第31話 朝焼けの卒業生

 朝食にはまだ朝早い早朝、下宿先の庭で素振りを行いながら、その様子をゲンガンに見てもらっている。ビキンのダンジョンの波で冒険者体験は終了したが、いつ何時戦う必要に迫られるかは分からないため日頃から行っているのだ。

 その体を動かす訓練は夕食前後にも行っており、すっかり日課になっているが、剣を振ったり槍を振ったり、棒を振ったりとその時に何を使うことが出来るのかは分からないため好き勝手気分で変えているから、果たして技量は上達しているのだろうか。

 サブダンジョンのコア破壊のおこぼれでステータス上の体力は上昇しているため、総金属製の鎧を着ても火事場の馬鹿力を発揮しないでも戦えそうではあるが、魔法学校のよくわからない授業に対して体を動かすのがストレス発散となっている。


「ゲンガンさんは王都の失踪事件について、聞いたことがありますか?」


「まぁ、顔を出している道場周りでは無いらしいが、兵士とか冒険者にも出ているらしいぜ」


 失踪事件の犯人がいるのか知らないが、自分たちには一応専属受付嬢の護衛がいるため心配はないと思う。でも、もしかしたら彼女が護衛の一環で敵対者を失踪させているのだろうか。よく分からないな。


「そう言えば、ゲンガンさん」


「なんだ?」


「この街の歓楽街とかのこと、詳しかったりしますか?」


「王都は初めてだから詳しくはねぇな。それに、体がこれだからな」


「…ごめんなさい、配慮が足りなかったです」


 気にすんなよ、と言ってくれるが性欲があってもゴブリンを相手にしようとする、夜の女性はいないだろうと考えが足りなかった。姿を偽っていても、相手に魔法師としての素養があればいらぬ騒ぎを生むところであった。

 兄さんもそっちの方が気になりますか、と逆に気を遣わせるのを申し訳ないと思いつつ、専属受付嬢にそういった質問をするのはセクハラになるだろうし、誰かいないだろうか。



 目ぼしい相手を考えつつ、今日も魔法師学校の授業で講義室に訪れる。カルミア嬢とは離れて席で、それぞれが距離を置いた別々の席に座るすっかりぎくしゃくした関係の4人組を見つける。以前は、魔法師学校に慣れていない頃のカルミア嬢を、授業に案内出来ていたようだが、彼女は西の地方貴族の出らしいため、すぐに派閥内の上の地位の人間や取り巻きの女性徒に囲まれて近づけなくなってしまっているようだ。

 マーディンたちの派閥内の地位やスクールカーストの位置からこれが自然なことだと思うが、すっかり麗しの君にご執心なようで授業も手につかなかったり、彼女の心を射止めようと同じグループ内ですらライバル関係が継続している。


 家名持ちの身分違いの相手に対してと思うが、少年たちにとってはもしかしたら初恋の相手なのかもしれない。まるで物語に登場するお姫様のような深窓の令嬢は、彼らにとってはイカロスの太陽なのかもしれないが、惹かれて近づこうとするのは止められない理性ではどうしもないのだろう。

 そうして、関係性の悪くなったグループではあるが、個人間との付き合いは特に変わりがなく良好である。だが、ノートを写すのをマーディンからしか求められなくなり、彼もグループ内に転写は行わなくなっている。


 そんな彼らからは、個人ごとに相談を受けていたりする。マーディンからは、彼女はどんな男が好きだろうか、と聞かれたことがある。家同士の付き合いのある、眼鏡をかけていない美男の貴公子が婚約者にいるんじゃないかと思ったが、寝癖の無い身だしなみをきちんとした相手じゃないかと優しさを出して伝える。

 そして、背ばかりが高いスタインからは、叶わない恋ではあるがせめて自分は彼女の騎士になりたいと相談を受ける。一応騎士男爵家の出だから現実を知っているのだろうが、諦めたはずの騎士を目指そうとする程、彼はカルミア嬢に夢中になっていた。彼女は魔法学校にいるため、それとなく魔法師として助けになれるように腕を磨いて準備しておけばいいんじゃないかと伝える。

 さらに、太ったポッシュからは彼女のことを考えると、食事もそれほど喉を通らなくなり、ぼくは今まで食べ物ばかり考えていたのに頭の中が彼女でいっぱいで、どうしたらいいのかと聞かれる。彼は甘やかされて育ち、大抵のことは不自由せずに我儘を叶えてもらっただろうから、正論を伝えるのは厳しいと思う。そのため、彼に対しては、キミにも食べ物の好き嫌いがあるように、彼女にも物事の好きなことと嫌いなことがあるだろうから、まずは彼女のことを知ってから少しずつ自分のことも知ってもらうようにすればいいんじゃないかと伝える。

 また、背の低い幼い女の子に見えるビビからは、おいらは母親が早くに死んでいて顔も知らないはずだけれど、彼女がまるで母親のように感じてしまってどうしたらいいですか、と相談される。彼には、彼女が今までに会ったことがない程の魅力的な女性であり、その包容力を感じさせる魅力に母親を感じても仕方がないと伝え、まずはその感情を己でも理解して今後彼女とどう接したいのか考えるべきだと助言する。



 失恋の可能性が高いのを静観するつもりだったが、彼らが今後どうするか分からないけれど、この恋が叶わないのならば心中してやるとか将来的にストーカになったり、マザーコンプレックスの可能性を感じさせる気質があるため、どうにかそうなる前に止めたいと思う。4人組の少年たちは、それぞれ生きるのが精一杯で魔法師としての成功しか夢見ていなかったはずだが、それを変えさせるカルミア嬢の魅力という天然の魅了魔法にやられてしまったのだろうか。

 自分は日本にいた頃から、もっと言えば学生時代から余計な話をするタイプではなかったし、交友関係も限られていたからか相談ごとをされるのは少なくなかった。結局解決方法を提示出来ないし、相手が話してスッキリすればいいのではないかと思う。少年たちについては、失敗が大事になりそうでなんとかしてやりたいが、恋は反対されると余計に燃え上がるものだし、失恋するまで納得できないかもしれないと若者の恋について考える。


 それにしても、こう男子学生のグループの間に入るのは懐かしい気もする。共通の学友同士が喧嘩をしたり、諍いがあって関係がぎくしゃくした時に、間に入っている人間は個人ごとには変わらない付き合いをしているためこちらも気まずいことを思い出す。

 あの時は、学食の机で昼食を男子学生のグループで採っている時に、納豆の食べ方で険悪な空気になったのを思い出す。ある学生の家庭では、納豆をかけたご飯を混ぜて食べると言い、それを聞いていた1人が納豆はご飯の上に乗せた状態でそのまま食べるだろうと絶対に許容出来ないことであり得ないと否定したのだ。その場にいた自身は、食べ物のことくらいで喧嘩になるなよと思いつつも、カレーライスをルウがご飯にかかったままの状態で食べる人もいればカレーピラフのようにして食べる人もいるが、個人の嗜好の問題で互いに強要しなければいいじゃないかと必死になだめた覚えがある。

 そんなことを思い出すと、少年たちは派閥内でも唯一の理解者同士で協力し合える関係なはずなので、どうにか復縁して欲しいと考える。



「いらっしゃい」


「どうも」


 今日の授業終わりは、以前に男子グループと利用した場末の酒場を1人で訪れる。今にも崩れそうな年季の入った壁に、歩くたびに軋む床が年代を感じさせる。目の前の店主は、騎士を目指して騎士学校を受験するが入学が叶わず、代わりに兵士学校に入学するが訓練の厳しさについていけなかった。結局、最後に魔法師学校に入るが種火をつける程度の魔法しか使えず、そこで自主的に卒業したようだ。

 それは、魔法師学校には厳密には卒業も退学も無いのである。魔法師ギルドが運営する学校には授業料は存在せず、派閥内や流派で必修の条件を満たせれなかったものが退学や放逐の扱いを受けることがあるらしいが、もう学ぶべきことが無かったり実践を優先したりする場合は自主的に卒業とするようだ。

 目の前の店主の場合は、種火の魔法しか素養が無く、学校で勉強を続けても無駄と知ったため種火の魔法でも稼げる仕事を行い、金を貯めて学生向けの酒場を開いたようだ。


「マスターさん、今お話しする時間がありますか?」


「どうしたよ」


「実は…」


 そうして、彼に王都の歓楽街について質問をしてみる。彼からは、王都の東に公営の歓楽街が存在し、それぞれの店は商業ギルドと冒険者ギルド、ブル教なんかが出資しているのがおすすめらしい。歓楽街には個人で客引きをしているような奴もいるが、病気をもらったり身包みを剥がされる可能性もあるため、料金が安くとも遊ぶべきではないと教えられる。

 なるほど、金を稼ぐ商売だから商業ギルドは分かるし、冒険者ギルドも戦えなくなった冒険者の第二の就職先の候補としてあるのだろう。ブル教は単純に金稼ぎのためだろうが、回復の魔法が病気周りの衛生管理面で役立つので理に適っていると思う。

 目の前の中年のコック帽を被ったマスターに礼を言って、酒場を後にする。彼は丸ごと揚げた芋の中まで火を通すように、火加減だとかにはこだわっているようで、料理人兼任としてもプライドがあるのだろう。チップ代わりに銀貨を1枚置いて、酒場の火ネズミの吐息を後にする。


 次の日、個人的には寄りたくなかった王都ブル教の本部教会に顔を出す。王都は正直広すぎて、歩いて中央にある魔法師学校から王都の端の門に行こうとしても、1日で辿り着けるか分からない。そんな広すぎる王都内では、魔法師なら無料の巡回馬車がかなりの数稼働しており、土地勘が無くとも移動は何とかなっている。流石全てのギルドの中で一番古い魔法師ギルドの力かと思うが、個人的には本部ギルド長の力のおかげかもしれないとも考える。

 そうして初めて訪れたブル教の本部教会で、寄付の希望を申し出ると最初は中間管理職らしき人が対応してくれていたが、すぐに大主教が話を聞いてくれる。こちらの希望が通るようで、調整もいるが3日後から1週間以内には場を整えてくれるようだ。今後の付き合いもよろしくお願いします、と彼らとは分かりやすく金だけの付き合いなのでやりやすい。





 そして3日後、1週間以内とは言いつつ最速で場を整えてくれたようで、ブル教からの連絡を魔道具から知らせを受け取る。よし、今日決行しようと決め、個別にマーディンたちのグループの男子学生を呼び出すことにしよう。




「えー、今日は急な呼び出しにも関わらず、集まってもらえて嬉しいです」


「…おっちゃん、何の用だよ?」


 仲良くしていたグループのはずなのに、いつの間にか気まずくなっていた男子学生たちが同じテーブルの席についている。以前の飲み会とは違って、場末の酒場の火ネズミの吐息の酒と料理はテーブルに用意されていない。料理を頼んでいても、あの食い意地の張ったポッシュですら手を付けないだろうし、ここで話し合ったら移動をするので場所代だけ払っている。


「キミたちに言いたいことがあります」


「…それは、何だよ?」


「薄々分かっているんじゃあ、ないでしょうか?」


「……………」


 グループのリーダーらしくマーディンが会話を行っていたが、ここに来て4人全員が沈黙してしまっている。だが、こちらも長いこと若者たちの惚れた腫れたに付き合ってられないと、決して若さへの嫉妬ではない時間の限られた者が日々の生活に集中したいと思ってこの場を設けたのだ。


「キミたちは身分違いのカルミア嬢への叶わない恋に揃って夢中で、魔法師としての勉強にも手が付かなくなっている」


「叶わないとは限らないだろう!!」


「彼女は家名持ちの地方貴族で、キミらは現時点で彼女に釣り合う人間か?」


 それに、キミは故郷の村に恩返しするのが目的だったのではと伝えるとマーディンは黙り、代わりにスタインが発言する。


「秘めた想いを持つことすら駄目なのか?」


「派閥内の限られた仲間同士のはずの4人でいがみ合っていたら、もう秘めては無いと思いますよ」


 仲間を蹴落としまで自分に近づこうする相手に、姫は騎士道を感じますかと伝えるとスタインは力なく、椅子に座る。


「でも…ぼくは…」


「物語の姫様の隣には王子様が立ち、2人は末永く幸せに暮らします」


 あなたは魅力的な相手に対して、己を相手の理想の王子様に出来ますかと伝えると、容姿をはじめとした欠点の自覚があるのだろうポッシュは黙った。


「何よりも、彼女のような立場だと婚約者がいてもおかしくはないでしょう」


「…………」


 グループの中で最も幼く見えるが、聡いビビは理解出来るのだろうずっと黙ったままだ。だが、全員が気付いているであろうことをあえて伝える。さらに、例え彼女が婚約を破棄してでも添い遂げたいと家の反対を押し切った場合、生まれて来る子どもは親の愛の都合で生活は大変です、と追撃を述べる。


「キミたちも、家の庇護を受けられないのは大変だと知っているでしょう」


「…………」


 そろそろ周囲のテーブルからもあそこのお通夜な雰囲気はどうしたんだと見られながらも、若者たちの人間関係に巻き込まれてストレスを感じていたのか、好き勝手言ってしまっている。

 何よりも、このおっさんは所帯を持ったことが無いのに、大して人に説教する程の恋愛の機微も分かっていないのに言いたい放題している。そんな自身に自らも冷静になるように手を打ち合わせて、間を作る。


「だが、そんなキミたちにも機会がある。喜べ少年たちよ、朗報だ」


「…………」


 今度は、困惑で沈黙になっているマーディンのグループを見つつ、告げる。キミたちはこれまで魅力的な女性と接する機会が無かったため、その経験の少なさから慣れていないことに戸惑っているのだ、と伝える。まだ理解出来ていないだろう、彼らに述べる。




「歓楽街の店を予約してある。何事も経験だ、金なら心配しないでくれ」


「「「「ヒュー!!」」」」


「…俺は、彼女以外とは…」


 マーディン以外もカルミア嬢に操を立てているようだが、いざその時に経験が無いと女性をリード出来ないぞと彼女に恥をかかせるのかと言い聞かせ、全員に席を立たせる。すっかり聞き耳を立てられていた周囲の学生だと思われる若者たちからもからかわれるが、大半の客はうらやましそうにこちらを見ていた。




「ちょ、おっちゃん大丈夫なのかよ?」


「支払いは大丈夫だから安心して欲しい」


 煌びやかな光と騒がしい周囲の喧騒に包まれた場所で巡回馬車を降りると、目的地は王都の東にある歓楽街でも一等地にあるようで、初めて訪れる店でも迷いは無かった。4人組は口では心配事を言ったり、やっぱりやめようよと引き返すことを言うが、目線は街中に立っている露出度の高い女性に向かっているのは丸わかりだ。

 そんな御一考を引き連れて訪れたのは、外観から豪華な店だった。漆塗りのように上品な照りのある木材で建てられた一見すると宿のような大きな建物だ。明らかな高級店に心配している4人組と一緒に店内に入る。


「いらっしゃいませ」


「予約の者だけど…」


 街中で見かける客引きの黒服とは異なり、貴族の家で執事をしてそうな上品な老紳士に挨拶をされる。金の心配はいらないが自身でも場違いな空気の為落ち着かないが、慣れていない男子グループを連れている手前堂々とした態度を取らないといけない。


「…本当に大丈夫なのかよ?」


「安心して任せておきなさい」


 周りの客も各ギルドの役職持ちのような金持ち空間の雰囲気の中、声を潜めるようにマーディンが聞いてくる。全ての場の準備は整っているので安心して欲しい。待合室でそのまま体が沈み込んで吸い込まれてしまいそうなソファに座って、部屋の準備が整うまで彼らに付き添い、やがて各自が黒服に連れられてそれぞれに用意された部屋に連れられて行くのを見送る。





「…俺、他に好きな人がいるから…」


「待ってください」


 個別に風呂も備え付けられた場違いな部屋に案内されたマーディンは、広いベッドの隅に座って落ち着かずに過ごしていた。長く感じる時間を待っていると、部屋を訪れたのは桃色の髪の毛の赤い目をした若い女性であった。好きな相手を連想するような女性に、でものこの人は髪の毛が癖のない真っすぐだし、可愛らしい顔立ちであるがカルミア嬢ではない。

 そう思って部屋を出ようと立ち上がるが、背中から抱きしめられて引き止められる体の柔らかさに、女性の腕を振りほどけるはずなのにその柔らかさを意識すると動けなくなってしまう…





「自分には心に決めた人がいるので、失礼する!!」


「えー、でもこっちはそうじゃないみたいですよ」


 スタインは、隣に座って坊主頭を撫でるカルミア嬢よりも短い桃色の髪の毛と赤い目をした若い女性を振り払うように、立ち上がって宣言する。不思議な匂いの香が舞う部屋でベッドに隣同士に座っていたが、立ち上がった際に体の一部を彼女に撫でられると力が抜けるようにそのまま腰掛けてしまい、立ち上がれなくなってしまう…





「ぼ、ぼくはやっぱり帰りたい!!」


「そんなー。私もお仕事なんで困りますよ」


 ポッシュは、急に連れて来られて混乱していたと相手の桃色の髪の毛を2つに結った赤い目をした若い女性に話をしていた。彼女は聞き上手ですっかり話し込んでいたが、我に返って帰ろうとするもカルミア嬢よりも小柄な彼女に寄りかかられ、自身とは体重差があるはずなのに、気が付いたら自然と一緒にベッドへ寝転んでしまう…





「おいら、どうしたらいいんですか?」


「全て私に任せてくれたら大丈夫よ」


 ビビは桃色の髪の毛が背中の長さまである赤い目をした若い女性に緊張していた。彼女は緊張をほぐすように、ベッドに置いていた手のひらに自身の手を重ねるよう絡ませていた。カルミア嬢よりも背の高い女性に逃げ出したかったはずだが、気が付いたら正面から抱きしめられるような姿勢になっており、包まれるような柔らかさと甘い香りに他のことが考えられなくなっていく…





 待合室から、彼らを見送った後は自身はそのまま、帰宅する。用意された部屋では、純情を貫いて断るか今回の経験を糧にするか、それとも欲に溺れてしまうかは分からないが彼ら次第だろうと思う。

 今回、ブル教が出資している娼館で場を用意してもらい、女性経験を積む機会を用意しようと思ったのだ。姿をある程度変える魔道具があり、可愛らしい顔立ちは化粧でなんとかなり、あとは若い女性であるが初めて王都に来たような地方出身の青年の相手に慣れている人をお願いした。

 その際、2枚も所持していた聖金貨を使用した。扱いに困っても売ることは出来ないコインを寄付という形で1枚を提供して便宜を図ってもらったのだ。ブル教の大主教からは、聖金貨を御神体の1つにすると熱烈に歓迎され、今回の高級店の数十年分の年間フリーパスを与えられそうになった。それを聞いて、風呂付きだけでも魅力的だったが、毎日娼館に出入りしているのを知られると自身の評判が終わってしまう。さらに、プレイ付きだとするとその欲に溺れてしまう可能性があり、自身の分は断ったのだ。


 女性慣れしていない彼らにとっては荒療治になるかもしれないし、逆に夜の女性に熱を上げて金銭面で破滅をするかもしれない。または、いきなり高級店の女性に相手をしてもらったため、少々のサービスでは満足出来ない体になるかもしれないが、貴族のお嬢様に近づいて物理的に存在が消えるよりもマシと思ってしまう。

 それに、彼らは何となく過去の自分のような気がして、もし過去の性欲に支配されていた頃の自分が知人に高級店を奢られると案内されるとしたら、ホイホイと付いて行ってそれもまた良い思い出になったのだろうと考えてしまう。



 翌日の早朝、歓楽街の入り口付近で立って待っていると、向こう側から歩いて来る人影が見える。朝焼けに背を照らされて影が伸びる4人の男たちがそこにいた。

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