイんだよ」
知らんわ。
「俺達だってこんな事するって思わなかったし!」
「ちょっと先輩にグチったら、先輩、エキスパートしちゃって」
それ、エキサイトね。
「とにかくこのままじゃヤバイんだよ」
「たのむ!いっしょにガッコー行ってくれ」
「3人なら先輩から彼女取り返せるし」
脅迫がもはや懇願になっている。
「親とか先生に相談したら?」
「無理だよ。そんな事したら絶対後で仕返しされるじゃん。俺達、ころされちゃうよ」
「とにかく、お前連れてこいって言われてるから。頼むよ、いっしょに来てくれ」
ふたりがとうとう泣きながら土下座を始めたので、面倒になって一緒に行く事にした。(後で考えたら俺も甘いよな)
学校へ向かって歩きながらラインで自宅に遅くなると伝えた。
後悔したのは教室に入ってからだ。
ふたりの泣き土下座は嘘泣きで、拉致されていたクラスメイトの女子は先輩の元カノだった。
俺はまんまとおびき出され 、4対1な上、先輩は武器(ナイフ)を持っていた。
元カノ女子はすぐに帰ったが、俺は3人に連れ出されてどこかへ向かった。
どこか。
そう、あの白いモヤの穴のある交差点だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます