第一章《10》



「あぁー。」


高橋さんと公園で話した翌日の朝。


机に突っ伏して唸っていると、それを見たヤスにため息を吐かれた。


「高橋さんに言ったんだけどさ。」


「ふーん。」


「なんか気にしなくて良いって言われたんだけど、その後送るって言ったら断られちゃってちょっと気まずいって言う。」


「へぇ。」


全く…相変わらず興味なさそうに…。


「なぁ、どうしよう…?


俺嫌われたのかな…?」


「知らねぇよ…。」


勢い良く机から身を乗り出して聞くとめんどくさそうに言葉と手であしらわれた


「だよなぁ…。」


「本人が気にすんなって言ってんだからそれで良いだろうが。」


「でもよぉ…。」


「ったく…元よりなんのリスクもなしにどうにか出来るだなんて思ってなかっただろうが。」


「まぁ…確かにそうなんだけど。」


実際話す前からこうなる事が想像出来なかった訳じゃない。


もしかしたらもっと酷い状況もあったかもしれない。


でもそれを覚悟した上で話したのは確かだ。


まぁ…だからと言って目の前の結果にすぐ納得出来ると言う訳でもないからこうして思い悩んでいる訳で。


なのにヤスはそれが返事とばかりにわざとらしく今度は盛大にため息を吐いてきやがった。


「状況を変えるってのは難しいんだ。


それと同じで状況を維持する事だって難しい。


状況が長く続けば続くほどそれを当たり前だと思っちまうから余計にな。


人も環境もその都度変わっちまうからやれるだけやって、それでも駄目なんなら一つずつゆっくりでも真摯に受け入れてくしかねぇだろ。


それが受け入れたくねぇもんでも、な。」


「ヤス…。」


俺は知ってる。


ヤスはそうやって受け入れたくない現実を受け入れてきたのだと。


だからこうして大人びて見えてる事も。


本当は辛いのに弱音を吐かないのも、不満一つ言わないのも、きっと自分の中で全部抱え込んでいるからなんだろうなぁ。


「…気色悪い目で見んなよな。」


「べ、別にそんなんじゃないって!」


こうして友達でいる事で、ちょっとでも助けになれてんのかなぁ…。



「佐藤君、おはよう。」


先に来ていた佐藤君にそう言って声をかけると、佐藤君は大袈裟なくらいに肩を震わせた。


急に声をかけたのは確かだけど驚かせるつもりはなかったんだけどなぁ…。


まぁ私も今でこそ段々慣れてきたものの、唐突に声をかけられたら変な声出しちゃうし人の事は全然言えない訳だけど…。


「あ、お…おはよう!


その…昨日はごめんね、変な事言って。」


そんな事を思っていたら慌てて昨日の事を謝ってきた。


「ううん、気にしないで。


あ、でも代わりって言うのは嫌かな。」


「あ、うん…。


そうだよね。」


「佐藤君には感謝してるし、ちょっとでも役に立てるなら力になりたいとは思うけど…。


でもやっぱり私は私だから。」


「本当そうだよね。


ごめん、ありがとう。」


「うん。」


「じゃあ俺達はこれからも友達だ。」


「うん、そうだね。」


これで良い。


私達は普通に友達でいた方が良い。


昨日の夜、自分なりに考えてみたのだ。


確かに役に立ちたいと言う気持ちはあるけど、私には元カノさんの代わりなんて出来ない。


だからこうして友達として関わっていく中で何か力になれる事があれば力になろうと決めたのだ。


ひとまず今日はもう一つしなくちゃいけない事がある。


「ごめんね、私ちょっと行く所があるから。」


「あ、うん。」


佐藤君に一声かけてから荷物を置き、早速藤枝さんを誘いに行く事にした。


出来るだけ早い方が良いから、誘えるなら今日にでも誘っておくようにと恵美ちゃんに言われたのだ。


その為に廊下に出ようとすると、教室のドア近くで摩耶ちゃんとすれ違う。


「おはよ。」


軽く手を上げて挨拶してくれる。


「あ、おはよ。


昨日ね、電話で話したら恵美ちゃんも会ってみたいって言ってたよ。」


「へ…へぇ、そ…そう。」


顔を赤くして分かりやすく嬉しそうにしてる。


「その…楽しみにしとく。


え、じゃあさ、もしその人が良いなら今日行く?」


「あ…うん、そうだね。


ごめん、ちょっと行く所があるから詳しい話は後でね。」


「そ、じゃあ後で。」


とりあえず元々誘うつもりだったし、今日集まれば良いよね。


そのまま摩耶ちゃんと別れ、隣の三組のクラスに向かう。


すると、ドア越しに友達と話している藤枝さんの姿が見えた。


私に気付いたらしく、廊下に出てくる。


「…どうしたの?何かあった?」


「あ、えっと…私の幼馴染の恵美ちゃんが会いたいって言ってて。


放課後どうかな?」


「あー…うん分かった。」


そして放課後の帰り道。


店の前で恵美ちゃんと合流してから、私と摩耶ちゃんと藤枝さんは前に来たパンケーキのカフェに来ていた。


合流して早々に藤枝さんを睨みつける恵美ちゃん。


それに対して特に何も言わない藤枝さん。


「それで?どう言う事なのかしら?」


それぞれが席に着くと、早々に恵美ちゃんの尋問が始まった。


「ちょっと静…。


さっきから何よこれ…。


修羅場…?私邪魔だったやつ?」


摩耶ちゃんがそれを見て居心地悪そうに小声で聞いてきた。


今はそれぞれが窓際の四人がけ席に着き、恵美ちゃん、藤枝さんが奥で対面になる形で、通路側に私、摩耶ちゃんが対面になる形に座っている。


摩耶ちゃんも雰囲気自体は最初から気付いていたみたいだけど、席に着いて流石に耐えられなくなったらしい。


「いや…そんな事ないよ。」


巻き込んでしまって申し訳ないなとは思うけど、多分私一人だったらこの雰囲気にはとても耐えられなかった。


「経緯は大体静から聞いたけど、とりあえず詳しい事情を聞かせてもらわないと。」


一度ため息を吐くと、恵美ちゃんはそう言って切り出す。


「…分かった。」


一方の藤枝さんはこうなる事が分かっていたのだろう。


毅然とした態度でそう頷いた。


「佐藤の元カノが私の友達ってのは聞いた?」


そのままどこか諦めたような表情でそう話し始める。


「聞いた、それで?」


「その子、多分まだ本当は佐藤の事が好きなのよ。」


「は?何それ?」


拍子抜けした表情の恵美ちゃん。


「え、確か佐藤君ってその元カノさんにフラれてるんだよね…?」


それには流石に私も気になって口を挟む。


「いや…なんて言うか…そのフッたって言うのもさ、別に嫌いになったからとかじゃなくて…。


お互いの為に遠慮しただけ…と言うか。」


言葉を選んでいるのだろう、時折考え込む仕草を見せながらゆっくりと語っていく。


「どういう事?」


「二人共一年の時はさ、同じクラスだったしいつも一緒だったんだけど…。


二年になってクラスが変わってからだんだん一緒の時

間が減って、すれ違っていったの。


佐藤もクラスが変わる前からだけど新しい友達が出来始めたからそっちを優先する事が増えてさ。


毎日してたメールのやり取りもなくなったり、弁当を一緒に食べなくなったり、一緒に帰らなくなったり。


その子がその変化の積み重ねに耐えられなくなったの。


このまま忘れられて自然に終わるぐらいなら私が我慢すれば良いんだって。」


そう言う表情は沈痛な物だった。


本当にその友達の事を大事に思ってるんだなと思う。


「それは佐藤が悪い!」


と、ここで横からフォークを向けながらそう口を挟んだのは今まで黙って聞いていた摩耶ちゃんだ。


「そもそもその元カノってどんな人なの?」


一方の恵美ちゃんはアイスココアを飲みながら、落ち着いてそう問いかける。


多分事情が分かって幾分か藤枝さんに対する疑念が和らいだのだろう。


「本当に優しくて良い子だよ。


ほら、私ってさ目付き悪いし…口も悪いから周りに感じ悪い人って思われてるみたいでさ。」


「「うん」」


それに恵美ちゃんと摩耶ちゃんが真顔で同時に頷く。


「えっと…うん。」


それに私もおずおずと頷く。


「いや…自覚はしてるし最初の印象が悪かったから仕方ないんだけど…。


同時に頷かれると流石に傷付くわ…。」


「あ、ごめん…。」


申し訳ないとは思うけどこの場で嘘は吐かない方が良いと思ったのだ。


「それで?」


一方の恵美ちゃんは特に悪びれる様子も無く続きを急かす。


「あーいや…。


だから中学の時さ、私の周りには誰も寄り付かなかった訳。


だから私もそれならそれで良いやって思ってたんだけどさ、でも美波だけは唯一そんな私に話しかけてくれたの。


席が美波の隣りだった時にさ、授業中に筆箱を忘れた日があったんだけど…。


でもこんな状態だったから

自分から周りに話しかけて借りるって気にもならないしさ…。


それでどうしようか困ってた訳。


そしたらあの子、それに気付いたみたいでさ。


「あ、あの、ペン無いん?


これ、良かったら使う?」


そう声をかけてくれたんだ。


すごく嬉しかった。


些細な気遣いではあるけどその気持ちが本当に嬉しかった。


美波とはさ、それをきっかけに話すようになったんだ。


まぁ最初はやっぱ怖くて話しかけづらいと思ってたみたいだけどさ…今ではそれも笑い話に出来るくらいには仲良くなれたかなって思うよ。


それで今に至るって感じ。」


「ふーん、その話を聞く限りでは良い人そうね。」


とりあえず恵美ちゃんは話を聞いて納得したようだ。


「とりあえずその子がどんな子で、どんな状況で今に至ったのかは分かった。


でもさ、状況だけで言えば話し合いでどうにかなりそうな気もするけど。」


「いや…元々話し合おうとして呼び出しはしたみたいなんだけど…それで喧嘩になったみたいで…。」


「うわ、何それ最悪。」


「で、別れようって言ったらせいせいするって言われたんだって。」


「なるほどね…。」


頭を抱え、ため息を吐く恵美ちゃん。


「それは佐藤が悪い。」


そこに摩耶ちゃんも再びそう口を挟み、満場一致。


今すぐにでもその殺伐とした雰囲気で佐藤君に詰め寄りに行きそうな勢いだ。


「いや、でも佐藤君にも何か事情があったんじゃないかなぁ…?」


ここまでくると流石に佐藤君が可哀想になり、おずおずと口を挟む。


「「は?」」


それを聞いた恵美ちゃんと摩耶ちゃんに同時に睨まれた。


「ふ…二人とも目が怖い…。」


「静!この話を聞いてもあんたまだ佐藤の味方すんの!?」


と、まず摩耶ちゃんが机を叩いて身を乗り出してくる。


「あんたをその元カノの代わりとか言ってた奴だよ!?」


隣に座る恵美ちゃんは、言いながら私の肩を揺さぶる。


「い…いや、でも…佐藤君は大事な友達だから…。」


そう言うと、恵美ちゃんは私から手を離した。


そのまま頭を抱えて思いっきりため息を吐く。


「ご、ごめん…ね。」


「静、私はね。


あんたから電話で新しい友達が出来たって聞いた時には安心したんだよ。


最初は学校が別々になるし、一人で大丈夫かなぁ…って思ってたけど…。


なんだ、上手くやれてるじゃんって。」


「う…うん。」


「でもそうは言ってもさ…。


やっぱり心配なのよ…あんたの事が。


もしまたいじめられてたり、変な奴らに絡まれてたりとかしたらどうしようとか思うの!」


そう言う表情は真剣その物で、悲痛とさえ思えた。


「うっ…うん…ありがとう。」


「何よ、良い幼馴染がいるじゃない。」


そんな私達を見て、摩耶ちゃんはなんだかちょっと拗ねていた。


「でも、佐藤君はそんなに悪い人じゃないような気がするの。」


恵美ちゃんが心配してくれるのは素直に嬉しい。


でも私にとってはやっぱり佐藤君だって大事な友達の一人だから。


やっぱり友達としてちゃんと信じたいと思う。


だからいくら大事に思ってる恵美ちゃんに言われてもそれは譲れない。


そう思って言ったのだが、またため息を吐かれた。


「相変わらず甘いんだから。


だから心配になるの!」


「ご、ごめんね。」


「良いよ、あんたがそう言う子だってよく知ってるし。


一度言い出したら聞かない事もね。」


「う、うん。」


「でもこれだけは約束してよね。」


「え?」


「次に何かあったら必ずすぐに連絡する事!


昨日みたいに終わった後になってやっと教える、なんて事があったら今度は絶対に許さないから!


分かった!?」


「う、うん。」


やっぱり恵美ちゃんには敵わないなぁ…。


この日改めて思った。



翌日の学校。


俺は今、どう言う訳か小池さんから冷たい眼差しで睨まれていた。


「あ、あのさ、そのゴミを見るような目…どうにかならない…?」


「ならない。」


あっさりと即答される。


「あ、そう…。


えっと…その、俺なんかしたっけ?」


「自分の胸に聞いてみたら?」


うーん…こないだ邪険にしたからかなぁ…。


言われてもそれぐらいしか思い浮かばない。


そもそも小池さんとはそんなに関わる事無いしなぁ。


「まぁ…それもいくないけどね。」


「え!?」


頭であれこれ考えていると、急に思ってる事を言い当てられた。


「声に出てるから。」


「お、おう。」


じゃあなんだ?本気で分からない。


そんな風に悩む俺を見て、小池さんは深くため息を吐いた。


「あんたがもっと相手の事を大事にしてたらこんな事にはならなかったんじゃないの?」


「え、何でそれを?」


「聞いたのよ、全部。」


聞いた…?


俺が知らない間に一体何が起こっているのだろうか?


でも実際小池さんが言ってる事は間違ってない。


こうなってしまったのは自分がちゃんと彼女を大切に出来なかったからに他ならない。


「うん、確かにそうかもしれないな…。」


だからそう素直に認めるしかなかった。


「ふん。」


そんな俺を見て、小池さんは不満そうにそっぽを向いた。


「おい、小池。


ちょっと良いか?」


と、ここで前の席で話を聞いていたヤスが唐突に小池さんを目で廊下に促す。


「何よ?言いたい事があるならここで言えば良いじゃない。」


「良いから来いよ、すぐ終わるから。」


「…分かったわよ。」


渋々小池さんはヤスについて教室を出ていく。



人目を気にしてか、結局そのまま中川に屋上まで連れ出された。


「それで?私に何の用よ?


さっさと本題に入ってよね。」


こうしてついてきたのは乗り気でじゃない。


面倒だし早く終わらせたかったから精一杯の不快感をぶつけてやった。


「元より無駄話をする為に呼んだんじゃねぇよ。


誰から聞いた?」


だと言うのにこいつは苛立ち返すどころかめんどくさそうにそう返してくる。


「なっ…!だ、誰だって良いでしょ!?」


「とは言えまぁ…聞いといてなんだが大体の見当は付いてるがな。


どうせ藤枝だろ?」


「っ…そ、そうよ!悪い!?」


「藤枝がどう言う思いでお前にその話したのかは知らねぇけどよ。


これは第三者の俺らが安易に口出しするような問題じゃねぇだろうが。」


「でも!悪いのはあいつじゃない!」


中川が言ってる事が間違いだとは思わない。


でも言われてばかりじゃ気に入らなくて反論する。


「まぁ確かにあいつが悪いのかもしれねぇな。」


「わ…分かってんじゃない。」


それに思いの外あっさりと同意され、拍子抜けしてしまう。


「でもそれはあいつが自分自身で気付くべき事だろ?」


「っ…!」


「あいつは今あいつなりに答えを探してるんだ。


自分の気持ちにも、元カノとの関係にも。


だから無理に理解しろとも仲良くしろとも言わねぇ。


今は大人しく見守っててやってくんねぇか?」


「何それ…?意味分かんない。


なんであんたそんなにあいつの肩が持てるのよ…?」


意味が分からなかった。


明らかにあいつが悪いのに、だから悪いとはっきり口に出さずに庇っているこいつの気持ちが。


「なんでだろうな。


あいつはあほだし、女々しいし、気持ち悪い事をさらっと言うからめんどくさい奴だなとは常に思ってるが。」


「あ、あんた本当にあいつの肩を持ってるの…?」


と思ったら先に批判していたこっちが不憫に思うくらいズバズバ本音を言ってる…。


「ただ…どうにもほっとけねぇんだ。


俺はあいつを。」


「意味分かんない…。


そんなにめんどくさいなら見放せば良いのに。」


「そうかもな。


でもよ、誰かの面倒を見るってのは必ずしもその誰かの為にする事だとは限らねぇんだぜ?


気が付けばそれが自分の為になってるって時だってあるんだよ。」


「ますます意味分かんないから…。」


「あんなのでも一応は幼馴染だからな。


どんな奴かってのは今までお前らよりもこれまでずっと見てきた。


だからあいつはいつか必ずあいつなりの答えを出す。


俺はそう思ってんだよ。」


「何よ、幼馴染なんて…。」


「だから頼むわ。」


それだけ言うと本当に無駄話するつもりはなかったらしく、さっさと背を向けていってしまう。


取り残された私は、一人呟いていた。


「良いなぁ…。」



放課後の帰り道。


この日も摩耶ちゃんと二人で帰り道を歩いている。


「へぇ、そんな事があったんだ。」


その間に、今日あった事を摩耶ちゃんは私に話してくれた。


「中川君って同い年なのにすごく大人びてるよね。」


「…そうね。」


どうしたんだろう?


なんだか、いつもより元気がない気がする。


「大丈夫?何かあった?」


心配になって声をかけると、摩耶ちゃんは何処か寂しそうに俯く。


「私さ…小、中と学校で浮いてたんだ。


中学では小学生みたいだって馬鹿にされていじめられてた。」


「そうだったんだ…。」


実際、私もいじめられた事はある。


だからそれがいかに辛く苦しいかは分かってるつもりだ。


「だからさ…ちょっと羨ましかったのよ。


あんたにも佐藤にも、自分の事を理解して心配したり支えてくれたりする幼馴染がいるんだなって。


私にはそう言うのいなかったから。」


言われて辛くなった。


彼女はそれに一人で耐えてきたのだ。


理不尽に否定され、仲間外れにされ。


無視され、笑われ、馬鹿にされ。


そのせいで自信がなくなり、どうして生きてるのかでさえ分からなくなって。


そんな時に一人でも自分に味方をしてくれる人がいたらどんなに頼もしく感じるかを私は知ってる。


実際私も、そんな時に恵美ちゃんと言う幼なじみがいてくれなかったら今どうなっていたのか分からないし、改めて今こうして考えてみただけでゾッとする。


なら、その話を聞いて私がするべき事は一つ だ。


「…ねぇ、摩耶ちゃん。」


頼りないかもしれない。


嫌がられるかもしれない。


「何…?」


「摩耶ちゃんには私がいるよ。」


でも、そんな存在になってあげたいと思った。


「は?何それ…?」


「あ、幼馴染ではないんだけどね。」


「意味分かんない…。」


「佐藤君と中川君みたいに理解し合ってる関係ではないかもしれないけど、摩耶ちゃんは私にとって大事な友達だよ。


だからいつかはそんな風になれたら良いなって思うもん。」


「なっ…何言ってんのよ…!?」


そう問いかける顔を覗くと、分かりやすく赤くなっているのが分かった。


「あ、ごめん…嫌だったかな?」


「べ、別にそんな事言ってない!」


顔を見られて恥ずかしそうにそっぽを向く。


「…あり…がとう。」


「え?」


「なんでもない!置いてくわよ!?」


「あ、待ってよ!」


私は知ってる。


照れ屋で素直になれないところもあるけれど、ちゃんと嬉しい時には嬉しそうにしてくれる摩耶ちゃんを。


まだまだ数日間の付き合いだけど、これからもっと仲良くなっていけたら良いなぁ。

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