第二章《7》

「そうだ、なんかこの後俺達のクラスの奴らであれをやるらしいぜ。」


キャンプファイヤーの後の片付けも無事終わり、今は待ってくれていたヤスと小池さんと合流してからメンバーと宿舎に戻っている。


その道すがら、ふと思い出してそう話題を切り出した。


「は?あれ?」


後ろを歩いていた小池さんがそれに反応して聞いてくる。


「あーあれか。」


隣を歩くヤスは思い当たる節があるらしい。


「え、何があるの?」


一方小池さんと並んで俺の後ろを歩く高橋さんはなんだかワクワクした表情だ。


「肝試しだよ、肝試し。」


だからそのあれが何かを教えてあげる。


「き、肝試し!?」


すると、そのワクワク顔が分かり易く一瞬で蒼白になった。


「え、マジ!?楽しそー!」


それとは対照的に、一方の小池さんはめちゃくちゃ乗り気だ。


「ま、摩耶ちゃん…。


怖くないの?」


「え?なんで?」


「なんでって…。」


お互いにお互いの反応がもの珍しいらしく、表情こそ違うものの頭に?マークが浮かんでいる。


「…これって強制参加じゃねぇんだろ?


無理しないで高橋は先に戻っとけば良いんじゃねぇか?」


そんな状況に見かねて助け船を出したのはヤスだ。


「う…うーん…。」


でも高橋さんはその助け舟には素直に乗れず、迷っているようだった。


「うーん…怖いけど楽しそうだし…。


それに一人で戻るのも怖いし…。」


「静、物は経験だと思うの。」


そんな高橋さんを見てニヤニヤと笑いながら言う小池さん。


「見た目の割に年配者みたいな事言うのな。」


それに安定の毒舌ツッコミを入れるヤス。


「うるさい黙れ!」


「う、うん。


私…がんばる!」


ようやく意を決したようで、高橋さんは小さくファイティングポーズをとる。


ちょっと可愛いなと思ったのは内緒だ。


おっといけないいけない…。


「ま、高橋さん、そんなに怖がらなくて大丈夫だよ。


どうせクラスの奴らの悪ふざけだし大した事ないだろうから。」


そう言ってフォローを入れる。


「う、うん。」


それでさっきまでの蒼白顔は幾分か和らいだ気がした。


と、安心したのも束の間。


「まぁどうせちょっと辺りからガサガサ音がしたり?


化け物の格好したクラスの男子が突然『わ!』とか言って出てくるくらいでしょ?


そんなの余裕よ、余裕。」


「っ…!?」


小池さんのせいでまた高橋さんの表情は蒼白に戻る。


「いや小池さん、やめときなって…。」


「見た目の割には、全然怖がらないのかとも思ったがこれはこれで子供っぽいな。


わんぱくっつーか。」


はい、ここでまたヤスの毒舌が入りまーす。


「あんた本当に殴るわよ…?」


そう言ってヤスを睨む小池さん。


「で、でも頑張る!折角皆で楽しめる機会なんだし…!」


うーん…高橋さん…気合い入ってるみたいだけど本当に大丈夫かなぁ…?


ひとまず、四人でそのまま集合場所であるキャンプ場近くの深い森の入口に向かう。


「よっしゃ、参加する奴全員集まったかー?」


普段は山菜採りなんかで足を運ぶ人が多いらしいこの森だが、わざわざこんな夜中にまでそれをしに来る人はまずいない。


だから当然道中に明かりなんて取り付けられている筈がない訳で。


今居るこの場所は宿舎から漏れる灯りで幾分か明るいながら、これから入る森は入り口から覗いても中の様子は全く見えない程暗い。


それを見てさっき以上に顔面蒼白になっている高橋さんが正直気の毒になってきた。


「高橋さん…本当に大丈夫?やっぱり俺が一緒に戻ろうか?」


あまりにも不憫になってそう声をかける。


「だ、大丈夫だよ!さっき頑張るって決めたもん!それに佐藤君は楽しみにしてたんだよね!?私の為だけにそんな事頼めないよ!」


うーん…気持ちはすごく嬉しいんだけどむちゃくちゃ震えながら言われてもなぁ…。


正直あんまり説得力ない…。


「まぁまぁ、静が大丈夫って言ってるんだし!」


ん?それにしてもなんだか今日の小池さんはヤケに強引だな…?


何か企んでなきゃ良いけど…。


まぁとりあえず高橋さん本人が頑張るって言ってるしなぁ…。


「…本当に無理そうなら言ってね?」


心配ではあるものの、そう提案するに留めておこう。


「うん、ありがとう。」


「それじゃ、ルールを説明するぞ!


男女二人ペアで、懐中電灯を持って森の奥にある祠に向かう。


祠に着いたらその前に置いてあるトランプを1枚持って戻ってくる、そんだけ!


組み合わせ決めたら地図配るから集まれよー!」


小林の簡単な説明が終わると、早速ペアを班内で決める事になったのだが…。


当然と言えば当然だがその中には一人例外がいる訳で…。


「小城と組みたい女子はくじ引けよー!」


橋本の先導で、高橋さん、小池さん、そして林田さん以外の女子が一斉に並んだ。


相変わらずすごい絵面だなぁ…。


「私は小林君が良いな…。」


そう言って照れくさそうにもじもじしながら何度も小林をチラ見するのは林田さん。


「何言ってんだよ、当然だろ?」


それにわざとらしく前歯を輝かせながらクールに答える小林。


「本当に!?嬉しい!」


「良いから早く始めろよ…。」


げんなり顔の橋本がツッコミを入れる。


まぁ…気持ちは分からんでもないが…。


あ、そう言えばこの人独身なんだっけ…。


だから余計に…か…。


「おい佐藤…それ以上言ったらどうなるか分かってるか?」


などと思っていると橋本がそう言いながら睨んできた。


「いや…別に何も言ってないっすけど…。」


「やかましい!言ってなくても顔を見れば分かるわ!」


何それ怖い。


いや…これはヤスと違って鋭いんじゃなくてただの被害妄想か…。


「俺だってなぁ…別に好きで一人身な訳じゃないんだぞ…。」


あ、いじけてる…。


うーん…これがまだ綺麗な女性教師とかなら可愛らしさもあったんだろうが…むさいオッサンだからなぁ…。


「大体三十過ぎたら結婚してなきゃおかしいみたいな風潮がそもそもおかしいんだよ…。


俺の友達だってしてない奴いっぱいいるし俺も昔はなぁ…。」


おう…なんか不憫になってきた…。


昔の話を持ち出してるせいで実年齢より老けて見えてくるぞ…。


とりあえずめんどくさくなりそうだしこのまま放置しよう…。


将来俺はこうはなるまい…。


「あ、おい!まだ話は…!」


「独身素晴らしいっす!間違ってないっす!」


「独身って言うな馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ!」


じゃあどう言えって言うんだよ…?


その後、未だに叫び続ける橋本とくじ引きで外れを引いた女子達の不満の叫びが飛び交ったのは言うまでもない。



「静、あんたは佐藤と組みなさい!」


居心地が悪くてソワソワしていると、摩耶ちゃんがそう言って声をかけてきた。


「え、あ…うん。」


班の中で組み合わせを決めるのなら自然にそうなるだろう。


前に助けてもらったけど…中川君はやっぱりなんだかちょっと怖いし…。


「せっかく二人きりになれるんだからさ、ちょっとでも近付きなさいよ?


いっその事手とか繋いだりとかさ。」


そんな事を考えていると、急に摩耶ちゃんがとんでもない事を言ってくる。


「ま、摩耶ちゃん!?違うってば!」


それに分かりやすく動揺してしまった。


ただでさえ薄暗くて視界が悪いのにそのせいで眼鏡までくもって大変な事になってしまう。


「相変わらず面白い反応!」


そんな私を見て摩耶ちゃんはまた大笑い。


「もぉ…からかわないでってば。」


眼鏡を拭きながらそう言うも、摩耶ちゃんは相変わらず笑っていた。


と、言う訳で私と佐藤君、摩耶ちゃんと中川君のペアになった。


「どうでも良いけどはぐれんなよ。」


「馬鹿にすんな!」


うーん…何となくだけど、摩耶ちゃんと中川君は良いコンビな気がする。


でも摩耶ちゃんにそれを言ったら怒られるんだろうなぁ…。


「高橋さん、宜しく!」


そんな事を思っていると、そう言って横に居た佐藤君が声をかけてくれる。


「あ、うん。」


それにしても…。


今からここに入るんだ…。


入る前からもう怖くて入り口でさえ直視できない。


嫌な汗が流れてきて気持ち悪い。


早くお風呂に入りたいなぁ…。


「高橋さん、もうすぐ俺らの番だよー。」


考え込んでいると佐藤君が声をかけてくれた。


「あ…うん。」


が、頑張らなきゃ。


………頑張れるかなぁ…?



くじ引きで決まった小城のペアがトップバッター。


見事当選した女子は歓喜の声を漏らしていたが、一斉に他の女子達からの羨望と嫉妬の眼差しを向けられていた。


おかげで見てるだけのこっちまで居心地の悪いスタートとなった訳だが…。


これって運が良いのか悪いのか…。


まぁ…本人が幸せそうだから良しとするか…。


その後は間隔を空けて一組ずつ順番に森に入っていく。


それから程無くして俺達の番になる。


「じゃ、行こうか。」


「う、うん。」


小さく返事を返し、俺の後ろを高橋さんがとぼとぼとついてくる。


と、そこで。


木陰から何かがガサガサと音をたてて飛び去る。


「キャー!」


「あ…コウモリ。」


まぁ流石にこれは偶然だろう…。


幾らなんでも用意してた訳じゃあるまいし…。


「いやー!!!」


そう思ってる間に更なる悲鳴。


「た、高橋さん落ち着いて!これただのボロ布だから!」


手作り感満載のボロ布お化けが木に吊り下げられていた。


「ギャー!」


「高橋さん、こんにゃくだよ!こんにゃく!」


今度は糸で吊るされたこんにゃくが顔に当たり高橋さん大絶叫。


「た、高橋さん、大丈夫?」


そのまま固まってしまった高橋さんに声をかける。


「ウン、ダイジョーブー。」


「うわ!?高橋さん!魂抜けかけてるよ!?」


既に心ここに在らずなご様子。


「うーん…どうしよう。」


困った。


とりあえずこのままじゃ普通に歩かせる事すらままならない。


無理にそのまま歩かせたりして、ひっくり返ったまま起き上がらなくったりしたらシャレにならないし…。


「高橋さん、しっかりして!」


とりあえず肩を掴んで揺さぶってみる。


「ワタシハダイジョウブダヨー。


アハハハ。」


うん…これ大丈夫じゃないよな…。


正直肝試しなんかより魂が抜けかけてる高橋さんを見てる方がよっぽどホラーなんだけど…。


こうなったら…。


全く力の入ってないその手をそっと掴む。


「あっ…。」


「高橋さん、早く終わらせよ!」


そのまま慌ただしくその手を引く。


「う、うん。」


なんとか意識が戻ったらしい。


とりあえず一安心、と思った所でふと気付く


ってあれ…?これって…。


咄嗟に思わず手を離す。


「さ、佐藤くん?」


「え、えっと…ごめん!これはその!!」


「え、あ…。」


必死の弁明で、ようやく高橋さんも自分の置かれている状況を理解したらしい。


徐々に顔が赤くなる。


「そ…その…嫌…だったよね?」


その反応を見て慌てて声をかける。


「そ、そんな事ない!」


そんな俺の反応を見て高橋さんも慌ててそう叫ぶ。


「え、あ、あぁ。」


そう否定され、思わず照れくささから上手く返事が返せなかった。


ヤバい、変に意識してしまった…。


「そ、その…もう大丈夫?」


とは言えそのまま黙ってる訳にもいかず、声をかける。


「ウン、ダイジョーブー。」


「全然大丈夫じゃない!」


また手を掴む。


駄目だ、落ち着け俺!これは仕方ないからだ!


何変な意識してんだよ!?相手は高橋さんだぞ!?落ち着け俺!


自分に強く言い聞かせる。


約束したじゃないか、もう代わりにしないって。


友達でいるって決めたじゃないか。


一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「よし、急ごう!」


「う、うん!」



あまりにも怖過ぎて、一瞬心が何処かに行っていた気がする。


その間は佐藤君が隣で何か言ってた気がしたのだが、適当な返事になってしまったかもしれない。


なんとか意識が戻ったのは佐藤君に手を掴まれた時。


なんだかそうして手を繋いでいると、さっきまであんなに怖かったのがちょっとだけ平気になってきた気がした。


照れくさそうに手を離した佐藤君。


嫌じゃないかと聞かれたけど、そう感じたから慌ててそんな事ないと返した。


その後また意識が飛んでたみたい。


気が付くとまた手を掴まれていた。


「あ、高橋さん。


祠があったよ!」


「あ、本当だ!」


良かった、これで終わる。


安心した反面、なんだか残念だと思ってる自分もいる。


もっとこうしていたい。


もっと一緒に居たいと思ってる自分が。


………は!?


ブンブンと首を振る。


「高橋さん?」


「ううん、なんでもない!」


「そ…そう?なら良いけど…。」


考えてみれば、二人で並んで歩くのは藤枝さんに呼び出される前の日以来な気がする。


メールは度々してたけど、最近は毎日摩耶ちゃんと帰るようになったからだ。


一緒に帰ってた時はこんな風に手を繋いで歩くなんて想像もしなかったなぁ…。


子供の頃に繋いだ恵美ちゃんの手とは違う、力強くて私よりも大きな手の感触と、そこから伝わるほのかなぬくもりが直に伝わってくるこの感じ。


なんだかドキドキする。


出口に着くと、それを見た摩耶ちゃんに思いっきりニヤニヤされた。


二人して真っ赤になる。


「うっわ、むっちゃ面白い事になってんじゃん。」


私達の反応を見ると、指さしてゲラゲラとお腹を抱えて笑い始めてしまう摩耶ちゃん。


「いや、違う、これは!」


「そ、そう、佐藤君は私が怖がるからって…!」


そんな私達を見て、摩耶ちゃんは更に大笑いし始める。


一方の中川君は佐藤君を見て頭を抱えながらため息を吐いている。


「も、もぉ…!摩耶ちゃん!酷いよ!笑わないでよぉ…!」


今も笑い続ける摩耶ちゃんに、必死に文句を言う。


「あはは、ごめんごめん!でも良かったじゃない。


手を繋いでもらって。」


「ま…摩耶ちゃん!からかわないでってば!」


お互い恥ずかしくなってすぐに離れたけれど、やっぱりまだそうしてたかった気がする。


ちょっと悔しいけど、摩耶ちゃんの言う通り良かったと思ってる気もする。


なんでかなぁ…?


「あ、えっと…。


あ!そうだ!


後で俺らの部屋においでよ。


ゲームしようぜ!」


眼鏡を拭きながらそんな事を考えていると、佐藤君が気まずそうに無理矢理話題を変える。


「お、良いわね。


お風呂入ってから行くわ。」


「う、うん…私も。」


「お、オッケー!じゃあまた後でー!」



「あ、ちなみに。」


ヤスが二人に聞こえないように小声で呟く。


「ん?」


「両方、なんて選択肢はないからな?」


「ぶふっ…!?」


唐突過ぎて思わず吹き出す。


「ほぉ?その反応からして一応自覚はあるみたいだな?」


こいつ…またカマかけてやがったのか!


「い…言われなくても分かってるよ!!」


「ふーん、なら良い。」


でも、言われて分からなくなる。


確かに高橋さんは可愛いし、さっきだって不覚にも自分からやっておいて変に意識してしまった。


結局本当に好きってなんなのだろう?


あの時から今まで、美波に感じていた物とはやっぱり違うのか?


もしかして今日高橋さんに感じた物が…?


「じゃあ佐藤君、また後でね!」


「え、あ、うん!」


駄目だ駄目だ!


さっき言い聞かせたばかりじゃないか…。


それにあいつの事だって別になんでもないし…。


頭がおかしくなりそうだ。


とりあえず俺も風呂に入って落ち着こう…。



宿舎のお風呂はそれなりに広い大浴場で、一クラスがまとまって入ると言う決まりになっていた。


今は私達のクラスの番。


初めて来る場所で不安もあったものの、眼鏡を外して慎重に中に入る。


少し視界がボヤけてはいるものの、摩耶ちゃんについて行ってなんとか洗い場まで辿り着き、身体や髪を洗う事が出来た。


「で、どうだったのよ?」


その後、ゆっくり浴槽に浸かっていると、隣に居た摩耶ちゃんが聞いてくる。


「え、えっと怖かった。」


「まぁ、それは見れば分かるわ…。


入る前からあんだけ怖がってたんだし…。」


素直に感じた事を言ったのだが、呆れられた。


「うぅ…だって…。」


「じゃあ、とりあえず質問を変える。


それでどう感じた?」


「え、どうって…。」


聞きながらすごくニヤニヤしてる摩耶ちゃん。


これは何か企んでる顔だ。


「怖かったんだけど…。


でもなんだか佐藤君と手を繋いでたらちょっとだけ勇気が出たと言うか…。」


「うっわ、狙い通りの反応。」


そのまま大爆笑。


「も、もぉ…恥ずかしかったんだから…。」


「ごめんごめん!でも良かったんじゃない?」


「うん…。


恥ずかしかったけど、なんだかもっとそうしてたいって思ってる自分がいるような気がして…。」


それが恥ずかしかったのは、こんな風に男子と手を繋いで歩くと言うのがそもそも初めてだからでその感覚に慣れてないからだ。


なのにもっとそうしていたいと無意識に思っていて。


その理由がよく分からず、そう思った事にまず驚いた。


だから勇気を出して相談したのだが。


「ブハッ!」


それを聞いて思いっきり吹き出す摩耶ちゃん。


もぉ…こっちは真面目に考えてるのに…。


「そう感じれただけでも、怖いのを我慢して参加した意味があったのかもね。」


「うん…?」


摩耶ちゃんが言ってる意味はよく分からなかった。


とは言え、モヤモヤは残ったものの、今日は本当に楽しかった。


こんな風にこれからも皆で沢山の思い出を作っていけたら良いなぁ。


「ところで…そう言う摩耶ちゃんはどうだったの?」


からかわれた仕返しに聞き返してみる。


「別に何もないわよ。」


それに摩耶ちゃんはあっさりと真顔で一言。


「え?」


思わず拍子抜けする。


「元々あんたらを二人きりにするのが目的だったし?何かを期待してあいつと組んだ訳じゃないし?」


あ、あっさりと目的を認めた。


むしろあっさり過ぎて今更怒る気にもなれない。


「うーん…でも何て言うか。


何もなさ過ぎて逆につまらなかったと言うか…。」


「あー…そんな気がする。」


終始必要最低限しか喋らない中川君と、その横をつまらなそうに歩く摩耶ちゃんの様子がなんとなく頭に浮かぶ。


「ま、あんたらのあの反応が見れたし良いわ。」


「もぉ…摩耶ちゃん…。」


こんな風に今頃佐藤君も中川君にいじられてるのかなぁ…。


「あ、今佐藤の事考えてるでしょ?」


「ひゅえっ!?」


ぼんやり考えていると、摩耶ちゃんが唐突にニヤニヤしながらそんな事を言って来た。


思わず変な声が出てしまう。


多分眼鏡をかけてたら今頃凄い事になってただろうなぁ…。


「あ、図星だ。


ぼーっとしてたからさ。」


「もぉ…。」


最近、気が付いたらこんな風に佐藤君の事を考えてる気がする。


その理由はよく分からないのだけど。


きっとすごく大事な友達だからなのかなぁ…?


その答えも、いつかちゃんと分かる日が来るのだろうか?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る